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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第九章 パールラクーンを巡る戦い

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女神アヴロラの警告

 ボロッコスの東へ続く街道、その先の分かれ道で北へ緩やかに曲がる道を走って行く。そうして中央都市まで馬車が走り続けた。かなり長い時間を使って。

 都市を囲む壁を越えて街の中に入って行くと、猫獣人フェリエス小獣人エルニスが街の中を歩いているのが見える。

 そのどちらも──もとより小獣人には女性しか居ないが──女性の姿が多くある。男性の猫獣人は戦場に行っているのだ。

 戦いに不慣れな彼らが戦場で、どの程度つかえるか──それは不明だが。

 街の様子はかなり寂しい。大通りから見える広場には、戦地に運ぶ物品らしき物を集めた場所があり、荷車に木箱をせているところだった。


「ここも戦争の影響を受けているみたいね」

「それはそうだろう、パールラクーンの大地の中央に位置しているんだ。むしろ他の町よりも、敵地に近い場所だと言える」

 リゼミラの言葉に応えつつ、奴ら犬亜人ババルドが「神聖な都市」だからと、攻撃を控えるはずはないと説明した。

「それもそうか──あいつら、会話も通じないしね」

 地図には大地の中央線上にあるいくつかの町の名前があったが、それはここアーカムの西側に多く、東側──小獣人族の領土ちかくには、南側にある町しかないらしい。

 神殿の近くまで馬車が進み、神官に降りるよう言われると、俺達は馬車を降りて神殿に向かった。




 猫獣人の神官に案内されて、神殿の奥に通された俺と仲間達。

 綺麗な、ほこりひとつない通路を歩き、左右に扉のある場所まで来ると──リゼミラ、アディーディンク、レオシェルドの三人は、神官に控えの間で待つよう言われ、片方の扉を開けて部屋に入って行く。

 俺だけがその反対にある扉を開けて、庭園の様に草花に囲まれた部屋の中を通り過ぎ、その先にある女神の間へと入って行った。


 大きく白い石柱が立ち並ぶ間を通り、先にある女神の前に向かう。広い空間の奥──そこで寝そべる大きな、大きな人影。

 緑色の絨毯じゅうたんが敷かれた先に居る、巨大な体を横たえた女神は、相変わらず気怠けだるげにしてふかふかの座椅子布団に体を預けていた。


『……お久しぶりですねオーディスワイア、どうぞこちらへ』

 女神は目も開けず口も開かずに、頭の中に呼び掛けてきた。

『あなたが小獣人族の求めに応じ、こちらの戦いに協力する決意をしてくれた事に、感謝します』

 薄衣を身にまとい、大胆に肌をさらす女神は、うつ伏せに布団の上に寝転び、たわわな乳房を押し潰す格好で、布団に押しつけている。


「お久し振りです」

『このような格好で失礼します。もうお聞きの事でしょうが、この大地に争いが巻き起こり、私の力のおよばぬものが、大地の生命を食い尽くそうとするみたいに、わたしの力を奪ってゆくのです』

 女神の声は力なく、弱々しい山彦やまびこの様に不鮮明だった。

「パールラクーンで何が起きているのですか」

 すると女神は微動だにせず、目をうっすらと開き、独り言の様につぶやく。


『実は……半年ほど前に、大地の周囲に張られた結界を越えて、混沌こんとんに侵入されてしまったのです』

 女神はその事を神官達に説明し、北部の山脈への調査に行かせたらしいのだが……

『残念ながら、混沌の発見には至りませんでした。それほど強力な力を持った個体ではないので、大地の気脈を強化し、混沌の力を退しりぞけようと、私は多くの力を使って抵抗したのです。混沌はもう感じられなくなったので、消滅したものと思っていましたが……』

「そうではなかった?」

 俺の言葉にまばたきでうなずくアヴロラ。


『そうなのです。あれからしばらくして犬亜人の数が明らかに増加し、北の山脈地帯から南下して、猫獣人の狩り場や集落に現れ、彼らと争う事が増えたのです』

 ふむ──と、考えていると、女神はさらにこんな説明を始めた。

『それに気掛かりな事が。……私も神官から報告を受けただけなのですが、この()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()というのです』

「死体が消える……? よく分かりませんね、混沌と何か関係がありそうな現象ですが……」

 夜中の間に犬亜人が一部の死体を回収しているとは思えない。

『混沌のはっきりとした気配が感じられない以上、明確な事は言えませんが、今回の犬亜人の増殖と侵攻は、混沌の影響があると考えてください』


 混沌が犬亜人を使って何かしようと企む……?

 そんな事が可能なのだろうか? 混沌には意思が存在しないと思っていたのだが。

 大地に住む生き物を侵蝕しんしょくし、取り込んでしまうのならあり得るが、犬亜人の数を増やしたり、侵略するよう仕向けるなど、指揮するだけの能力があるとは思えないのだ。


「……分かりました、充分に注意してシュナフ・エディンに向かいます」

 女神は本当に多くの力を使い、消耗している様子だ。以前は動いてこちらを見つめたりしてきたが、それすらも出来ないようで、ぐったりと体を横たえている。

 今も混沌を追い払うよう、力を尽くしているのだ。




 俺は女神に頭を下げると、謁見えっけんの間から出て、仲間達に事の次第しだいを報告に行く。


「あ、もう終わったんですか」

 アディー達は控えの間に置かれた女神の像を見ていた。その像は俺が贈った「生命の杖」を手にした女神の像で、部屋の奥にある黒い台座の上に立っていた。

「この石像が手にした杖って、オーディスが作ったやつなんだってね。ここに書いてあるよ」

 リゼミラが指差した小さな立て札には「生命の杖手にする女神像」と書かれ、その下に「フォロスハートの錬金鍛冶師オーディスワイアから贈られた杖は、パールラクーンとフォロスハートの友好の証」であると記されていた。


 光沢のある白い石を削って作られた人間大の石像は美しく、かなりの名工の手によって作られた物であると思われる。……実際の女神に似ているかと言われると微妙なところだが、目を閉じた女神の感じは出ている。


「友好の証か、ずいぶん大きな扱いなんだな」

「それで、その女神様の話はなんだったんですか?」

 アディーに尋ねられた俺は、混沌の大地への侵入が、今回の犬亜人の侵攻と関係があるのではという、女神の言葉を簡潔に伝えた。


「なるほど……それは厄介やっかいですね」

「夜の間に死体が消える? 混沌から生み出された敵の死体も、日をまたぐと消えたりする場合があるな。確かに混沌の仕業と考えられる」

 レオも女神の推測に後押しをする。

「実際に戦っている者から聞いてみないと分からないが、ただの犬亜人の群れではなさそうだ」

 俺は三人の仲間に気をつけるよう言って、すぐにシュナフ・エディンに行こうと控えの間を出て、神殿都市の東へ向かう事にした。

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