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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第九章 パールラクーンを巡る戦い

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戦いに揺れる心

戦いに赴く兵士の気持ち、そうした感覚になるオーディスワイア。

フォロスハートに飛ばされてきた彼も、はじめは恐怖心などに押し潰されそうになりながら、懸命に冒険に出ていた、というお話。

「またなんか小難しい事を考えてる」

 前に座るリゼミラが言う。

「ん、ああ……」

 顔に出ていたようだ。だが、それも無理ないだろう、戦争での残酷な暴力の有様ありさまは、映画や映像資料、その他にも本から得た知識で理解しているのだ。


 戦争の恐ろしさは、「日常」という皮をかぶって隠していた人間の残虐性が、勢いを増して現れ出て、暴力の波に飲まれてしまうところにある。

 理性よりも暴力を受け入れてしまえば、敵だろうと味方だろうと、どちらにしても平時に持っていた均衡バランス感覚は失われ、精神的に破滅をもたらす事すらあるのだ。


「戦争に突入する不安があるのは理解しているけれど、もう少し()()()()()()()()()()()もいいんじゃない?」

 そう言われ()()とする

 冷静になって考えてみれば──以前の俺達は、危険な存在を相手に勝利を収めてきた。それも、巨大な化け物とも渡り合ってだ。


(地球での戦争の──()()()の戦いを想定していたが、そうじゃないんだった)


 こちらの世界には魔法もあるし、気による肉体の強化など、個人の戦う技術も、段違いに高い。

 ただ剣や槍や銃を渡されて戦うのとは訳が違う。俺自身も、相当の強さを手に入れたんだった。


 それに()()()()()()()()()犬亜人ババルドだ。

 言葉をしゃべる事もなく、凶暴で、獣が二足歩行を始めたかのような生き物。

 武器を扱う知能を持った相手だが、魔法はほとんど使ってこないと聞くし、武器などの装備にしたって、魔法が掛かっている物など作れはしないはず。

 そう考えると気持ちがいくぶん楽になる。


「そうだったな、俺達三人で冒険していた頃は、敵の数も、大きさも、凶暴性も──途方もない敵と戦ってきたもんだ」

 それに加えてレオシェルドも居るのだ。

「そうそう、大船に乗ったつもりで任せなって」

 そういえば昔、冒険者になり立ての頃の俺は──よく不安や恐怖から、考え過ぎていたものだった。


 リゼミラは血気盛んで、危険な戦いにも先陣を切ってのぞむが、俺はどちらかというと慎重に考えてから行動するよう、注意していたものだ。

 アディーディンクはそんな俺とリゼミラの間に立ち、上手く活動方針を決定して、時に慎重に、時に大胆に戦いにおもむいたのだった。


(そうだ──戦争と言っても、互いに強力な兵器で殺し合うようなものじゃないんだ)


 魔法で多くの敵を攻撃したり、味方を守ったりする事だって出来る。──さらに怪我をしても、ある程度は治せるのだ。

 悲惨な戦場の切った張ったをするのではない、むしろもっと残酷な、一方的な蹂躙じゅうりん

 蛮族(犬亜人)を撃滅するだけの、武力による制圧になる可能性だってある。


(そのばあいは、俺達は理性などかなぐり捨てた、危険な殺戮者さつりくしゃになりかねないな)


 むろん相手が人間であるなら降伏を勧告し、無駄な血を流させないよう振る舞うが──今回は、話などまったく通じない相手なのだ。野蛮できけんな侵略者。これを退しりぞける役割を求められているのだ。


「少し用心深くなり過ぎていたようだな」

 俺は前に座っているリゼミラとアディーを見た。

「かなりの数で迫ってくるとしても、ぼくの魔法で撃退して見せますよ。それでもまだ押し寄せて来るっていうのなら、そこは退却しつつ、こつこつと相手の戦力をいでいって、最終的に勝利すればいいんです」

 アディーのその言葉は、冒険者時代にも耳にした事のあるものだった。


 手強てごわい敵として名高い「混沌こんとん尖兵せんぺい」に、初めて戦いを挑もうと決めた時も、俺は相当慎重に作戦を決めて臨もうとしていたが、やばくなったらアディーディンクに回復させながら突撃する、といった無茶な事を言うリゼミラを抑え、アディーは冷静に「こちらが被害を受けるばかりで、相手に損害ダメージを与えられない状況なら、すぐに撤退しましょう」と言った。

 俺が考え過ぎて答えを出せない時には、冷静に撤退を推奨すいしょうするアディーと、前へ前へ進もうとするリゼミラに押されながら、俺は危険な戦いも、この二人と共に乗り越えて、自信をつけていったのだ。


 俺だけだったら「金色こんじきおおかみの三勇士」などと呼ばれるほどの冒険者には、なっていなかっただろう。

 傷つくのを怖れずに進むリゼミラと、考え過ぎる俺を上手く操縦コントロールしていたアディー。この三人の関係があって初めて、効率的な活動が取れていたんだ。


「アディーにもリゼミラにも、そしてレオにも今回は頼らせてもらおう」

 そう告げた俺に、アディーは見透かしたみたいに「ですね」と口にして楽しそうに笑う。

 俺の隣に座っているレオを見たが、奴は腕を組んで目を閉じ、まるで眠っているみたいに馬車に揺られている。──その顔には、戦いに臨むという緊張や恐怖は、まったく浮かんでいない。


(どうも俺だけが弱気になっていたようだな)


 地球での戦争の危険を伝える知識は、こちらのそれとイコールではない。それを考慮すべきだった。

 戦いの場から長いあいだ離れていた為に、不安ばかりが心に浮かび上がって、正確な分析や判断が出来ていなかった。これでは冒険者になったばかりの頃と何も変わらない。

 気の弱い、臆病な冒険者では、戦士にはなれない。戦いの場に必要なのは──冷静な思考と判断力、決意を持って戦いに臨む強い意志。

 覚悟を持った者だけだ。


 俺達はそういう意味では、多くのものを背負い、責任と覚悟を持って戦い続けてきた。こころざしのない戦いへの参加は、ただ力を奮いたいだけの、争いを求める闘争心や加虐かぎゃく心でしかなかったりするが、しっかりとした理念を持って戦いに臨む時、人は色々な考えや理想の下、尊厳を持って戦う事が出来る。


(俺も年を取ったものだ)


 気弱になるのは不安を感じるからだ。

 不安は弱気を誘い、弱気になると恐怖が襲ってくる。

 不安には理性や強い意志で対抗し、恐怖には勇気を持って立ち向かう。

 不安や恐怖をなくす事は出来ないが、抵抗する事は出来るのだ。それらに負けないという強い気持ち、覚悟や意志をしっかりと堅持し、立ち向かう勇気を振りしぼる。


 初めてのいのちけの戦いに臨む時、若かりし頃の俺は、恐怖に打ち勝とうと虚勢を張るのではなく、なんとか理性を働かせて、慎重に危険を回避する努力をしていたが──万全な対応などない。

 危険を前にして足がすくんでいては戦えない、それを悟ったのは──何度目の戦闘だっただろうか。


 こちらの世界に来て、初めての冒険と戦闘。

 るかられるか、そんな命のり取りに初めて踏み出すには──

 気が滅入るほどの不安や恐怖を払拭ふっしょくし、自分の心を駆り立てる闘志を沸き立たせるのが一番だ。


 そして俺の場合それを果たしたのが、共に戦う仲間の存在であり、フォロスハートに住む人々の生活を守るという役割、任務を意識しての活動だった。

 人間は決して一人では生きられない。

 それを支えるのに力や勇気を振り絞って、冒険へと向かう活力にしていた。

 自分を生かし、仲間を、自分の属する集団(フォロスハート)を守る。

 そうした気持ちを盛り上げる事でやっと、戦いへ赴く勇気を持てたのだ。

 今、それをはっきりと思い出した。

たくさんのブックマーク、評価、いいねに感謝します。

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