再会と初対面
そこから俺は鍛冶場に入り浸り、敵の侵攻が来た時にはリゼミラ達が迎え撃った。
管理局の連中は毎日毎日、監視飛翔体を飛ばしては敵陣と、その後方の索敵をしていたが、これといった進展はなく──数日が経過した。
時に猫獣人の兵士と訓練し、また猫獣人の鍛冶師に錬金鍛冶の技術を教え、鍛造した剣や槍に能力付与を行ったりしながら、一週間近くが経った頃。
鍛冶場で猫獣人の鍛冶師に指示を出していると、「蒼髪の天女旅団」の槍使いアラストラが中央陣地にやって来た。
「よぅ」と、精悍な顔つきのアラストラが鍛冶場に挨拶しに現れたのである。
「おお、アラストラ。あんたもこっちの戦いに参加していたのか」
「ああ、オーディスワイアやリゼミラ、レオシェルドの名前は西の防衛陣地にも音に聞こえていたぞ。あのアディーディンクも来ているそうじゃないか。『金色狼の三勇士』復活だな」
「おいおい止してくれ。俺は戦争だから仕方なしに参加しているだけであって、ほとんどの戦闘には参加していないぜ」
彼に話を聞くと、ヴォージェスと共に中央に集まるよう言われ、管理局の報告を聞く事になったのだと言う。
「あんたも指揮天幕に来るよう言われてるぞ」
そう言ったアラストラの背後には、猫獣人の伝令らしい若者が立っていた。──どうやら俺がこの陣地に居るというのを聞いて、会いに来てくれたようだ。
アラストラは俺が造った銀鎧竜鉄鋼の魔法の槍を背負い、厳つい見た目をした黒銀鉄鋼製の鎧を身に着けている。
ここまで強そうな見た目の戦士もなかなか居ないだろう。その身体からは威圧的なものを押し殺したみたいな空気がぴりぴりと、まるで静電気の様に感じられた。
俺は鍛冶師に指示を出し、この場を任せるとアラストラと共に指揮所へ向かって行く。
指揮所の天幕には、初めて見る猫獣人の姿もあった。
それは立派な黒髭を生やした人物で、鋭い目つきをしているので、猫と言うよりは豹に見える風貌をしている。
全体に黒い毛に覆われているので、黒豹の印象を受けたが──豹にしては、ややぽっちゃりさんだ。
「よく集まってくれましたにゃ」
ナンティルは革の鎧を身に着けた姿でテーブルの奥に立っている。
その隣には管理局の職員が一人立っていた。
地図を置いた大きなテーブルを挟んで、人間と猫獣人が向き合う形……
と思っていたら、奥には小獣人が二人立っていた。ヴォージェスの陰になっていて見えなかったのだ。
ヴォージェスはこちらを見ると軽く手を上げ、俺も挨拶を返す。
「こちらは東側の陣地を指揮しているバーンズ将軍にゃ」
と、太った黒豹みたいな猫獣人を紹介し、その部下を数名紹介したが、「将軍」以外はそんなに戦えそうな見た目はしていない。
次にナンティルは、この拠点を守っている小獣人達。そして俺とヴォージェスらを紹介した。
どうやら人間側は俺とヴォージェス、アラストラの三人が呼ばれたらしい。
アラストラと俺の名前が呼ばれるとバーンズ将軍は、アラストラという武人の働きは耳にしていると告げる。
「オーディスワイアという名前はどこかで耳にした記憶があるが。……はて、この戦いの中ではとんと耳にした覚えがない」
「そうでしょうにゃ。彼はこの戦列に加わってまだ一週間くらいしか経っていませんにゃ。しかし、オーディスの戦績はアラストラ殿の武勇に迫るものがあるでしょうにゃ」
ちなみにバーンズ将軍がオーディスワイアの名を耳にしたのは、おそらく女神アヴロラに贈られた生命の杖での件でしょう。ナンティルがそう言うと、将軍は「おお、確かにそうだ」と俺に改めて視線を送ってきた。
「あの杖を献上したという男か。なるほど……ん? 鍛冶師だと聞いていたが、戦士でもあるというのかにゃ?」
「ええ、まあ……」
黒い外套を羽織った将軍はじろじろと不躾な感じで俺を見ている。
「さぁさぁ、共に戦うフォロスハートの戦士を疑うような事のないように。
──それでは今度の事についてお話させてもらいますにゃ」
ナンティルは手にした棒で地図を指し示す。
管理局が監視飛翔体で発見したという、犬亜人の出入りする洞窟について説明する。
地図にはすでにいくつか黒い丸が印され、その内の一つが赤色で印が付けられていた。
「この赤色の場所は、奴らが住み着いている洞穴がある場所を意味していますにゃ。この洞穴の中で、混沌の力によって犬亜人の複製が作られている可能性が高いと、管理局の偵察で明らかにされましたにゃ」
そう言って管理局員を前に出させる。
「我々は、監視飛翔体を使って上空から観察し続け、大勢の犬亜人が出現する洞穴を割り出し、そして彼らが睡眠するであろう時間を狙って、監視飛翔体を洞穴の中に侵入させました」
おおっ、と周りの男達から野太い驚嘆が漏れる。
管理局員の話によると、飛翔体に「姿隠しの魔法」を掛け、洞窟内部に侵入し、奥にある石の玉座を発見したという。
「洞穴内部の地図も作ってあります。玉座に座る者の姿も確認しました。奇妙な狼の様な姿をした、黒い革鎧を身に着けた人が首領のようです。
この首領は──その……おそらくですが、なんらかの被り物を頭から被っていると思われます」と説明する。
「人? 犬亜人ではなく?」
「それが……断定は出来ませんが、おそらく犬亜人ではないようでした。人か──と言われると、それも分かりません。外見は人に近い……としか」
被り物をした犬亜人の首領……? そいつが混沌の力を持っているのだろうか? そうした疑問をぶつけてみた。
「それは──分かりません。この『犬狼の王』に関してはどのような存在かは不明ですが、立場的に見て、混沌に近い存在なのは間違いないと思われます」
ざわざわと言葉が交わされる天幕の中で、ナンティルはにやりと口元を歪ませる。
「この『犬狼の王』がどうやって犬亜人の複製を生み出しているかは不明にゃが、敵の首領というのはまず間違いないにゃ。そこで私達は──今度やつらが攻めて来たら、それを排除し、その後すぐにこちらから攻め込んで、一気に山脈の入り口にある奴らの防衛拠点を攻略しようと思うにゃ」
彼女はバーンズ将軍を見てから、周囲の指揮官らに視線を送る。
「……ふむ、なるほど。確かに奴らの攻撃を退けた後は、しばらく攻めて来なくなるからにゃ。その時間は連中が複製を生み出そうとしている時だと考える訳だにゃ?」
将軍の言葉に頷くナンティル。
その他の指揮官も頷き合い、俺も黙って大きく頷いて見せた。
「決まりにゃ」
そう言うと彼女は全指揮官に、各陣営の行動について詳しい作戦内容について打ち合わせを始めた。
俺はそれを黙って後方から見ていたが、唐突にナンティルはこちらを見て、こう告げた。
「──洞穴までの進軍は今の作戦どおりにゃ。しかし洞穴の内部はそれほど広いものじゃないにゃ。だから洞穴の内部に侵入し、犬狼の王を討伐する役目は、オーディスワイアの選出した少数の戦士のみで行ってもらうにゃ」
犬狼の王と名付けられた奇妙な敵のボスらしき存在。
これがどんな奴かは……
外伝に投稿した「武闘大会編」(全八話)も投稿済みです。そちらもよろしくお願いします。




