小獣人の国での一幕
400話超えましたね。自分でもびっくり。
俺達は追撃を止め、死体の転がる戦場で互いの生存を確認し合う。
肩で息をしている俺とは違い、レオシェルドとリゼミラは、ほとんど呼吸を乱していない。独特の呼吸法と内気勁による気の循環を、肉体の維持調整に回しているのだろう。
俺も内気勁で一定の余力は残しているつもりだったが、基本的な体力の差が出ているようだ。
「なんだなんだ、だらしない」
返り血を浴びた頬を拭いながらリゼが近づいて来て、半分笑いながら口にする。
「そう──言うな。戦いなんて、久し振りだったんだ」
戦いの緊張は恐怖から来るもので、それが呼吸を荒くして余計に疲弊する。緊張は必要以上に筋肉を強張らせ、体力の消耗が増える訳だ。──戦闘に慣れているレオやリゼのようにはいかない。
しかしついさっきまでの俺は、昔の感覚に突き動かされていたようにも思う。
まるで片足が義足ではなくなった頃の様に、まるで違和感なく、戦闘に集中する事が出来ていた。
と言うよりも、義足である事をすっかり失念していたのだ。
「ぜんぜん普通に戦えていましたね」
後方からアディーディンクが近づいて来てそう言った。幼げな顔には少しばかり疲労が読み取れた。
指揮官を倒した後も、逃げようとする犬亜人に追撃を行っていたのだ。
周囲を見回しても、犬亜人の死体しか転がっていない。
ひゅうんっ、と音を立てて妖刀を振り下ろすレオ。その足下にも無数の死体が転がり、太刀から飛び散った鮮血が死体の上に降り注ぐ。
「あっちも無事みたいだね」
白い壁の方を見ると、勝利の雄叫びを上げる小獣人の姿や、人間の兵士の姿が見える。
ぱっと見、一人の犠牲者も居ないようだ。もしそうなら、犬亜人はとんだ戦略的失敗をした事になる。それを学び、二度と今回のような城攻めみたいな、無謀な遠征をしないでくれると助かるのだが。
「さあ、荷車を呼んで、シュナフ・エディンの都市に向かうとしよう」
俺達は武器に付いた血糊を落とし、大きく手を振って隠れていた荷車と、その護衛と共に東にある小獣人の首都へ向かった。
シュナフ・エディンの首都は「ラクシャリオ」と言うらしい。俺達に近づき、歓迎してくれた小獣人の中から「ラクシャリオへようこそ!」と声が上がったのだ。
街を囲む壁の内側に入る前に後ろを振り向くと、戦場となった広野の掃除が行われるらしい。
それには小獣人の武装兵器とでも言った、鎧姿の機械が使われていた。犬亜人の死体を片づけ、武器などの金属類を集める作業を行っている。
「あの全身鎧の中はどうなっているんだ?」
俺達はフォロスハートの兵士達の喝采を浴びながら、大きな鉄の門を通って街の中へと入って行く。
そこで街を案内すると言った、青銀色の髪をした小獣人に話を聞いた。
「『機動鎧(ギガンデル)』の事ですね? あれは私達が搭乗して使う──本来は街を囲む壁や、建物を建築する時に使うような、工業用の機動外装です」
なんと、あの中に小獣人が乗り込んで戦っているのか。
強化外装みたいなものか。
機動鎧を使えば重い物も軽々と持ち運べ、戦いに於いても攻撃、防御の両面に優れ、犬亜人との戦いでもかなりの性能を発揮しているらしい。
少女の様な姿の小獣人は、俺達を小さな建物の間を通って、奥に見える(人間寸法の)大きな建物に案内する。
ここにある建物はそのどれもが多彩で、暖色系の橙色や黄色などに塗られた壁が印象的だ。
彼女らが住む家々は人間が住むには小さすぎる。入り口を通過するのも、腰を落として入らなければならない大きさなのを見ると、家の中で立ち上がれば──天井に頭をぶつけそうだ。
「あちらの建物なら、人間や猫獣人でも使用できます。あそこに荷物を置いてください」
その建物は白い壁で、人間用の大きさに合わせて造られた建物であるようだ。そこに向かう途中で小獣人が立ち止まり、大通りの先の広場を指し示す。
「あちらには怪我をした人間の戦士達が体を休めています」
なんでも傷は回復魔法で癒せるが、失った血液は戻せないし、骨もすぐにはくっつかないのだと言う。
「なるほど、後で顔を出してみよう」
まさかアウシェーヴィアが倒れている、などという事はないと思うが。
小さな友人に案内された建物に入ると、二つの部屋に案内された。
「ああ、ああ、別に一つの部屋でいいよ」
とリゼミラが言うと、小獣人の少女──の様に見えるだけかもしれない──は「とんでもない!」と、飛び上がるみたいに長い耳を跳ねさせる。
「こうしたらどうだろう。俺達はキャスティやアウシェーヴィアとは顔馴染みだ。リゼミラはキャスティ達と同室にすればいいんじゃないか」
なるほど、とリゼミラが相槌を打つ。
「キャスティさんの──そうですか。ではこちらへ……」
リゼミラは案内されて通路の奥に連れて行かれた。
俺達野郎三人は部屋に荷物を置き、防具と武器は身に着けたまま、部屋の外で待つ。
「その義足、本当に戦闘用に作られた物なんですね。後ろから見ていましたけど、まるで昔のオーディスさんを見ているような活躍ぶりでしたよ」
アディーはそう言いながら笑顔を作る。
「そうか? だが体力的にも感覚的にも、現役に近いレオやリゼに遠く及ばない感じだ。もう少し体を慣らしていかないと駄目だな」
そんな話をしているところへリゼミラが戻って来た。側を歩く小獣人と話しながら、楽しげにしている。
「さてまずオーディスワイア様には、私達の切り札となる『撃火魔砲』をお見せするよう言われています」
小獣人の案内人はそう言って「塔まで案内する」と歩き出す。
「分かった。ちょっと待ってくれ、猛火の魔法核を持ってくる」
俺は部屋に戻り、荷物の中から魔法核を持ち出す。
建物の外に出ると、道の先で管理局の男と猫獣人の護衛が、小獣人の一団と話し合っているのが見えた。
どうやら通信機の扱いについて説明しているらしく、通信機を手にしながら説明していた。互いに情報を交換し、犬亜人の侵攻を防ぐ点については、三種族の意思は一致している。
俺達は彼らの側を通り、街の奥に見える青色に塗られた大きな城の様な建物を見送って、外周壁近い場所に建つ、大きな塔へと向かって行った。
パワードスーツを「強化外装」としてみました。パワードスーツって、日本のSF用語(?)らしいです。外国では「Powerd exoskeleton」(強化外骨格)と呼ぶそうです。
パワードスーツって響き、結構好きですけどね。




