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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第九章 パールラクーンを巡る戦い

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ミリスリアと再会

小獣人のミリスリアとの再会。

彼女は自分の立場に合わせた喋り方をする事の多い人物。

オーディスワイアに対しては貴族の顔や、女の顔を出したり、引っ込めたりする。

種族的な部分がそうさせる──らしい。

 かなりの距離を荷車が走破した。道は所々がでこぼこした悪路で、アディーディンクは車酔いしていた。

「だ、だいじょうぶです……」

 気持ち悪そうにする童顔どうがんの夫の背中をさするリゼミラ。

 レオシェルドは妖刀を抱え込んだまま目を閉じている。

 きっと頭の中でも犬亜人ババルドと戦っているに違いない。

 いつも以上に張り詰めた空気をまとっていた男からは、戦闘へのめり込もうとする闘争心と、冷静でいようとする鋼の心が同居し──この戦争で、自らの殻を破ろうとしているみたいに見えた。

 あるいは今まで封印してきた己の中の闘鬼と相談し、次の戦闘でさらなる戦士の力を花咲かせようとする戦士の様に。

 いつになく静かで、嵐の前の無風無音の世界を見ているようだった。


 馬の進む先に灰色の建物が見えてきた。石造りのとりでだろうか。──それに、木造の建造物や白い天幕テントも見えている。

「あれが前線の防衛拠点です」

 あそこには古巣の同胞、キャスティとアウシェーヴィアが居る。

 どちらも戦力として申し分ない。

 かなり前の認識だが、レオやアディーと肩を並べる実力者だったのだ。


 砦の周囲を高い壁が囲み、やぐらが砦の四隅よすみに建っている。小獣人エルニスの体型に合わせた造りではなく、対犬亜人を目的に造られた砦という感じがした。

 門をくぐって砦の中に入ると、そこは思っていたよりも広く、いくつかの建物が建てられている。

 機動鎧ギガンデルが何体も壁際に整列し、数体が稼動していて、大きな荷物を建物に運び込んでいる。

 前線基地だが、ここに居る皆の表情を見る限り、敵に対して脅威を感じてはいない様子だ。


「どうやら魔砲による砲撃が功を奏したらしいな」

 荷車から降りると、革鎧や法衣ローブを着た小獣人の戦士や魔法使いが遠巻きにこちらを見ている。新しく補充された人間の戦士に興味があるのだろう。


「オーディスワイア殿!」

 大きな天幕の中から現れた小獣人が大きな声で俺を呼ぶ。

「やあ、ミリスリアさん。お久し振りです」

 美しい装飾が施された碧銀鉄鋼クレリスアルムの鎧を着たミリスリア。手には同じく碧銀色の兜を持ち、腰からは俺が造った魔法の剣を下げている。──その姿は小さいながら勇ましく、威厳を感じさせるものだった。

「よく──よく、来てくださいました」

 彼女は感激した様子でこちらに近づいて来る。周囲には武装した小獣人の戦士が護衛し、こちらを見上げている。


「もちろん。それで──魔砲による攻撃はどうでしたか? 戦況は?」

 そう尋ねるとミリスリアは重くうなずく。

「ええ、大成功です。ここから先の平野に陣を構えていた犬亜人の軍勢は、すでに退却しています。砲撃で敵の三分の一近くを戦闘不能にしたと思われます」

 彼女は軍を率いる者としてではなく、友人として俺と接してくれている。

「私も昨日まで、あなたの造ってくれた魔法の剣で戦い、奴らの首級を挙げていましたが、撃火魔砲ヴァルガーラントの砲撃で今回の侵攻は無謀だと悟らせたでしょう」

 彼女はさらに近づいて来ると、俺の手を取って、小さな額に手の甲を押し当てる。


「撃火魔砲を起動させる魔法核を作っていただけたのですね。感謝します。──あなたのご助力のおかげで、同胞が戦場で倒れる事もないでしょう」

「いえ……それよりもエスクアさんは? ここには居ないようですが」

「ああ、彼女は前線の警戒をしています。敵の軍勢は完全に撤退したと思いますが、念の為に防衛陣地はこのまま残さなければなりませんし。──そう、キャスティさんとアウシェーヴィアさんも、今は体を休めているはずですよ」

 案内しましょう。ミリスリアはそう言うと、砦を出て北に向けて歩き出す。


「あなた方もよく来てくれました」

 道を歩きながら、リゼミラ達にも声を掛けるミリスリア。

 どうやら今回の戦争で小獣人も人間も、多くの犠牲を出したらしい。

「それでも奴らの倒れた数の方が、圧倒的に多いはずなんですが」

 前線から荷車が戻って来て、俺達の横を通り過ぎて行く。荷台には犬亜人の死骸から奪い取った武器や鎧などが積まれていた。金属は溶かして再利用するのだ。


「こちらの犬亜人が武装するとは聞いてませんでしたが」

「そうなのです。しかもこれほどの群れを統率して侵攻して来るなんて、どうもおかしい」

 そう言うと彼女は思い出したように顔を上げる。

「先ほど早馬が来て伝令を受けました。ラクシャリオを強襲した別働隊がいたそうですね。まさか西側から回り込んでいる群れがいたとは気づきませんでした。西にも砦を建設する予定で、人を向かわせていたのですが……。故郷を守ってくださり、感謝します」

「いえいえ、こちらの仲間達の手に掛かれば、百や二百の相手くらい楽勝ですよ」

 俺の言葉にリゼミラが無言で後ろから尻を蹴飛ばしてくる。

 俺はつんのめりながらミリスリアに笑い掛け、ここに管理局の職員は居るかと尋ねた。


「ええ、通信を行うという人物が数日前に来ました。中央神殿と情報を共有するとかで。離れた場所の情報が手に入るのは有利ですね。──それでも小さな部隊の侵入を許してしまった訳ですが」

「先ほどラクシャリオにも管理局の通信技師が着いたところです。こちらに来ている管理局の職員に、ラクシャリオとの通信設定を教えておきます。それと、監視飛翔体をこちらの職員に預けておくので、そうすれば西から回り込む敵も発見しやすいでしょう」

「それでしたらさっそく、管理局の人が居る天幕に案内します」

 ミリスリアはそう言うと、前線に設置された天幕の間を歩いて行き、一つの天幕の前で立ち止まる。


「管理局から出向してこられた人が、ここで仕事をしています」

 声を掛けてから中に入ると、その天幕の中に二人の職員が大きなテーブルを前に話し合っていた。

「監視飛翔体を持ってきました。それと、ラクシャリオの方と通信が繋がる信号を教えますね」

 そう声を掛けると、彼らは「やっと王女宮との話が纏まったか」と声をらした。

「では監視飛翔体の扱い方を教えましょう」

「いいえ、それにはおよびません。すでに使用した事があります。──その時は試作機でしたが、たぶん大丈夫でしょう」

 そうですかと応じ、箱に入った飛翔体を預ける。

 これで索敵もより広範囲を押さえられるだろう。俺は職員達に頷いて天幕の外に出た。

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