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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第九章 パールラクーンを巡る戦い

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パールラクーンの大地へ

パールラクーンでもオーディスワイアの迷いや、過去について語られます。

戦場へ自ら足を運ぶのには勇気が必要ですね。

 朝食を食べ終えると、いつも通り本日の予定を皆で確認する。

「俺たちは今日からパールラクーンへ向かう。向こうでの仕事もあるので、帰りが何日後になるかは分からないが、こちらはいつも通り、訓練と冒険に向かってくれ。それと──」

 カムイとリトキスに視線を送り、うなずく。

「武闘大会の応援には行けないが、思い切りやってこい。できれば──そうだな、三位以内に入ってくれたらおんの字だな」

 その言葉にリトキスはさらりと受け流すみたいに肩をすくめ、カムイは重々しく頷いて見せた。


 副団長レーチェの話に移る前にメイが立ち上がって、こんな事を言い出す。

「連絡をくれれば、いつでもパールラクーンに向かうから。助けが欲しい時は、いつでも言ってね。団長」

 少女はいつもと変わらない表情でそう言ったが、彼女なりに心配しているのだというのは伝わった。

「ああ、分かったよ。緊急事態の時は、向こうに居る管理局の職員に通信して、助けを求めるようにする」

 そう応えるとメイが椅子に座り、その隣でユナがほっとした様子を見せる。




 副団長が今日から数日のおもな予定と、武闘大会について説明すると、朝礼はお開きになった。

 俺とレオは自室に戻ると、防具を身に着け、着替えなどを入れた背嚢はいのうを背負い、玄関にやって来る。

 俺は軽硬合金フラウレグムの胸当てと籠手を付け、レオは竜鱗りゅうりんを張り付けた竜革の鎧や籠手を身に着けていた。


「そのかばんは?」

 俺が背嚢以外に、肩からげた鞄を持っているのを見て、レオが尋ねる。

「薬とか、錬成した道具とか、色々だよ。あとは小獣人エルニス用の武器と防具とかな、悪いがそれらも運んでもらうぞ」

 そう言いながら義足の確認をしていると、玄関に腰かけた俺に白猫のライムや、その子供達が近寄って来て、体をこすりつけてくる。

「なんだなんだ、暑苦しい」

「ニャァ──」

 ライムが鳴くと、子猫達もウニャウニャ、ミィミィと鳴き出した。

「よしよし、しばらく留守にするからな」


 それぞれの頭から背中を撫でてやって立ち上がると、レオと共に庭へ出る。──そこには仲間達が待っていて、見送りの為に待っていてくれたようだ。

「見送りなんていらんぞ、すぐに帰って来る。──心配するな」

 レオも新人達に声を掛けて、さっさと外に出て行った。

「気をつけて」

 心配そうなレーチェの声。

「大丈夫だよ、旅団の事は任せるぞ」

 行ってくる、そう告げて宿舎の外に出る。


 いつも通りの朝の風景。鍛冶屋の前には二人の徒弟が待っていて、彼らは黙って頭を下げて俺を見送った。

(そうとう頼りなく思われてんな)

 そう思ったが、全盛期の俺ならともかく、片足を失ってからは冒険にも出なかったから、無理もないか。パールラクーンの危険な生物よりも、今回は犬亜人ババルドとの戦争に加わるかもしれないのだ。

 どちらが危険かなど分からないが、小獣人の国(シュナフ・エディン)に着くまで、戦いに巻き込まれたくはない。


 ──いや、犬亜人との戦いの前に、向こうの生物と戦って慣れておいてもいいか、そんな風にも思う。 転移門のある広場に行くと、リゼミラとアディーディンクが待っていた。

 アディーは昔と変わらない法衣ローブに身を包み、リゼミラは真紅鉄鋼アウラバルカムを多く使った鎧と籠手、すね当てなどを身に着けている。──それらは真新しい装備で、錬成による強化もほどこされているらしい。


「いよいよだね、こうして集まって出かけるなんて、昔を思い出すね」

 リゼミラはまったく気負う様子もなく、俺やレオの顔を見てそう口にした。

「冒険に行くんじゃないぞ、戦争だ、気を引き締めていけ」

 足下に置いてあった荷物を背負うと、リゼミラは「わかってるよ」と応えて、俺の手にしていた鞄の一つを手にした。

 アディーも似たような調子で、戦争に向かうという恐れは感じていない様子だ。

 それとなく戦争での戦いに巻き込まれるかもしれないんだぞ、と釘を刺すと、小さな大魔法使いはこう言った。


「──まあ、そうなんですけど。ぼくたち三人に加えてレオシェルドさんも居て、不安や恐怖は特に感じませんね。もちろん数の多さで来られると厄介やっかいですけど、それに対しても、なんとかなると思いますよ」

 と気楽なものだ。

 昔の冒険でも俺達三人に対し、十倍以上の敵と交戦してきた経験もあるが、アディーの楽観的な態度は、自分の魔法使いとしての実力と、強力な仲間の戦闘能力を信頼しているからなのだろう。

 確かに、俺自身も犬亜人ごときに負けるなど思わない。戦いの中で研ぎ澄まされた技量と感覚は、数の不利をくつがえすだけのものを持っていた。


 それは俺だけではない、リゼミラもアディーもレオも、それぞれが単身で大勢の敵を打ち破る力と技量を持った、達人の位階クラスにある者達だ。

「……そうだな、戦闘になったら、全力でぶち当たるだけだな」

「ぼくも魔法で援護しますから」

「ほら、行くぞ」

 リゼミラはまるで、これから遠足にでも向かうみたいな調子で荷物を持ち、転移門へと歩いて行く。




 パールラクーンに通じる転移門は、広場のすみに位置する場所に設置され、門の左右に兵士や管理局の職員が待ち構えていた。

 門の近くにテーブルや木箱が置かれ、通信機を持った職員がこちらを見て声を掛ける。

「オーディスワイアさんですね、お話は聞いています」

 メリッサがすでに手配をしていたのだ、余計な書類などを書く必要もなく、転移門を通る事が出来そうだ。

「通信機は、こちら側と転移門の向こうでは繋がりません。だから、転移門の向こう側にある通信伝達員に伝えてください。そうすれば伝達員が転移門を通って、ここから管理局に通信機で伝える事になっています」

「そうか、了解した」

 詳しくは向こう側に居る通信要員に話を聞いてください、そう言われたので、俺は黙って頷いた。


 転移門の前に立ち、しばし立ち止まって考える。

 これから向かう先は、戦場となっている大地。

 こちら(フォロスハート)の兵士や冒険者も敵に立ち向かっている最中だ。俺はその戦いには参加せず──まずは、猫獣人フェリエス族や小獣人エルニス族を守る方法を考え、救う案を提示するのを目的にしておく。

 もちろん戦線が逼迫ひっぱくしていれば、そんな悠長な事も言ってはいられないだろうが。


「ほら、なに立ち止まってんの? さっさと行くよ」

 リゼミラは鼻息も荒く、戦いにのめり込む勢いで、俺の背中を強く、強く叩く。

「いってぇ……!」

 思わずつんのめりながら、転移門に向かってよろめいた。

 俺はその勢いのまま緑色に光るもやの中に入って行き、パールラクーンの大地を踏むのだった。

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