窮地を越えて
義足を破壊されピンチになるオーディスワイア。
彼の窮地を助けたものは──
──次の瞬間、俺の横を影が鋭い勢いで飛び出して来た。
すると倒れた俺を攻撃しようとしていた犬亜人が二体とも弾かれるように吹き飛んだ。
胸元を引き裂かれた犬亜人が倒れ込む。
「オーディス団長!」
若い男の声──
立ち上がりながら声のする方を見る。
「かっ、カムイか?」
「はい!」
篝火を背にした男の顔は暗くて見えなかったが、その輪郭は確かにカムイのものだった。
「どうしてここに」
「それよりも早く後退してください!」
そう言いながらカムイは近づいて来る犬亜人を容赦なく斬り裂く。
その手にはカムイの為に造っておいた魔剣が握られていた。
「ここは俺やレンネルに任せて!」
レンネルも来ているのか……そう思っていると、離れた場所から槍を持った少女も姿を見せた。
「私もいるよ!」
そう言ってエアネルが前線に飛び出し、レンネルと共に敵を次々に倒していく。
彼女は俺が造った魔法の槍を手にしている。
前線に居る最後の戦狗二体が同時に倒れた。
レオとリゼミラが討伐したのだ。
「さあ早く後退して!」
レンネルが俺の義足を見て叫ぶ。
敵の軍勢は戦狗という切り札を失って、その攻める勢いは落ちているようだが、まだ後退するまでには至っていない。
仲間達が死力を尽くして戦い続ける姿を見ながら、俺は二人の猫獣人に担がれるような格好で、天幕のある拠点へと戻された。
「ありがとう。すまない」
俺は自分の荷物の側に腰を下ろすと、荷袋をあけて中から足板と工具を取り出す。
まさか本当に使う事になろうとは。
幸い外側の足板だけが断ち切られているので、交換するのにそれほど時間は掛からない。
二人の戦士は俺が義足の修復を始めたのを見てすぐ、戦線に戻る為に天幕を出て行った。
俺は義足を取り外すと急いで壊れた足板を取り外し、新しい足板のバネの反発力を確かめ、一つ一つを丁寧に取り付ける。
(それにしてもまさかカムイ達が助けに来てくれるとは)
間一髪のところだった。
疲労が頂点に達し、集中力を切らしてしまった。
背嚢から回復薬を取り出すと、それを飲み干す。腰に付けた物入れにも新たな回復薬を入れて立ち上がる。
旅団の仲間も応援しに来てくれた事だし──今回の戦いに勝利し、一気に敵の本陣へと迫るのだ。
犬亜人を支配していると思われる犬狼の王がどんな奴かは知らないが、そいつが混沌の力を持っているのはおそらく間違いない。
たった一匹の王(混沌)によって作り出される犬亜人の複製。
全てはそいつの存在に集約されているはず。
この戦争の趨勢を決める戦いが、今まさに行われている。疲れているなどと泣き言を口にしている場合じゃない。
決意を固めると俺は天幕を出て、再び戦場へと戻る為に駆け出して行く。
義足の調子は万全だ。
身体の疲れは──もう気にするのを止めた。
この戦いが終わったら、気の済むまで休養を取ればいい。
小獣人が弓矢で敵の集団に向かって矢を放ち、次々に犬亜人を打ち倒す。
俺も猫獣人や兵士の間を抜けて前線に辿り着くと、そこでユナと出会った。
「ユナ! 来ていたのか」
「オーディスさん! ──無事でしたか」
ほっとした様子を見せるユナ。
この子が居るという事はメイも来ているのだろう。
「メイなら前の方で戦っています」
そういえば前線の方がやけに騒がしい。
ただの剣戟の音だけではなく、人々の驚愕の声がときおり響き渡り、うおおぉお──といった大きな歓声が波の様に押し寄せてくる。
俺はユナの肩を叩くと前線に向かって進んで行く。
そこには暗闇の中で銀色の閃光が右に左にと高速で動き回りながら、次々に犬亜人共をぶっ飛ばしている。
「うぉおおおっ!」
その少女の働きに、恐るべき強さに、仲間達の間からも畏怖と歓喜の入り交じった感嘆の声が漏れていた。
メイは銀色の胸当てと肘当てなどを身に着け、素早い動きで戦場を駆け巡る。
手に付けた飛竜の手袋で敵を殴りつけ、気を打ち込む衝撃で犬亜人を打ち倒す姿はまさに小さな鬼神といった存在感だ。
ときに蹴りを打って犬亜人を吹き飛ばすと、豪快に群れを薙ぎ倒していく。──まるで蹴り飛ばされた犬亜人がボウリングのピンを薙ぎ倒すみたいに。
俺は心の中で「ストライク!」と叫んだ。
彼女なら一人でも負けはしないだろう。それに彼女の後ろには、強力な魔法を使えるユナが居るのだ。
俺は横に回り込むようにして近くの犬亜人に斬り掛かった。
「おっと」
ところがその犬亜人は顔面を引き裂かれ、地面に倒れ込むところだったのだ。
「オーディス団長」
そこに居たのはエウラだった。彼女は異界の魔剣を手に、近寄って来る敵を引き裂きながら俺と背中を合わせる。
「無事だったんですね」
「ああ、義足を破壊されてしまってな。少し後方に下がって修理していたんだ……っと」
剣を振り上げて襲ってくる犬亜人の剣を弾き飛ばし、返す刃で首を刎ねる。──体に馴染んだその動きは、冒険者時代に散々行ってきた動きだ。
もはや格下の相手には無意識に反撃できるくらいだ。
「疲れているのでは?」
エウラは敵を斬り倒しながら背中越しに訴える。
「ああ……かなり。でも薬も飲んだし大丈夫だ」
腕や足の筋肉疲労も薬の効果でだいぶ穏やかになってきた。
肉体的な疲れはなんとか誤魔化せそうだ。──後々の事を考えると少々怖いが仕方がない。
「ここで敵を山脈まで押し込み敵陣を攻め落とす!」
俺は大きな声で宣言し、仲間達はそれに応え、大きな鬨の声を上げて敵の戦列に襲い掛かって行く。
そろそろこの章もラスト間近。
次話は水曜日に投稿予定です。




