再び撃火魔砲の塔へ
「あの女王様──」
小獣人の女王メルゼヴィアとの謁見を終え、城を後にしたところで、アディーディンクがこんな事を口にした。
「なにかの魔法が掛けられていたみたい」
「え? なにそれ。戦いでもないのに魔法なんて必要なの?」
リゼミラがそう言うと、アディーは首を傾げた。
「う──ん。魔法と言っても、肉体の維持をする魔法とかじゃないかな。……あの人はたぶん見た目よりも、ずっと長生きしてると思う」
そういえば……小獣人は外見的な老化をしない種族だと耳にした。本当かは分からないが、人よりも短命な種族だとも言われている。
彼女らは自分達の実情をあまり話したがらないのか、そうした種族的な情報が伝わり難いみたいだ。
しかし、女王だけがなんらかの魔法で延命しているのだろうか? その目的、理由はよく分からないが──彼女らの女王には、男性の居ない種族特有の意味付けがあるのかもしれない。
「それよりも、オーディスの『心に決めた人』って、誰の事よ? おしえなさい。旅団にいる女?」
リゼミラの言葉に小さな夫が口を挟んだ。
「リゼさんや、そういうことは気軽に尋ねるものじゃないよ。相手が女性とは限らないかもしれないし」
「うほっ」
とぼけた感じで言ったアディーの台詞に、思わずこちらもボケで返す。
その後も根掘り葉掘り聞こうとするリゼミラをやり過ごし、道を歩いていると……
「オーディスワイア様」
と、横から声がして振り向くと、そこには見知った顔があった。
稲穂色の髪に丸い鼠の耳をした小獣人。ミリスリアの侍女、ロネアだ。
「お久し振り」
俺が声を掛けると、彼女は弱々しい笑みを浮かべる。
「お久しぶりですぅ」
元気がない。
「疲れているようですね。もしかして、医療班で働いているとか?」
「えぇ、わたしは回復魔法で傷を癒す程度の働きしかできませんが。ミリスリア様について行きたいのですけどぉ、足を引っ張ることになっても嫌なのでぇ……」
その間延びした声がどんどん小さくなる。
肉体的な疲労と、戦場で戦っている主人を想う心労で、彼女も相当まいっている様子だ。
「大丈夫。ここに居る俺の仲間は、俺が知る中でも最上位の戦士や魔法使いです。彼らが来たからには、犬亜人の群れなど、あっと言う間に押し返してくれますよ」
俺の背後でリゼミラが「吹くねぇ~」と、まんざらでもない感じで声を上げる。
「ありがとうございますぅ。フォロスハートの方々のお陰で、ここラクシャリオでの生活もぉ安心していられますからぁ」
そうした会話をしていると、今度は通りの向こうから誰かが走って来るのが見えた。──あれは塔に居た、魔砲の研究員の一人だ。
「おっ、オーディスワイアさん。少し、協力していただけ……ませんか」
呼吸を整えながら彼女は塔に来て欲しいと訴える。
俺達は顔を見合わせ、すぐに塔へと向かった。
階段を駆け上がる勢いで上って行くと、そこには研究員、あるいは技術者らしい小獣人が集まっていた。
壁際にあるテーブルの前には管理局の通信技師らが来ていて、通信機の扱いと、監視飛翔体について小獣人に講義している。
──彼らはどうやらシュナフ・エディンの高官らと会議をした後で、魔砲の側に前線との遣り取りに必要な通信機を導入する事を決定したようだ。きっとフォロスハートとの独自の契約を交わしたり、面倒な手続きをしていたのだろう。
砲台の前に居る小獣人の一人がこちらに近づいて来た。
「オーディスワイア様。どうか私達に力を貸してください」
「いったい、何があったんですか?」
話を聞くと──魔砲の内部機構を取り出して、魔法核の放出する活動力を弱めるよう設定し直そうとしたのだが、安定させる事が出来ないのだと言う。
「……なるほど、魔法の形式が少し異なるのかもしれませんね。少し見てみましょう」
大きな金属の塊に鑑定魔法を掛け、術式を読み取ると、それは俺の創り出した魔法核と一部の魔力回路が反応し、不調和を起こしているのだと知った。
「う──ん。原因は分かりましたが、これは──一部の魔力回路を変更しないと、使用するのは危険かもしれません。一発撃ったら砲身が故障するなんて事になったら、直すのが大変でしょう」
それは困ると技術者らしい小獣人が言う。
「なにしろこの魔砲は、私達の祖先が作っていた物で。今の私達の技術では、復元するのは難しい代物ですので」
「なら、この内部機構を新たに作るしかないかもしれません」
予備の物はありますか? そう尋ねたが、彼女らは揃って首を横に振る。
なら今ある物の魔力回路を、魔法核に適応させるしかない。
改めて内部機構の仕様を確認する。
「ん? いや──待てよ」
この内部機構は分解できる。いくつかの部品の組み合わせで出来ているのだ。
「そうか! ……よし、これなら──」
紙と書く物を、そう言うと彼女らは急いでそれらを用意し、俺はテーブルに金属の塊を置いて調査に入った。
内部機構の魔力回路の一つが魔法核と不調和を起こすので、その部品を外し、その部分だけ魔力回路を変更させるよう考えた。
機構全体の魔力回路を変更させるのは無理だが、一部だけならなんとか出来る。
「魔力回路の変更をしてみましょう。他の部品との調整もしつつ、魔法核にも適合する術式を組み込めば、安定させられるはずだ」
俺は内部機構の金属を分解してもらい、その内の一つを手にして、魔力回路を変更するよう改変作業を開始する。
かなり高度な術式を施した部品だが、数分で魔力回路の変更は終わった。術式すべてを変更するのではなく、一部の書き換えをするだけなのでなんとかなった格好だ。
「これを組み直して、もう一度やってみてください」
小獣人達は互いの顔を見て頷き合い、分解した物をあっと言う間に組み直す。
「では戻しますね」
魔砲の装填機構にそれを戻し、魔法核を装填する。
するとさっき聞いた「エラー報告」は出なかった。
「起動確認! 活動値も問題ないです!」
おお──! と技術者達から歓声が上がる。
ぐぃいぃぃ──んと、重い音を響かせて、魔砲の砲台が動き出す。それは滑らかな動きで砲身を持ち上げる。
もう今にも砲撃を開始しそうな勢いだ。
砲台にある画面を覗くと、地図らしい物が映し出されており、方角や距離を設定するようだ。
「しかし、犬亜人の軍勢がどこに居るか分からないと、砲撃も出来ないんじゃないか?」
「それは大丈夫です。すでに最前線の部隊には、この魔砲と接続する情報端末を持たせてあります」
そう言いながら望遠鏡の様な物を取り出す研究員。
話を聞くと、それで覗いた地点が砲座の画面に表示され、距離などが簡単に設定できるのだと説明する。
どうやら監視飛翔体が無くとも砲撃を行えそうだ。
「それはいいな。誤射しなければいいんだが」
「この魔砲は攻撃以外にも、信号弾や発光弾も撃てるので、それで試し撃ちを行います」
望遠鏡についた通信装置は、単純な文字の遣り取りが出来るようになっていた。それで着弾点の修正を行うのだ。
「では……さっそく撃つのか?」
俺が小獣人に向かって言うと、彼女らはやはり互いの顔を見合わせ、俺に向かって重々しく頷いた。
魔法の力を利用した近代兵器のような「魔砲」
こういった他を排除する力には、野蛮な精神にとっては魅力に感じるようですが、エルニスはその種族的な性質から、こうした力の行使には躊躇いがちだったりします。(次話で少し出るかな?)




