混沌の調査
ただいま「外伝」にて武闘大会の話を投稿中。そちらも読んで感想や評価をもらえたら嬉しいです。
翌朝に犬亜人の死体を確認しにナンティルらと共に足を運んだ。
リゼミラとアディーディンクも来ていたが、レオシェルドは拠点にて猫獣人の戦士と訓練をしている。
陣地から離れた地点に行くと、三ヶ所に分けて置いた十五体の死体は、四体を残して──十一体が消えていた。
「おいおい、まじかよ」
「このまえ確認した時には、三十体のうち七体が消えたにゃ。どうやら奴ら──混沌の方が多くなっているようにゃ」
残された犬亜人の死体を、戦場となる場所に運んでいる兵士らが死体の半数近くが消えたと認識しているらしい。
戦場に投棄した死体は何ヶ所かに集めて置かれ、油が掛けられている。──そう、犬亜人が攻めて来たら、奴らのお仲間の死体に火矢を放ち、纏めて一掃するのだ。
「それにしても本当に半数が混沌の生み出した複製体だとしたら、もう犬亜人の連中は、混沌に支配されていると考えていいだろう。早く奴らの拠点を見つけ出し、制圧に行かなければ」
「分かってるにゃ。フォロスハートの管理局から来た職員が、監視飛翔体で探ってるところにゃ。きっと奴らの増殖している場所を見つけ出してくれるはずにゃ」
俺はほとんど無意識に「戦狗という奴が複製され始めたら厄介だな」と呟いた。するとナンティルは首を横に振る。
「それなんだけれど、戦狗を倒して鎧や武器を剥ぎ取った死体は、翌日には普通の犬亜人の死体に変化するらしいにゃ」
「ん……つまり、混沌の力によって強化された犬亜人しか戦狗になれない、という事か? なら、犬亜人が全滅すれば戦狗が登場する事はなさそうだな」
それに、全ての犬亜人が「戦狗」とならないらしいところをみると、なんらかの条件に合う個体しか、混沌による強化を受けられないのだろう。
消えた死体は影も残らず何もかも消え去っている。──完全に初めから居なかったかのように消滅しているのだ。
本当にそこに死体が置かれていたのかと思うほど跡形もない。
それがこの戦争の不気味さを表していた。
ただの犬亜人との戦いなら、きっとここまで総力戦になっていない。聞いた話だと奴らは凶暴ではあるが、積極的に猫獣人の住んでいる場所まで襲撃して来るような事は、今まで一度もなかったという。
混沌によって南へ向かい、敵となる猫獣人や小獣人の住む領域へ攻め入るよう、促されているのだろうか。
だがおそらくそれだけではない。
犬亜人が金属製の武器や防具を身に着けるようになったのは、混沌がそうした金属の加工に関する知恵を与えたからだと思われた。
そこには何やら混沌とは違った、人間的意識が介入しているのではと感じる。
幸い連中の身の着けている武器や防具は、他の混沌領域で見られるような、強力な武具ではない為、脅威とはならないが。
「管理局には早めに敵の拠点を探り当てて欲しいものだ」
「すでにいくつかの洞穴の場所は探り当てているらしいにゃ。あとは、そのいくつかの洞穴が犬亜人の複製を生み出しているか、それとも他の場所にある洞穴かを探るだけのはずにゃ」
なら何ヶ月も掛かるという事はないだろう。
混沌が犬亜人に手を貸しているような状況は不気味で、このままではパールラクーンの大地に深刻な災禍を残す事になる。
ここで一気に犬亜人もろとも混沌を排除する他はない。
犬亜人が人間に敵意を持たない種族であったならいいが、狂犬と変わらない奴らに同情はしない。混沌に取り込まれようが、混沌に道具として使われていようが。──もうこうなったら徹底的に戦うしかないのだ。
言葉の通じぬ相手に情けを掛けても仕方がない。狂暴で野蛮な犬亜人を駆除する戦い。数で押し寄せる敵に容赦などしない。
俺はナンティルに頼まれるままに砦の鍛冶場に行き、そこで猫獣人の鍛冶師を相手に、錬金鍛冶を使った武器の作製などを教える事にした。
砦に設置された鍛冶場の炉は二ヶ所あり、一つは犬亜人の粗末な装備品を溶かし、鉄や銅の延べ棒に精製する作業に使われている。
不幸中の幸いで、犬亜人の装備品を奪い取れるので、金属の入手には困っていない。奴らを押し返し、奪われたヘルフェルト霊山などを奪還できれば、金属や霊晶石の入手も増えるはず。
この砦には精霊石などの素材も多く蓄えられており、猫獣人達に必要な武具を作るのには困らなかった。
しかし──正直かれらの鍛冶師としての能力は、フォロスハートの平均的な鍛冶師よりも劣っている感じだ。
錬金台を使った錬金術による強化付与も、どうもいまいちな結果しか出せないでいるらしい。
「──よし、まずは基礎を学ぶところからだな」
彼らの怠け癖をここで叩き直す必要を感じる。
「キリキリ学んで戦士達の力になれるようがんばろう!」
俺は中年と若い猫獣人を鼓舞したが、どうも返事に気力がない。──たぶんいつもは気ままに活動しているのに、戦場の砦に駆り出された事で、一ヶ所に留まって行動の不自由を強制されているのだ。
「この戦争を早く終結させる為に、君らの努力が必要だと考えなくては。いい武器を作ればそれが戦士達を支え、勝利に近づくんだ。……大変だけど頑張ろうな」
若者の一人は「はい」と返事するが、年寄り連中は肩を竦めるようにして心ない同意を示すだけだ。
これが種族の違いというものか……
俺は彼らの危機感のなさを叱るのは諦め、ともかく一つ一つの作業をきちんと、効率よく行えるよう考えながら作業させるやり方を教え込んだ。




