魔法の力
すると俺の後方から朱色の光が上空を通過し、戦場に居る俺や犬亜人を照らし出した。
朱色に輝く大きな炎の球体が三つ、三方向に飛翔し、犬亜人の軍勢のど真ん中に着弾する。
「ズドォオンッ」
爆発で犬亜人が吹き飛ばされた。
三ヶ所で爆発した炎の球は、三十匹を超える敵を蹴散らした。吹き飛ばされた奴の中には、よろよろと立ち上がろうとしている者も居るが。
炎に取り囲まれた犬亜人の悲鳴が、あちらこちらで沸き起こる。容赦ない魔法による攻撃。
俺の背後。離れた場所にアディーを感じる。
続いて小さな大魔法使いは、南側に密集する犬亜人の群れに狙いを定めたようだ。
「ルゥガート、アディエス、フェドゥア……」
その呪文の冒頭は耳にした覚えがある。
強力な範囲攻撃魔法。
これを受けた敵は引き裂かれ、身に着けていた装備品もボロボロのズタズタにされてしまうので、滅多にこの魔法を披露する事はなかったが。
集団の敵を前にした時、前衛の戦士が連戦で疲労している時などを見計らって、アディーがこの魔法を使ったのを思い出す。
「……闇より溶け出す破壊の嵐。形作られる見えざる刃。鬼神ゼスセタの妖剣よ。破滅を刻め、幾重の運命をも切り裂く、狂乱の風を呼べ『鬼神嵐獄』!」
ごうんっ、そんな音がした後。空気がこの世から消失したかの様な、一瞬の静寂が戦場に訪れた。
そして次の瞬間に訪れたのは、徹底的な破壊。
金属や肉体を斬り裂く、異様な音がしたかと思うと、南側に集まっていた犬亜人の集団から、血飛沫が──いや、断末魔のない、滅びが訪れたのだ。
肉体が切り刻まれ崩壊する。
斬撃と衝撃が数十体の犬亜人を巻き込んで、一撃で滅びを齎した。
衝撃で吹き飛んだ亜人の中には、腕や頭を失った者も居るようだ。
四十以上の敵を屠った一撃。
生き残った犬亜人から遅れて絶叫が起こる。
正面からは小獣人と人間の混合部隊が攻め立て、後方から俺達四人が猛攻を仕掛ける。
どちらに逃げても犬亜人には生きる活路はない。
「はぁっ!」
俺は剣を振り上げる。慌てふためいて、こちらに武器を振り回しながら迫って来た、二匹の犬亜人を斬り伏せる。
犬亜人どもは恐慌にかられて逃げ惑う。
俺と仲間達はさらに攻撃を続けた。
……そうだった、魔法による攻撃。それはこれほど強力なものだった。それは現代兵器のミサイルや爆撃といった物と似たような、強力無比な攻撃。
もはや逃げる事しか出来ない犬亜人達を追い掛け、追撃するリゼミラとレオシェルド。
俺も慈悲の心などかなぐり捨て、目の前に居る敵、北に向かって逃げようとする敵を追撃した。
ここで一体でも多く仕留め、奴らに再び進軍させるだけの戦力を与えさせる訳にはいかない。
逃げる犬亜人の中に、貧相な鉄鎧を身に着けた亜人戦士に囲まれた、一匹の犬亜人が目を引いた。
そいつは他の貧相な防具しか身に着けていない連中とは違い、肩当ての付いた鋼鉄製と思われる立派な鎧を身に着け、頭から鼻先までを防御する、鉄仮面をつけていたのだ。
「奴が指揮官だな」
俺は呟くと同時に、そいつに向かって突き進む事を決めた。
幸い相手は逃げるつもりがまだない様子で、周囲の犬亜人を恫喝するみたいに吠えており、混乱し逃げようとする同胞を、手にした槍の柄で殴りつけている。
「アディー! 援護を!」
俺は後ろに居るアディーディンクに声を掛けると、返事を待たずに敵の指揮官に向かって駆け出す。
逃げ惑う敵を魔剣で斬り裂き、直線上に並んだ相手を蹴散らす為に、破砕撃を叩きつける。
「グギャァゥッ!」
「グワァッ!」
地面までへこませる一撃が振り下ろされると、衝撃を受けた四体の犬亜人が左右に吹き飛んだ。
直撃を受けた二体は頭部を砕かれ、物も言わずに崩れ落ちる。
その衝撃音でこちらに気づいた指揮官の犬亜人は、護衛の者に声を掛け、強襲してくる人間を倒せとでも言うように、こちらに槍を突き出して威嚇する。
すると後方から八発の魔法の弾丸が鋭く飛び、五体の護衛のうち三体を攻撃した。
薄い板金を胸当ての形にしたような鎧は、魔法の弾丸を受け止める事は出来ずに、簡単に貫通を許してしまい、戦士は膝を突いたり、倒されてしまう。
「しゃぁっ!」
俺は勝利を確信した。
何も躊躇わない。
仲間の、アディーの援護を受けて突き進む──この感覚。
かつて冒険者として活動していた頃の自分がそこには居た。
かつての自分と全く変わらずに行動し、俺は間合いを一気に詰めて、突き出された槍の穂先を躱しながら、斬破の一撃を敵の胴体に向かって薙ぎ払う。
金属の鎧を引き裂く音。
肉を裂き骨を砕く、鈍い手応え。
振り抜かれた魔剣の一撃を受けて、指揮官の犬亜人が上半身と下半身に斬り分けられて、地面に崩れ落ちる。
「クォォ──ゥン!」
指揮官が倒されるのを見た犬亜人から、奇妙な遠吠えが放たれた。
生き残っていた犬亜人の戦士達も慌てて逃げ出したが、リゼとレオの二人は容赦なく襲い掛かる。一匹たりとも逃がしはしない、とでも言うように。
俺も三人の仲間と共に、懐かしい戦闘の昂ぶりを感じながら、逃げようとする敵の追撃を開始した。
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