戦場へ向かうか否(いな)か
ブックマークと高評価に感謝して早めの投稿。
次話はいつもどおり日曜日に投稿します。
「え? 最前線へ? う──ん」
キャスティとアウシェーヴィアの二人に、中央神殿の北側にある戦場へ行かないかと誘うと、キャスティは考え込んだ。
アウシェーヴィアはどちらでもいいと考えているのか、表情や態度に変化はない。むしろリゼミラが戦場に向かうのなら一緒に行ってもいい、くらいの考えなのかもしれない。
「そりゃぁ早く犬亜人どもを撃滅して、小獣人も猫獣人も安心して暮らせるようにしてあげたいけど。今は小獣人の国を守る拠点を護衛してるからなぁ……」
お、そうだと思い出し、荷物の中から二つの装飾品を取り出す。
「キャスティにはこれをやろう」
そう言って青玉の付いた銀の指輪を差し出す。
「なにこれ」
「魔力回復速度上昇など、魔法を使うのに効果的な能力を付与した指輪だ。使ってみろ」
何度か指に嵌めたり外したりしながら、人差し指に付ける事にしたようだ。
「アウシェーヴィアにはこれを」
素朴な革紐に結んだ銀と紅玉の首飾りを手渡す。
「これにも魔法の持続効果を高める効果や、筋力の負担を軽減する力などが付与されている」
「ありがとう」
彼女は素直にそれを受け取って、首に掛けてキャスティに見せる。
「なんで私のには紅玉が付いてないの」
魔法使いは不満そうに口にする。
「付与したい効果が違ったからだ。お前が赤まみれなのは知っているが、青玉との相性がいい効果を多く付与してあるんだ」
むう──と、むくれるキャスティ。この女の赤色に対する執着は、一種の病気なのかもしれん。
レオとキャスティが向き合い、この防衛拠点はどれくらい戦えているか、といった話し合いをしている。
キャスティが居なくとも、エルニスの機動鎧があるお陰で、かなり優勢に戦えてはいたらしい。
「それでも敵の数の多さと、でっかい犬戦士の投入の所為で、かなり苦戦しているけどね」
「大きな戦士?」
「そうだよ。二メートルを超える巨体の奴で、鉄の鎧を着込んだ奴。動きは遅いけど打たれ強いし、攻撃力が高くて手強いよ。正面から戦うのは避けて、魔法で攻撃するのがいいと思う。それでも倒すのに苦労するけど」
それを聞いたレオの顔には「戦ってみたい」という想いが読み取れた。
巨漢の犬亜人戦士は、猫獣人と小獣人の間で「戦狗」と呼ばれているらしい。
さらにキャスティが口にしたのは、エルニスという種族の可愛らしさについてだった。どうやらこの女は本気で小獣人が気に入り、彼女らを守る為に戦っているらしい。
昔から可愛いものに目がなかった女だ。
小動物や鳥(梟)など、そんな人形も持っていたはず。
「お、そういや──お前はどこか旅団に入っているのか? どこを探してもお前とアウシェーヴィアの居場所が分からなかったんだが」
するとキャスティが首を振った。
「ううん、わたしたちは旅団には入ってないよ。金色狼を抜ける時に、わたしとアウシェーヴィアだけで冒険に行くと考えたの」
組織活動を面倒だと考えるような奴ではなかったはずだが、二人で行動すると決め、それを実践し続けてきたらしい。
「金色狼を抜けてしばらくはフォロスハートの転移門を巡っていたけど、パールラクーンの方で冒険できると知って、いつからかパールラクーンを冒険したり、あっちの転移門を使って冒険したりしてたのね」
「へえ──。向こうの転移門を使えるようになったのか」
管理局とパールラクーンの間で、そういった交流についての取り決めが決定していたのか。
ちょっと前までは、パールラクーンに来る許可が下りるのも難しかった。
「ま、こっちの転移門を使って手に入れた物の多くは、フォロスハートと同じく、パールラクーンの管理局に購入という形で徴集されるんだけどね」
「ほうほう」
どちらにしても、互いの利益に繋がるはずだ。
パールラクーンが栄えれば、フォロスハートもその恩恵を受ける。
現に今は犬亜人の侵攻を受けて、様々な素材が手に入り難くなっている。パールラクーンの管理局に買い取られた物の一部は結局、フォロスハートにも回ってくるのだ。
互いの管理局同士が物品の取り引きを行っているはずだから。
「まあ、こちらの──シュナフ・エディン側の防備が整い、わたしたちが居なくても犬亜人の侵攻を食い止められたり、奴らの侵攻が減ったら、手を貸してあげるよ」
キャスティはそう言って、今はまだこの拠点の防衛に当たるつもりでいると話した。
……仕方がない。
キャスティとアディー、二人の強力な魔法があれば、最前線での戦いにも圧勝できると思ったのだが。──それに、犬亜人の巨漢戦士の事も気になる。
危険な相手になりそうだ。
以前の──冒険していた頃の俺なら、白銀騎士や魔牛人との戦いで馴らした経験がある。例え大きな体に鎧などで武装していたとしても、恐れる事などないのだが。
……いつの間にか、自分も最前線で戦う意思を固めていたようだ。自分でも気づかぬ内に、犬亜人をなんとかしなければならないという──使命感のようなものを抱いていた。
女神アヴロラや友邦パールラクーンの民の為にも。
フォロスハートにとってもパールラクーンは重要な、必要な相手だ。ただしそれは、危険で獰猛な犬亜人ではなく、対話の出来る猫獣人や小獣人達の事だ。
「しかも今回の件は、どうやら混沌が関わっているらしい」
俺が呟くと、キャスティも頷いてこちらを見る。
「そうだね。奴らの死体の中には、明らかに翌日まで残らないものもあるからね。あの戦狗だって、混沌の力によって強化されたものだと思う」
犬亜人をどうにかするよりも、混沌の力の源を探り出すのが先か。
大地に入り込んだ混沌がどれだけの力を秘めているか分からないけれども、犬亜人の複製を生み出したりしているなら、かなり危険な力だ。
大地の外にある混沌領域と隔絶しているはずなのに、この大地に侵入した混沌は、その無限とも思える力を行使し、犬亜人を支配しているかのように思える。
「ここはキャスティ達に任せて、あたしらは中央神殿の北に行かない? そこにもオーディスの知り合いが居るんでしょ?」
「ああ……そうだな。だがその辺りは最前線のはずだから、今まで以上に注意して行こう。長い戦いになるかもしれないし」
「望むところだ」と、レオが気迫の籠った声で言う。
アディーもまた、気合いの入った顔つきで頷いて見せた。
仲間達も意気軒昂な様子で、こちらが不安な気持ちでいるのが馬鹿らしいくらいの、前のめりな姿勢。
好戦的でないアディーでさえ戦う意気に溢れ、犬亜人を叩き潰そうと欲しているようだ。
その闘志はどこからくるのか?
答えは簡単だった。
頼りになる仲間と共に、友邦である猫獣人、小獣人を守りたい。そういった溢れ出る気持ち。
それは俺の中にもある。
理不尽な混沌の侵入だろうと、犬亜人の暴徒だろうと関係ない。どちらも叩き潰すだけ。
「よし、では前線基地に向かうとしよう」
俺は決断し、仲間と共に戦場へ向かう覚悟を新たにした。




