戦いの幕開け
登場人物設定と短編を集めたものを投稿してあります。
そちらもよろしくお願いします。
武闘大会でカムイやリトキスが闘うお話も投稿する予定です~(リトキスについては──どうなったかだけの報告)
夕食を取ると俺やアディーディンクは一つの天幕で早めに眠る事になった。
夜になると奴らが攻撃を仕掛けてくる可能性が高いのだ。
レオシェルドもリゼミラも身体を休める事にし仮眠を取った。
数時間の睡眠だ。これから戦うという緊張の中で睡眠を取るというのは、簡単な事ではない。だが俺達は割とあっさりと眠りに就いた。冒険中にも危険な場所で寝泊まりをした事もある所為だろう。
体内の気の流れを調節し、睡眠に就き易くすると同時に、短時間で体力や精神力を回復する方法。こうした技術も冒険者には必要だ。
俺は夢の途中で起こされた。
その夢の中でナンティルが戦っていた。俺はそれをただ眺めているだけしか出来ない。声も出せず、ただ上空から眺めている様な感覚。
彼女は大きな黒い気配と戦っており、黒い霧の様な混沌に包まれると──突如、身体から烈しい光を発した。それは眩い金色の光。
これが女神の力による暴走か? ナンティルの身体は光を放ち、大きな黒い霧の塊を次々に斬り裂いていく。
圧倒的な速さと破壊力。
光を纏った斬撃が離れた敵をも斬り倒す。
光の刃が飛翔する連撃。
一瞬で五発もの斬撃が飛び交った。素早く、苛烈な攻撃。
しかし──彼女は黒い霧を消滅させると、その場に倒れてしまう。……そこで目が覚めた。
「なんだったんだ……今の夢は」
簡素な寝袋の形をした寝所の中で目を覚ました俺は、騒がしい音に気づき、上体を起こす。
しまった、ここは戦場なのだ。
ゆっくりと目覚めている場合じゃない。
「オーディスさん、外が騒がしいですよ。もしかすると敵が攻めて来たのかもしれません」
寝袋の横が開いている為、そこから手を伸ばし、魔剣を掴んで引き寄せる。
足元に置いてある義足を装着している間に、アディーとレオは天幕を出て行ってしまった。
「落ち着け……まだ慌てるような時間じゃ……」
そんな言葉を自分に言い聞かせながらも、天幕の外から聞こえてくる声に耳を欹てる。
しっかりと義足を固定したのを確かめると、軽硬合金の胸当てと籠手を身に着け立ち上がり、天幕を急いで出た。
外はまだ夜だ。
しかし陣地の周囲には篝火が焚かれ、煌々と辺りを照らし出している。
「おそい」
アディー達の側に居るリゼミラが俺に言った。
「すまん、状況は?」
離れた場所から空気を殴りつける様な音が聞こえてくる。どうやら投石機から岩や何やらが放たれているようだ。
「オーディス──と、その仲間達も出番だにゃ」
駆け寄って来たナンティル。
彼女の指揮の下、投石攻撃が行われ、次々に投石機が呻りを上げて攻撃を続けていた。
犬亜人が攻めて来る方向から、大きな爆発音が響いてきて、投石機に爆破弾が積み込まれているのだと理解する。
「爆破弾、うまく機能しているみたいだな」
「にゃ。今のところ問題ないみたいにゃ」
と、そこへ猫獣人と人間の兵士が近づいて来た。
「指揮官。そろそろ守備隊と敵がぶつかります!」
「前線の防衛は整っていますが、数が数なので」
そういえば、部隊長をやっているという話だったが……
「指揮官なのか」
「この基地を守る兵士達を纏める役割にゃ。さっそくにゃけど、オーディス達にも戦いに参加してもらうにゃ」
そう言ったかと思うと、ナンティルは前線に早歩きで向かう。
「よし、俺達も……って、おい」
二人の戦士はあまりにやる気まんまんなのだ。
その姿は敵陣に襲い掛かろうとしている獣の様。爛々目を殺意に燃やし、身体から放たれる気配は──殺意が冷たい刃を象るみたいに、彼らの周囲を包んでいる。
「おいっ、少し落ち着け、二人とも」
俺は手を「パアンッ」と強めに鳴らして、冷静になるよう訴えた。
「へいきだよっ、落ち着いてるって。なぁ? レオ」
「ああ」
確かにその気迫は鋭く、集中している様子だ。
暴力的な気配とは違った──衝動的なものとは違った──戦闘への意欲みたいなものを感じる。
「──よし、分かった。ともかく……なんだ。俺達は冒険に出ていた時のように、互いの身を案じながらも目の前の敵を排除していこう。アディー、その辺は頼むぞ」
杖を手にした大魔法使いが頷く。
「任せて。攻撃もするけれど、皆の支援もばっちりするから」
やや緊張した面持ちのアディー。
敵の数が数なだけあって、いつもの冒険のようにはいかない。
「俺も以前のように全力でいくぜ。この魔剣もその為に造ったんだからな」
よし、いこう。
そう呼び掛け、俺達は裂帛の気合いを込めて咆哮した。
緊張との決別。
「いくぞ‼」
そう言って犬亜人の喚き声が聞こえる前線に向かって駆け出す。
暗い空に光るいくつもの光──それは星か?
大きな輝きがちらちらと輝く夜空。
フォロスハートで生きる事を決意した俺が、パールラクーンで死ぬ訳にはいかない。
俺の中で戦いへの衝動が沸き上がる。
そして俺の中に忍び寄る恐怖を感じる。
それを振り払おうと俺は、音楽を口ずさむ。
────それは、俺が以前いた世界で聞いていた曲。
激しい六弦琴の音型。
これからの戦いを彩る、俺にとっての軍歌みたいな音楽。
自分の内から襲い掛かる恐怖を消し去る、HMの鼓動。それをまるで福音のように思い出す。
北欧神話の戦乙女が見守るであろう戦場に赴く戦士達。その心境が理解できる気がした。
この戦いに死すとも、俺は仲間の為に命を擲って勝利に貢献するのだ。
それは誇らしく、神々に対しなんら恥じる事がない。死の中に落ちようとも、自身の魂に潔白であったと胸を張って死ぬ。それだけだ。
「もっとも、死ぬ気なんてないけどな」
俺は俺の中に大きく膨れ上がる音楽の鼓動を感じながら、戦場に向かって駆け出した。




