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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第九章 パールラクーンを巡る戦い

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ナンティルからの手紙

 宿舎に戻って夕食を食べていると、玄関の呼び鈴が鳴った。

 こんな時間に来る客は珍しい。

 それもかなり焦っている様子が、その鈴の鳴らし方でも分かる。

「誰だ、いったい」

 つぶやきながら玄関に通じる通路に向くと、座っていたエウラが立ち上がり、玄関へと向かうのを見送りながら、その来客の目的は、たぶん俺なのだろうという予感がある。

 そしてその予感は的中した。


「オーディス団長。管理局のメリッサさんです」

 と、彼女は小走りに近寄って来て、こっそりと耳打ちする。

「ん……そうか」

 俺は立ち上がり、玄関に向かいながら、客間に通すべきか、玄関前で済ましていいものかと思案する。

 ──だがメリッサにとっては、そんなものはどうでもよかったらしい。俺が宿舎から出て玄関を開けると、彼女はいきなり食って掛かってきたのだ。


「オーディスワイアさん! どういう事なのですか! パールラクーンへ、それもシュナフ・エディンに行くだなんて、私、聞いてませんよ!」

「お、そうだったか? 言い忘れてしまったな」

 彼女は小獣人エルニスのパルトラから、俺が小獣人達を助ける為に行動すると聞いたのだと言う。

「武器や防具の製造、または兵器の作製をお願いしたじゃないですか……!」

 彼女は暗い通りを照らす角灯ランタンを持った衛兵を連れ、さらになんらかの荷物を持たせていた。


「悪いが急を要する事だ。俺が小獣人族のミリスリアや、旧友のキャスティから助けを求められている以上、俺が行かなくてはならない。鍛冶の事は徒弟に一任してある。問題ない」

 きっぱりとそう告げ、明日には出立する事を説明する。

「分かっています、もう止められないというのは。そこで、これを……」

 衛兵が背負っていた革袋から、二つの木箱を渡された。


「その中には通信機と監視飛翔体が入ってます、もちろん映像鏡も。それを上手く使って、シュナフ・エディンを守ってください。通信機はパールラクーンに管理局の担当官が居ますので、何かあったらそちらに報告してください。それと、これを……」

 彼女はそう言いながら、地図と手紙を取り出す。

「これはパールラクーンの地図。それと、ナンティルさんからのあなた宛ての手紙です。管理局にも応援要請が来ていますが、彼女は今、前線の一つを守る、()()()()()()()()()()()のです」

 なんだと──あの女、今度は密偵スパイではなく、部隊長コマンダーをやっているってのか。


 俺が手紙の封を切ると、メリッサは角灯で手紙を照らしてくれた。

 その手紙には「金も支払うから、投石機などを改良して欲しい」などと書かれていた。

 あの猫女が「金を支払う」などと書くとは……

 いくつか投石機を改造する手立ては思いついていたが、それを造り、研究している時間はなかった。

「管理局としても、すぐに小獣人族の守りに加わるよう、兵士や冒険者の振り分けを考えています。現役を退しりぞいた人にも協力をお願いして、今回の案件に取り組んでいます」

 もちろん、猫獣人族の事も守らなければ、とメリッサは真剣な様子で口にする。




 どうか気をつけて、彼女はそう言い残して帰って行く。

 監視飛翔体があるのはありがたい。

 これで索敵の効率が格段に上がるのだ。

 敵の位置情報をいち早く知る事が、あらゆる戦場で有効なのは歴史が証明している。


 俺はナンティルからの手紙をしまい、木箱を持ち上げる。

 宿舎に箱を持ち運び、玄関に置いた。明日の出立に持って行く装備の一つになった。

 食堂に戻ると、管理局が準備しているパールラクーンの共同戦線に、新たな動きが出来ており、犬亜人ババルドの勢力に対して、フォロスハートも本気で反撃を食らわせるつもりなのだと、改めて実感した事を仲間に伝える。


「監視飛翔体を二つ借りた。これを使い、小獣人の国(シュナフ・エディン)を守れという事だろう」

 いよいよだな、そういった表情をしているレオシェルド。他の面々もそれぞれの想いを抱いて、戦地へ向かう仲間を心配する様子を見せていた。

 テーブルにメリッサからもらった地図を広げ、パールラクーンの地形を仲間にも把握させる。


「明日は錬成品や小獣人用に作った武器なども運ぶから、それを手伝ってもらうぞ」

 そう言って俺はレオ、リゼミラ、アディーディンクの顔を見る。

 三人は無言でうなずく。

 リゼミラは何故かニコニコしているので──俺は不信に思い、その理由を尋ねた。


「ええ? そりゃ、あんたとまた()()が出来るって考えると、なつかしい気持ちになってね。その義足もなかなかいい感じに仕上がっているらしいじゃん。()()()犬亜人どもをぶっ殺してやろう」

 などと物騒な言葉を口にする。

「勘違いするな、今回のは冒険じゃない。戦争という──危険な戦いだ。下手をすれば、数の勢いであっと言う間にあの世逝きだぞ」

 わかってるよ、と返す筋肉女リゼミラ。少々不安だが、昔から俺やアディーディンクの指示には従う奴だった。危険だと判断すれば、後退するという選択も考えられる奴なので、大丈夫だろう。




「レオ」

 と声を掛け、仏頂面で振り返った男に一本の太刀を差し出す。

「ん? なんだ、その太刀は」

「俺が打った魔剣の力を持たせた刀だ。魔力と気を吸収し、持ち主を強化する力も持った武器だ」

 受け取れと言うと、レオは首をかしげながらもそれを受け取り、ゆっくりと刀を抜く。


「なるほど、大したもんだ」

「明日からはそれを使って、存分に戦ってくれ」

 そう言ってやると、奴は物騒な笑みを口元に浮かべ「わかっている」と言いながら、刀を鞘に納める。

 レオは「少し素振りしてこよう」と言い残し、宿舎の外へと向かって行った。




 こうした事の後で風呂に入り、自室に戻ると、何故かついて来た白い子猫を膝に乗せ、椅子に座って簡単な設計図を描き始める。


 ナンティルの依頼であり、メリッサからも頼まれていた投石機の改良案。

 投石機自体の改良ではなく、飛ばす物についての改良案だ。

 要するにただの「岩」を投げつけるのではなく、「爆弾」を投げつけるようにする。

 この爆弾は火薬ではなく、魔法を封入した炸裂弾の様な物を想定している。──爆弾する魔法の結晶体を中心に、周囲を石で囲い、さらにその周辺の石にも「硬化」(短時間のみ発生させる)を掛けて弾き飛ばす。


 ただしこの爆弾を乗せた投石機は、魔法を扱える者が操作する事になるだろう。

 術式は構築したが、それをちゃんと使えるかは、実地試験をしてもらうしかない。

 コアとなる爆発させる魔法の力と、硬化を掛けた石片を弾き飛ばして攻撃する投石。手榴弾が金属片を周囲に飛ばして攻撃するのと同じ原理だ。

 簡単な説明と、魔法の術式を書いたところで眠くなってきた。

 清書する時には複写紙を敷いたところに書いて、二枚の設計図を残しておく。


 膝の上で丸くなっていた子猫は、すでにぐっすりと眠りにいている。

「お前は母親と一緒に寝ておけ」

 子猫をそっと手に乗せると、ドアを開けて部屋を出て行った。

戦争に突入する覚悟──なかなか持ち得ない感覚でしょうね。

暗い話がつづく感じになるかな……

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