冒険者の来訪と魔剣
また少しシリアス展開。
今回の話でオーディスワイアの過去に少しだけ触れる事になるでしょう。
『折れた魔剣』という小説があって、それが絶版ですごく高いと聞いていたら古本屋で(ヤケてて汚いやつでしたが)安く売ってたので喜んで購入した思い出……その後再版されたらしい──orz
真紅鉄鋼で造った剣を依頼者に渡すと、そのお客はとても、とても喜んでくれた。やり甲斐のある仕事をして喜んで貰う……。これこそ鍛冶師の醍醐味であろう。
もちろん今回はそれなりの報酬も貰えた訳で、これらも旅団の為の資金として使えるのだ。──幸いというか何というか、うちの旅団にはウィンデリア家の娘が団員として入った為に、宿舎は勝手に用意され、団員数名がすでに加入しているという盤石の構えだ。
別に、この旅団を大きくしようとか考えている訳ではないが、ある程度の人数が揃わないと都市から支給される物資も少ないし。旅団員全員に転移門を使用する許可が与えられるのだから、人数が多い方が割安になるのは当然なのである。
「ごめんください」
帳面に収入の事を書き込んでいると鍛冶場に女が入って来た。黒髪の綺麗な美女でありながら彼女の纏う空気は明らかに戦士の物だ。どこかの旅団の上級冒険者であろう、私服に剣を身に着けた格好だが、肩に背嚢を担いでおり、そこに剣がもう一本入っているのが見える。
「ここはオーディスワイア殿の店で間違いありませんか」
「ええ、俺がオーディスワイアです。よろしく、今日はどういったご用件でしょう」
彼女は俺の返事を聞くと「よかった」と呟き背嚢から剣を取り出した。
「この剣を修復して頂きたいのです」
拝見しましょうと言って、その剣を受け取り、柄を握って引き抜くと変な手応えを感じ、そしてすぐにその理由が分かった。剣が根本から折れているのだ。
「これはまた……いや、これは──魔剣か⁉ 異界の異物、理の異なる魔法の武器。これを直せと? いや、それは無理だ」
俺は彼女にそう言った、それはそうだろう。魔剣はこの世界、フォロスハートにある魔法の産物とは明らかに違う系統の魔法が宿った物なのだから。言語が違う別世界の本を読めと言われてもそうそう読めるようにはなりはしまい、それと同じ事だ。
「あなたでも無理なのですか、やはり」
「いやいや、俺なら何とかなると何故思ったのか、こっちが聞きたいくらいだが」
彼女は哀しそうな表情をする──ああ、なんて寂しそうで、そして何故か愁いを帯びた表情が艶めかしい……いかん。それではどこぞの女神が言っていた、「愛する者が堪え忍ぶ姿がイイ」と言っていた鬼畜発言を認めてしまう事になる──でもイイ、良いものは良いのだ。
「あなたが奇跡の業、昇華錬成を成功させたと噂で聞いた。そんなあなたならばあるいは──と思ったのですが」
「いや、仮に昇華錬成を行ったのが俺だったとしても、魔剣を修復するのとそれとでは話が違う。昇華錬成はここフォロスハートの神々、即ち四大神の存在あってのものだと考えられるが、魔剣はそれと同じで異なる世界の神の御業でもなければ修復など──」
そこまで言って気づいた事があった。魔剣があった異界の力──異界の素材があれば修復は可能なのでは?
「……! 何か思いついたのですね⁉」
女戦士は、ぱっと明るい表情になって言う。先程の愁いを感じさせる表情の時は大人っぽく色っぽい感じだったが。笑って見せると今度は可愛らしく見える不思議な女性であった。
「いや、ただ単にもしかしたら……というだけで、おそらくは成功しないでしょう。折れた物をくっ付けるだけなら可能かもしれないが、魔剣としての力を復活させるのは、やはり無理だと言わざるを得ない」
そう言うと女は急に俺に迫って来て、手を握ると「失敗しても構いません、どうかその方法を試して頂けないでしょうか」と言うのであった……




