旧友の感謝
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「オーディスワイア!」
天幕を出た俺を呼ぶ声。
「リゼミラ! レオシェルドも!」
続けて二人を呼ぶ女の声。
遅れて出て来たアディーディンクの名も呼ぶと、そいつはこちらに駆け寄って来た。
「キャスティ、無事だったか」
レオが赤い外套を羽織る女に向かって言う。
振り向くとそこには懐かしい顔があった。魔法使いのキャスティは、先端に紅玉の付いた杖を手にして近寄ると、リゼミラやレオの手を叩いて喜び合う。
「オーディスワイア、久し振りじゃない。今は鍛冶屋をやってるって聞いたけど──って、何その足。それも義足なの?」
俺が返答しようとすると、キャスティはさらに言葉を口にした。
「そんな事よりも──あんた。ミリスリアに聞いたけれど、本当にあのでっかい機械を動かしたの? さっきの攻撃。あれ、例の塔にあったやつの攻撃でしょ?」
「ああ、うん。どうだった? お前から見て、どれくらいの攻撃魔法に匹敵する攻撃だった?」
そう尋ねると、かつての仲間は真剣な表情で考え込む。
「それは──そうね、わたしの『爆裂弾』を一度に数十発おとしたような、広い範囲を攻撃するものだった。空中でこう──光の球が爆発して、そこから分裂した爆裂弾が広がり、地上の一帯を爆撃するみたいな」
高速で飛んできた砲撃を表したのだろう。彼女は手を動かして、空中で拡散して分かれた魔法の球が地上に降り注いだ時の様子を、広げた指先で表現していた。
「なら、犬亜人どもは無事では済まなかっただろうな」
「そりゃそうよ。──アウシェーヴィアが攻撃された地点の調査に行ってるけど、あんたも見てきた方がいい。相当の範囲を焼き尽くしたからね」
そうか。俺はそう答えながら、ここの防衛はミリスリアに任せ、キャスティやアウシェーヴィアと共に、最前線に向かうべきか考えた。
「ともかく、助けに来てくれてありがとう。ミリスリアやエスクアの持つ魔法の剣を造ったのも、あんたなんでしょ? しばらく会わないうちに、とんでもない物を作り出すやつになってたのね」
「まあな。……ともかく、爆発の跡を確認しようと思う。ミリスリアさん、あの櫓に上っても?」
望遠鏡で地上の様子を見ようと思った。現地に足を運んでもいいが、ここからでも確認は出来る。
「ええ、それでは皆さんも行きましょう」
俺達は一塊になって行動し、木造の櫓に向かう。
北側の壁際に設置された櫓は監視用というよりも、弓兵や魔法使いが攻撃し易いように設置された物みたいだ。
ミリスリアとアディーは下で待たせ、俺とリゼミラは木製の階段を上って行く。
砦を囲む壁よりも高い位置まで来ると、そこから爆撃地点を望遠鏡で見る。
黒く焦げ、大きな穴の開いた大地。
地面はでこぼこになっており、凄まじい攻撃で吹き飛ばされた犬亜人の死体が転がっているのも確認できる。
「あたしにも見せてよ」
望遠鏡をリゼミラに渡すと、ひゅぅ──っと口笛を鳴らす。
「うわぁ……キャスティは爆裂弾の威力って言ってたけど、それ以上でしょ。あそこまで地面がえぐれるなんて、キャスティの魔法でもなかなかそうはならない」
それが横一列に広がり、一帯に破滅的な攻撃を加えたのだ。
巻き込まれた犬亜人は何が起きたか分からずに死んだ者も居ただろう。
それほど凄まじい破壊の跡がそこには残されていた。
突然に訪れた破壊の嵐に巻き込まれた犬亜人は、戦列を維持する事など完全に放棄して、脱兎のごとく逃げ出したはず。
大地を焦がした炎と、バラバラにされた犬亜人の死体から流れ出た赤黒い血が、爆撃地点に異様な染みを残している。
そこは焦土と血痕が入り交じる、荒れ果てた戦場の跡だった。
「強烈だねぇ」
「だな。アディーディンクの攻撃魔法もおっかないが、あの魔砲の威力も凄まじい」
望遠鏡を覗いていたリゼが声を上げた。
「あれ? ──あれはアウシェーヴィアじゃない? こっちに戻って来てるみたいだよ」
「そうか、では俺達で出迎えよう」
櫓を降りるとリゼミラが、キャスティの攻撃魔法よりも魔砲の攻撃の方が強力そうだ、などと言って二人は啀み合いを始める。
「確かに魔砲の威力は凄まじいが、魔力結晶を大量に消費するかもしれないのを考えると、燃費が悪いかもしれないな」
俺は二人のつまらない争いに割って入り、戦場で臨機応変に戦える魔法使いと、遠方から一帯を攻撃する魔砲では戦術的に同列では語れない──などと、それらしい事を口にして、二人の啀み合いを終わらせた。
北側の門に向かうと、ちょうど偵察から戻って来たアウシェーヴィアとエスクアらに出会す。
「む。来てたのか」
アウシェーヴィアは驚きもせす淡々と、以前と変わらぬ調子で俺や仲間を見る。リゼミラの顔を見て一瞬、目を閉じながら頷いたくらいの挨拶を互いに交わす二人。
彼女は一段と鋭い目つきになっていた。戦いの中でしか生きられない女。そんな表情にも見える。
「久し振りだな」
「うん、そうね。オーディスワイアは──なんか、縮んだ?」
「ち、縮んどらんわ!」
彼女は俺をまるで傴僂の年寄りみたいに扱う。
リゼミラやレオシェルドを見た後で俺を見ると、アウシェはもう一度「やっぱり縮んだでしょ」などと口にする。
「そりゃ体つきは小さくなったかもしれないが、背は変わらんぞ」
冒険者を辞めてかなりになる。身体を覆っていた筋肉が減り、細身になったと見えるのだろう。
「そっか、そうだよね。オーディスとはしばらく会ってなかったしね」
キャスティとほぼ同じ時期に金色狼の旅団を抜けた彼女。俺はそのだいぶ前に金色狼を抜け、各地を歩いて鍛冶の猛勉強をしていた。
キャスティとアウシェーヴィアの二人が加われば、最前線でもかなり安心して戦えそうだ。
俺はそんな考えを抱いた。金色狼の旅団でも大きな活躍を見せた面々が、ここには五人も集まっているのだから。
アウシェーヴィアはリゼミラに近づくと「久し振りです」と声を掛けている。
厳密には師弟という関係ではないが、アウシェーヴィアは常にリゼミラを目標にしていた戦士だ。互いに切磋琢磨し合った間柄。そこは言葉で語るよりも、振り上げた腕をぶつけ合い、互いの無事を喜び合っていた。
せむし=傴(音読み「う」)僂(音読み「る」)
「傴」はかがむ、背を曲げる(病気)などの意味。
「僂」もかがめる、曲げるなど、似たような意味を持つ漢字です。




