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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第九章 パールラクーンを巡る戦い

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小獣人の女王メルゼヴィア

 シュナフ・エディンの中央都市ラクシャリオ。その街の奥に位置する青く塗られた城。城を囲む城壁は石の塊を積み上げて造られ、深い掘りに囲まれていたが、城は一つの大きな岩を削り出して造られた建造物であるようだ。

「一階部分は人の寸法サイズでも立ち入れる造りになっています」

 と、案内の小獣人エルニスは説明したが、城を囲む門も城の入り口も、かなりギリギリの高さしかなく、城の中の通路では、飛び跳ねるのは厳禁の高さだ。


「武器を持ったままで構いません」

 二人のお付きらしい案内も一緒に謁見えっけんの間へと入って行き、俺達四人は小獣人の女王と対面する事になった。




 城の内装も水色と白い色に包まれ、装飾が刻まれた柱は青や緑色に塗られていた。日の光を取り入れる工夫か、天井や壁には硝子ガラスが張られ、壁には淡い光を放つ結晶が設置されている。

 広間の先にある壁画。その前に木材を削って作られた物々しい椅子が置かれ、まるで雄山羊の角の様に尖った先端を縦横無尽じゅうおうむじんに伸ばし、前に立つ者を威嚇いかくするみたいに広々と先端をかかげていた。


「ようこそ。フォロスハートの恩人達」

 そう声がして、椅子に座る小さな姿に初めて気がついた。

 椅子に座っているのは薄い緑色に輝く髪を持った少女。長い髪の先が濃い緑色に変色している。

 頭の上に犬科の動物に似た耳を生やし、どこか眠たげな目をしてこちらを見た。

 緩やかな水色の法衣ローブを着た小獣人の女王。

 頭には青い宝石を付けた白金の小さな冠を載せている。

 なだらかな細長い足。他の小獣人はどちらかというと、ぽっちゃりした足をしているものだが、女王はほっそりした長い足を持つ、人間の少女の様な体型をしていた。

 その顔立ちは愛らしさの中に、多くのうれいを見てきたみたいな、憂鬱ゆううつを含んだ物悲しい美しさが感じられた。──年齢の読めない、超然とした女性だ。


「初めまして」

「あなたがオーディスワイア様ですか?」

 そうですと答えて、仲間達を一人一人紹介した。

「あなた方は攻めて来た犬亜人ババルドを挟撃によって撃退し、多くの敵を退けてくださいました。その事にまずは感謝を……」

 彼女は椅子から立ち上がり、うやうやしく頭を下げた。

 椅子は周囲の床と同じ高さに置かれており、必然的に彼女を見下ろす格好になる。

 すると彼女はにっこりと微笑み、何やら想い人を見るような視線を送ってくる。


「あなたの事はミリスリアから聞いています。魔法の剣を作って、彼女とその護衛に与えてくださったと」

 その緑色の瞳には、ミリスリアを心配する気持ちが見え隠れしている。女王とミリスリアの間には、友人関係に近いものがあるらしい。

「あ……申し遅れました。私はメルゼヴィア。シュナフ・エディンの女王。あるいは()()()()()()()()()です」

 何故か卑下ひげした言い方をして彼女は微笑んだ。


「あなた方はシュナフ・エディンの窮地きゅうちを救う手助けをしに来てくれました。その気持ちにもう一度感謝を。そして、撃火魔砲ヴァルガーラントを起動させる魔法核をもたらしてくれました。その報酬として、なんでも望みの物をおっしゃってください。私の力が許す限りの報酬をお約束します」

 女王は気高さと、どこか浮き世離れした──奇妙な表情や立ち振る舞いで一礼し、二人のお付きに支えられながら、いかつい玉座に腰を下ろした。

「申し訳ありませんが座らせてください。私、こう見えましても──かなりの老骨なもので、立ち歩くのも億劫おっくうなのです」

 外見は少し大人びた小獣人といった感じだが、彼女の表情や挙動を奇妙に感じた理由がなんとなく分かった。女王は見た目以上に長生きをしてきた人物なのだろう。


「それで、報酬はどういった物をお望みですか?」

「う──んと、……いえ。材料費と制作費を貰えれば。……というか正直、対価を求めて魔法核を作製した訳でもなかったので、急に報酬と言われても、返答しようがないですね」

 そう答えると彼女はくすくすと笑い出す。

「本当に謙虚けんきょなお人ですね。ミリスリアがオーディスワイア様とシュナフ・エディンの民との間に、子をもうけるよう取り計らうよう訴えてきたのもうなずけます」

 うぇっ、と変な声が漏れてしまった。

 女王の発言に照れたりするよりも、思わぬ権謀術数けんぼうじゅっすうが展開している事に驚いたのだ。


「いやいやぁ……俺には心に決めた人が居るので」

 つい、そう返事をしてしまい、俺の背後でリゼミラとアディーが「誰の事だ」と、こちらでもその話題で盛り上がろうとしている。

「構いませんよ。あなたが愛している女性以外を抱くのに抵抗があっても、私達にはそうした機微きびよりも、切実な跡継ぎの問題があるので。いざとなればあなたの貞操ていそう観念もくつがえして、私達のとりこになるよう仕向けますから」

 などと笑顔で怖い事を口にする。


 女王メルゼヴィアは俺が貞操観念から彼女らとの、──交合を拒絶すると考えているような口振りだったが、それは違うのだ。

 ただ単に、俺が所属していた社会的常識──小さな女の子に、性的な行為をする事への拒否感からくるものだった。

 自分は少なくとも、幼い子供に欲情するような性質は持ち合わせていないはずだが。──そうした性質は社会的常識うんぬんよりも、個人の性情によるものだと思うのだが。


「まあ、冗談ですが」

 その口元は柔らかく笑っていたが、目の中の光は本気だった。

「誘惑の香水とか、そういうのは遠慮したいですね」

 俺が口にした言葉に、女王はくすくすと可愛らしい笑い声で答える。


「報酬は……すぐには思いつきませんね。まずはあの魔法核でシュナフ・エディンが犬亜人の脅威から逃れられる事。それが第一だと考えています」

「わかりました。それでは報酬の件については、犬亜人との戦いに終止符が打たれた後にでも、ゆっくりと考えてみてください」

 メルゼヴィアはあくまでにこやかに、優しく微笑んでいたが。

 その朱色に光る瞳には、死と顔を突き合わせている者が見せる、現実から遊離したかのような、精神の揺らぎを感じた。

ちょっと様子の変なエルニスの女王メルゼヴィア。

理由がすべて明らかになるとは限りませんが(笑)

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