中央神殿へ戻る
「それなら、中央神殿都市に向かう荷車に乗って行くといいでしょう」
ミリスリアが空を指し示した。
「今からアーカムに向かえば、夕暮れ前には着けるはず。そこで一泊し、体を休めてから北にある防衛陣地に向かうべきです」
確かに、今日は戦いで疲れが溜まっている。──少なくとも俺は。
「そうですね。向こうの宿屋にでも泊まる事にします」
俺がそう言うと彼女は、「ここの防衛は私達に任せてください」と微笑む。
彼女の後ろにはエスクアも控えていた。彼女は鞘に収まった魔法の剣に手を掛け、ゆっくりと無言で頷いた。
「では荷車を手配いたしましょう」
ミリスリアはすぐに下士官様な小獣人に声を掛け、馬のある場所に案内するよう言う。
リゼミラは乗って来た馬をここに預け、俺達と同じく荷車で中央神殿都市に向かう事にしたようだ。
ミリスリアとエスクアに話を聞きながら、停留所まで歩いて行く。
荷車には小獣人の護衛を付け、彼女らの(驢馬や小馬の)騎兵に守られながら西へ向かって移動を始める。
ミリスリアの話では、すでに新たな防衛陣地を、この前線基地より西に作る予定であるらしい。
そこにも兵士を常駐させれば、ラクシャリオまで侵攻される危険は減らせるだろう。
撃火魔砲による砲撃支援も期待できる為、新たな防衛拠点が完成すれば、敵の侵攻を食い止めるのが楽になるはず。
「あたしはまだ戦い足りないね」
不意に発したリゼミラの言葉に、レオが黙って頷いてみせる。
「お前らは現役だからなぁ……俺は正直、疲れたよ」
俺の言葉に賛同したのはアディーディンクだけだった。
道なき道を進む荷車。
小高い丘と林の間を抜けて、黄土色の地面が見える場所に出た。──そこは整地された場所で、数十人の小獣人と、数機の機動鎧が集まって作業していた。
切り出した大きな岩を運び、砦を造ろうとしている真っ最中らしい。
遠くに見える彼女らの姿。一所懸命に働き、砦や砦を囲む壁を造り出そうとしている。
「皆、自分の生活を守ろうと懸命だ」
俺も、彼女らの生活を守る為に頑張らなければ。
神殿都市アーカムを囲む高い壁が見えてきた頃、空はだいぶ暗くなってきた。日が連なる山脈の壁に沈んでいく。
篝火で照らし出された門が見え、そこに向かって進む荷車。
俺達を迎え入れてくれたのは周囲を警戒する猫獣人の戦士達と、神殿に仕える神官だった。彼らは女神アヴロラの指示を受け、俺達が来るのを待っていたのだ。
「宿泊施設をご用意してあります。こちらへ」
荷車は物資保管所に運ばれて行った。
俺達は神殿にほど近い大きな貴族的な建物に案内され、部屋に通されると──食事と風呂を提供された。この建物は貴族が住んでいた建物であったらしく、内装は豪華で装飾品や調度品なども高級感に溢れている物ばかりだ。
「どうぞ気兼ねなくお使いください」
一人一部屋を与えられ、柔らかい寝台で身体を休める事が出来そうだった。──食事の前に俺達は大きな浴場で体の汚れを落とすと、これまた大きな食堂に案内された。
──そこには先に来ていたリゼミラが居て、彼女は先に食事を食べ始めている。
食事を用意してくれる猫獣人の侍女や料理人は居るが、この館の主人の姿は見当たらない。
あまり詮索しても仕方がないので、俺達は食事を与えてくれた彼女らに礼を言い、談話室に集まって明日の予定を立てておく。
「最前線に行けば、そう簡単に戻っては来られないだろう。気を引き締めて行こう」
「相手が混沌だろうと犬亜人だろうと、あたし達には関係ない。誰だろうと叩きつぶすだけさ」
「明日こそ、この太刀の本領を見たいものだ」
二人の戦士はやたらと気合いが入っている。そんな二人を前に、俺とアディーディンクは溜め息で応じる。
「明日、戦場に出るといっても、すぐに戦いになるとも限らないだろ。あまり気を張り詰めるな。疲れてしまう」
そんな感じで二人の戦士を宥めながら、ともかく最前線に押し寄せて来る犬亜人の群れを見て、対抗策を講じなければならない。
すでに最前線で戦うナンティルには投石機などの改良案は伝えているが、すぐに実戦配備される訳ではない。しばらくは今まで通りの兵装で戦いを続けるしかないのだ。
何より気になっているのは、犬亜人の戦士「戦狗」の事だ。そんな新手が現れるとは。
戦い慣れていない猫獣人の手には余る相手かもしれない。だがリゼミラやレオシェルド達なら問題ないはずだ。この二人が実戦で相手をしてきたのは手強い魔物や混沌の尖兵など、強力で巨大な相手ばかりだった。
俺だって現役時代には、とんでもなく大きな体を持つ敵にも挑み掛かり、勝利していたものだ。
いまさら体長二、三メートルの敵にビビっていられない。
この新たな武器「魔剣」を使って剣気の技を連続で使用し、敵を打ち砕く。それしかない──
戦場での戦いに備え、俺達は戦いで疲れた体を休め、早めに睡眠をとる事にし、寝室へと向かった。




