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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第九章 パールラクーンを巡る戦い

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神々の心配

 寝台ベッドに横になったあと、背中の中心部から、寝台にゆっくりと飲み込まれるみたいな、気味の悪い感覚を味わった。

 ぞわぞわとする感覚のあと、自分の体が宙に浮かんだような、そんな感覚になる。

(意識に干渉かんしょうする何か──)

 誰かが俺を呼んでいる。

(こんな真似まねが出来るのは……)

 神だけだろう。──強引な手段に訴えてまで俺を呼び寄せるとすれば、火の女神ミーナヴァルズか。


 それにしても、これほど強引に俺の精神を呼びつけるとは。

 俺は意味もなく、彼女(女神)叱責しっせきされるのを覚悟しながら、目を開けて周囲の状況を確認する。


 そこは青と白の空間。


 自分が雲の大地に寝そべり、青い虚空こくうを見上げているのに気づいた。

「ここは──風の神の領域……?」

 上半身を起こしながらつぶやく。

「そうだ」と、落ち着いた神の声。

 声のする方向を見ると、そこには青い仮面を付けた若い男が立っていた。

「とつぜん呼び出してすまない」

 と、仮面の男は言いながら、白い雲の中から青色の椅子を二つ浮き上がらせてそれに腰かけ、俺にも座るように言う。


「オーディスワイア。君はパールラクーンに行く決心をしたようだね。──いや、それを止めるつもりもない。ただ──分かるだろう? 私の同胞は、それをあまりこころよく思ってはいないのだ」

 風の神ラホルスはそんな前置きをして、他の三神も、俺の身を案じているのだと説明する。

「もちろん、私も心配している。何故なら、現在のパールラクーンの状況は、あちらの神にすら、制御不能の状態にあるのだから」


 …確かに、女神アヴロラが健在の状況で、犬亜人ババルドの侵攻に脅かされたままというのは、気になるところだった。

「我々四神の力は、あちらの世界でも通用するが、冒険者を守るにしても限界はある」

 転移門先の冒険でも戦場でも、四大神の加護だけでは、身を守る事は出来ないのだ。だからこそ個々の戦闘力や、根性が必要なのだ。戦いとは往々(おうおう)にしてそうしたもの。

 理屈や技術だけではくつがえせない危機に対し、果敢かかんに立ち向かって行くには、精神的な力が最後に物を言う。


「風の神よ。いずれにしても、小獣人エルニスたちを助けるには、俺がパールラクーンへ行く他はないでしょう」

 彼女らの作った兵器を稼動させるには、彼女らの力だけでは無理かもしれないのだ。

「分かっている。だからこそ、私だけがこうしてお前の旅立ちの前に、お前に会いに来たのだから」

 他の三神が居ては、話が進まないと思ったらしく、風の神だけがこうして、精神世界を通じて会いに来たのだと言う。


「まずは──パールラクーンの中央神殿都市に向かい、神アヴロラから状況を聞き出すといい。きっと、我々には分からぬ事が聞き出せるはずだ」

 風の神はパールラクーンの危機について、何か感づいている様子だが、それを話す気はないらしい。

「分かりました。アーカムに立ち寄り、そこで話を聞いてきます」

 俺がそう答えると、ラホルスがうなずく。

 あちらの世界で起きている事柄は、ただ単に亜人対人間という、単純な構図ではなさそうだ。

「用心する事だ。アーカムの周辺は安全らしいが、いつ戦闘になるかは分からないからな」

「はい」




 そんな話をラホルスとした後に、俺は眠りにいた。

 神の領域から意識が下降し、そのまま自分の(肉体の)見ていた夢に移行したらしい。

 不安を抱え、怯え、膝を抱えている人々や、小獣人の姿。

 戦いに傷つき、疲れ果てた戦士達。

 そうした人々の間を歩き、不安をあおるような不気味な色の空を見上げ、戦場へと向かう俺や仲間達。

 俺自身も相当に不安だったのだろう。

 戦場へ向かおうという俺の、心象イメージを表した夢を見たのだ。

 薄暗い世界の中で傷つき打ちのめされた人々。

 そんな未来になる前に、俺が行動を起こさなければ。


 そんな決意と共に拳を握り、ぱっと目を見開くと、窓から薄明かりが射し始めていた。俺はさっと機敏に動いて義足を装着し、部屋の中で義足に体重を掛けるあらゆる動作を確かめる。

「よしっ」

 万全の体調とは言いがたいが、眠気覚ましに植物に水をやり、朝の訓練を行う事に決めたのだった。


 朝食前の軽い運動。

 新しい義足にある程度なれたが、まだまだ感触に違和感がある。

 力加減を間違えると、左足よりも勢い良く跳び上がってしまう。

「この力を利用して、突進力を利用した一撃ができそうだが」

 そう考えて突きを打つ練習をする。

「おぉっ、とっとっと……」

 前方に突進する素早い踏み込みの力を剣に乗せて打ち出す。しかし、うまく踏み止まる事ができない。

 体が右前方に流れてしまう。左足だけでは踏み止まれないのだ。


「慣れるまでは、力加減をしないとな」

 実際に敵の体に攻撃を当てられれば、前方に向かう力を敵に流せるのだが。それがどこまで体に掛かる負荷を軽減できるかは分からない。

 通常の戦闘くらいなら、この義足の持つ安定性で、かなりこなせるくらいにはなった。

 こまやかな足捌あしさばきも可能になり、大きく横へ跳ぶような回避行動も安定している。

「よし、これなら……」


 と、そこへ子猫を抱いて現れたユナとメイ。

「おはようございます」

「おはよう」

 ユナに抱かれた子猫が「ゥニャァ──」と返事をした。

 メイに抱かれた子猫は体を小さく丸め、寒そうにしているが、彼女は撫でながら子猫を愛でている。

 ユナの腕の中に居る子猫は元気で、しきりにユナの頭の方に背伸びして、彼女に甘えている仕草を見せた。


「今日から、パールラクーンですね」

 ユナは心配そうな声を出す。

「気をつけてくださいね」

「ああ」

 彼女はえて言葉にしないよう気を使っているのか、顔には「心配です」という言葉がにじんだ、不安げな笑顔を浮かべていた。

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