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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第九章 パールラクーンを巡る戦い

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兵士達の看病の状況

天然たらしのエルニスさんたち。

現実の麻酔も、なぜ麻酔効果があるのか分かっていないらしい……(怖)

 白い天幕テントの前まで来ると、俺は手前の天幕にレオと共に入り、リゼミラとアディーディンクには奥にある、もう一つの天幕へ向かわせた。天幕の中には独特な甘いかおりが漂っており、レオはその匂いを嗅いでせきこんでいる。

 入り口の布を開けて中へ入ると、そこは地面に敷布が敷かれ、その上に柔らかい布団を乗せた、簡易的な医療用設備が整えられていた。


「おいおい、この匂いは……?」

 まさか病人に()()()()()()()()()なんかを使用してはいないだろうな。俺はそう思って、近くに居た看護師らしき小獣人エルニスの少女を手招く。

 ほんのりと赤い髪の毛と、頭の上に大きく丸い、ねずみの耳を思わせる物を生やした少女を呼ぶと、この匂いはなんだと尋ねた。


「香薬をいているのです。この匂いには鎮静ちんせい効果があり、苦痛を和らげます」

 ……確かに、以前嗅いだ──小獣人の貴族、ミリスリアがまとっていた怪しげな香料とは、少し違う匂いのようだ。

「そうか──念の為、確認させてくれ」

 そう言って、うっすらと煙を上げている金属の器に近づき、それに鑑定魔法を掛けてみた。

 麻酔までの効果は無いようだが、肉体の苦痛を遠ざけるような効果はありそうだ。だが、なかなかに怪しげな葉っぱを使用しているらしく、いくつかの薬効のある草花や木の根などを組み合わせ、害が無いようにしている節もある。

「──うん、いちおう問題はなさそうだ」




 怪我人達の様子は、いたって平静としていた。足や腕を骨折したような兵士が居て、石膏せっこうで固められた腕や足を吊されている。

 ここには数人の兵士が横たわっていたが、何やら小獣人達の看護が行き届いており、彼らは一様に「ここの看護は最高です」と、痛みを訴えるよりもむしろ、にこにこと嬉しそうに言った。


(やばい薬でも盛られているみたいな反応だな……本当に大丈夫だろうか)


 どうやら愛らしい小獣人の至れり尽くせりの看護を受け、デレデレと相貌そうぼうを崩しているようなのだ。まるでキャバクラにドハマリした男の様だ。


(う──ん。彼らの将来が心配だ)


 もしかすると犬亜人ババルドとの戦争が終結した後の事も考えて小獣人達は、兵士の若者を取り込もうとしているのかもしれない。

 男性の存在しない彼女らにとって、男性の存在は特別なのだ。

 薬で直接的に誘惑している訳ではないから、厳しい事は言えないが。俺が軍隊を指揮する立場にあったなら、小獣人族の生態について調べ、その情報を兵士達に熟知させる必要を感じる。


「犬亜人について、気づいた事があれば教えてくれないか」

 横になっている、比較的元気な兵士に尋ねると、やはり翌日には犬亜人の死体が消えているのだと説明する。

「犬亜人は魔法による攻撃をしてこないので、危険はそれほどでもありませんが、手斧や槍を投げてくるので──それが危ないですね」

 戦っている最中に犬亜人に気づいた事は特にないと、その兵士は言う。


 そんな話を聞いていると、小獣人の一人が小さく切った果物を皿にせ、運んで来た。怪我にいいと言ってそれを食べさせる看護師に、兵士の男はメロメロの様子で口を開けた。

 腕を怪我している訳でもないのに食べさせてもらっている。

 このままいけば兵士の内の何人かは、小獣人の国(シュナフ・エディン)に残ると言い出すのではないだろうか。

(願わくばそういった彼らに、フォロスハートで待つ人が居ないように──)

 俺はそんな適当な感想を頭の中でつぶやき、仲間達と共に天幕の外へ出た。


「アウシェーヴィアもキャスティも居なかった」

 もう一つの天幕から戻って来たリゼが報告する。

「それは良かった。こちらも知り合いの顔は無かったよ」

「それにしても甘ったるい匂いがして、体に匂いが付きそうだよ」

 リゼもアディーも、あの匂いには困惑している様子だ。あの天幕の中にしばらく居たら、感覚がぼんやりとしてきて、意識が曖昧あいまいになる可能性がある。




「さあ、これからどうする? あたしとしては、早いとこ最前線に出たいんだけど」

「おいおい、俺も最前線で戦えって言うのか」

「さっきの戦闘でも、ふつうに戦えてたじゃん」

 などとリゼミラは悪びれもせずに言うではないか。確かに想像よりも義足は高い性能を発揮したが、いつ不測の事態が起きないとも限らない。

 もちろん気持ち的には、小獣人達の為にも戦場で働き、敵をシュナフ・エディンから遠ざけたいところではある。


「いや、しかしな──」

 そう言っているところへ、二人の小獣人が近づいて来た。

 水色のゆったりとした衣服を身に着けたその姿は、小獣人がいつも着ている伸縮肌着ネクタートではなく、法衣ローブを思わせる服装だった。


「オーディスワイア様はどなたでしょう?」

 銀色の長い髪をし、長い狐の耳を持つ女がこちらを見上げている。

「俺だよ」

 すると二人の小獣人が顔を見合わせ、ついて来るように言ってきた。

「わたしの女王メルゼヴィア様が、あなたにお会いしたいと言っています」

 今度は俺と仲間達が顔を見合せる番だった。視線を送ってうなずき合う。


「分かった。行こう」

「では、こちらへ」

 二人の小さな友人達は大きな通りを進んで行き、十字路を曲がって、街の奥に見える青色の城の方へと歩き始めた。

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