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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第九章 パールラクーンを巡る戦い

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戦闘の終了

激しい戦いを生き抜いて、英雄に祭り上げられるのは誰か?

レオシェルド、リゼミラ、アディーディンク。そしてオーディスワイア……

彼らのうち誰が、敵軍の脅威となったのか。

 戦列の後方に下がりながら、腕の感覚を確かめる。

 後方には守備部隊が控え、防衛拠点との間に敷かれた補給部隊が数名居た。人数不足はむを得ないが、後方で倒れている兵士は数人しか居ない。

 ここで踏ん張らなければ戦列は崩壊し、拠点にある砦に逃げ込むしかならなくなるのだ。それはある意味では敗北に直結する。


「お薬を」

 後方に居た治癒師が声を掛け、腕に薬を塗ってくれた。疲れた筋肉から強張こわばりを取る薬だと説明する猫獣人フェリエス

 どうやら今までの戦闘でも、筋肉の疲労を訴える戦士が何人も出たらしい。

 彼女らは懸命に働き、薬を塗った後に俺の背中に手を当てると、気を流し──俺の疲労を取り除こうとする。


「助かるよ」

 まだ少女に見える猫獣人の治癒師は、戦う力はなさそうだが、この少女は気の扱いに長けていた。

 彼女ら(フェリエス)が「けいの輪」と呼ぶチャクラの力を増幅し、俺の筋力を回復するのを手伝ってくれた。

 猫獣人は気の制御に長けた人材が多いのかもしれない。

 体内に流れる気脈に大きな力が流し込まれ、体力と筋力の疲労を拭い去る。


 回復薬も口にして一休みすると、腕の筋力が回復したのを確認し、再び戦場に向かう。

 俺と入れ替わる時機タイミングでリゼミラとレオが後方に下がっていったらしい。アディーに声を掛けると、この魔法使いの表情にも疲労の色が見えていた。

「す、すみません。少し後退します……」

 魔力も精神力もかなり消耗したのだ。仲間に強化魔法を掛け、さらに攻撃魔法も何度も使用していたアディーディンクは、一人で数人分の働きをこなしていた。


「しっかり休め」

 俺はアディーの肩を叩き、最前線に向かう。

「気をつけて」

 そう声を掛けられながら、俺は前方でなんとか戦い抜いている猫獣人と入れ替わる。

 戦闘は続いていたが、犬亜人ババルドの攻撃は弱まっていた。

 畳み掛けるように押し寄せていた敵の波に、今では力を感じない。きっと他の場所でも同様に、人間も猫獣人も、そして小獣人エルニスも懸命に戦っているのだ。


「もう少しだ! こらえろ! 奴らは弱気になっているぞ!」

 俺はそう怒鳴りながら、長剣を振りかざして、迫ってきた犬亜人を斬り倒す。

 前に飛び出しながらの、胴体を真っ二つにする一撃。

 体は軽く、体内を流れる勁が俺の戦意を後押しする。

「オオォッ!」

 押し返せと勢いづいた仲間達が声を上げる。

 彼らも疲弊ひへいしているはずなのに、俺が二体、三体と敵を打ち倒すと、彼らも果敢に攻め、その武器を敵の血で染めるのだった。


 暗闇を照らす篝火かがりび

 戦場の上空を飛ぶ攻撃魔法と、投石機から放たれる火のかたまりが敵陣の後方に落下し、前も後ろも、奴らが安心して戦える場所は無い。

「ウラァアァッ!」

 渾身の力で振り下ろした一撃。

 斬破が一体の犬亜人を引き裂いて、その後ろの二体をも引き裂いた。

 体の疲労は消え去り、今の俺は万全な状態で剣を振るえている。


「かかってこい! この野良犬ども‼」

 俺の戦いへの本能がそう叫ばせる。

 圧倒的な気迫を込めた咆哮ほうこうが、犬亜人の前に進む足を踏み止まらせる。

 ここだ──と、俺は感じた。

 冒険で繰り広げた経験から、敵が尻込みし、圧倒できる瞬間がくると分かっていた。

 どんなに恐れ知らずの魔物でも、自分の危険についてまったく無頓着むとんちゃくではない。危険を避ける為に撤退しようとするものも多い。

 退路をふさぎ追い詰めると、激しく暴れて抵抗するものも居るのだ。


「ジャァアッ‼」

 二連撃の斬破を撃ち、一瞬で六体の敵を打ち倒す。

 それも苛烈に、無慈悲に。

 血と内臓が奴らのバラバラになった体からこぼれ落ちる。

 それを目の当たりにした犬亜人が、怯えて数歩後退した。


「俺を恐れろ‼」

 俺は大きな声で吠える。

 威圧的に、殺意を持って。

 犬亜人はさらに数歩、後ろへ下がる。

「俺がお前らの死に神だァッ!」

 殺意を解放し、巨大な殺気の塊となって敵に迫り、恐怖から動けなくなった犬亜人の首から腰まで斜めに斬り裂く。


「ギギィァァッ!」

 恐慌にかられた犬共が俺の前から逃げ去って行く。

 尻を向けて悲鳴の吠え声を上げて逃げ出し、武器も放り投げて走り出す。

 北に向かってぞろぞろと逃げ始めた犬亜人を追い掛け、俺達は一塊ひとかたまりの軍隊となって追撃を開始する。

 ときの声を上げ、敵陣を押し返す。

 人々の力が重なり合って、敵の軍勢を完全に敗北させた瞬間だった。


「おぉおおお──っ!」

 戦いは長く続いていたようで、犬亜人の軍勢が尻尾を巻いて逃走を開始した頃には、空が明るくなり始めていた。山脈の近くから薄紫色の光が見え、それが次第しだいに水色から青色へと変わっていく。

 そうした光景を眺めていると、後ろから声を掛けられた。


「おつかれさん」

 そこにはリゼミラが立っていた。

 そして多くの猫獣人や、フォロスハートの兵士や冒険者達も。

「おう」

 遠くからかなり疲れた様子でナンティルも歩いて来て、軽く手を上げた。

「さすがは『金色狼こんじきおおかみの三勇士』にゃ。見事に役目を果たしてくれたにゃ」

 ん? なんの事だ……そう思っていると、周囲を取り囲んだ仲間達から喝采かっさいが沸き上がった。

 どうもその視線は俺に向けられているようだ。


(しまった──! リゼミラやレオが後方に下がった時機タイミングで敵を壊走かいそうさせてしまったぞ……!)


 これでは俺が活躍したみたいになってしまう。

 すでに敵の多くは、リゼミラとレオシェルドの圧倒的な攻撃力の前に尻込みししていたのだ。そこへ俺が止めの猛攻を仕掛けただけなのに。

「あ、いや……ぉう」

 ナンティルの言葉に力なく応える俺。

 周囲では俺の冷めた気持ちとは対照的に、今度の戦いも無事に生還できた兵士達は興奮した様子で、俺の戦い振りをたたえている。

 俺は仕方なしに剣を振り上げて、彼らの気持ちに応えるのであった……

戦いの高揚感に飲み込まれたオーディスワイア。

彼は仲間を鼓舞し、懸命に戦い──気づけば誰よりも前線で活躍していた(本当はリゼミラの方が敵を倒していたかもしれない)。

期せずして、自分が英雄に祭り上げられてしまったオーディス。

彼の苦労は戦争終結まで終わらない。


次話は水曜日に投稿予定です。

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