一日、集中して武器を作る
魔力回復薬と強壮薬を準備し、刀を打つ支度を始めた。
レオシェルド用の太刀。魔剣の効果を持たせた魔太刀……いや、そこは「妖刀」と言うべきか。
心鉄(芯鉄)に黒銀鉄鋼を使い、刀身を銀鎧竜鉄鋼で作製する。鍛冶の本領と、錬金術の神髄を注ぎ込んで作り出す一振り。
魔法の金鎚を使い、混沌鉄鋼も加え、金属から不純物を飛ばし、鍛え上げる作業。これはケベルにも協力してもらい、短時間で仕上げた。
魔力結晶などの素材を使って魔力回路を生成し、刀を打つ。──ここからはたった一人で、炉の前で作業を行う。
熱した金属を叩き、螺旋の魔力回路を作り上げる。
絡み合う二つの術式。
複雑な紋様を生み出す流体的な動きを感じる。
魔力を一定の仕方で流れ、刀身の中に根を張っていく。
徐々にその根が切っ先にまで伸び、太刀の影が完成する時に、ぴったりと収まった。
「ようし、まだまだ余裕があるぜ」
材料を用意して、ケベルにこの太刀の鞘を作らせる。
昼前に管理局から様々な素材が届けられた。鉄や銅、クロム鉄鋼、真紅鉄鋼に聖銀鉄鋼の延べ棒など。各種精霊結晶や魔力結晶も送られてきた。
「よし」
サリエを見ると、作り置きしてあった銀の指輪や腕輪に、錬成強化を行おうとしていたので、俺は彼女に魔力回復速度上昇を付与するコツを教えてやる。
「大丈夫。この配置、呪文による集中、それで成功する。信じてやってみろ」
彼女を励まし、錬成作業を後ろから見守ると、複数の錬成強化をした後に、魔力回復速度上昇を組み込み、一回目で成功した。これは彼女にとって、いい流れになるだろう。
「よくやった」
俺は彼女にどんどん錬成強化をするよう言って、魔力回復薬を数本置いてやる。
「それと、この紫水晶を中心にした、首飾りを作ってくれないか」
そう言って、だいたいの装飾の意匠を描いた紙を手渡す。
「わかりました。錬成はしなくていいんですね?」
「ああ」
少女は頷き、金と銀を溶かしに立ち上がる。
ケベルも剣を打ち始めた。少年は今や、洗練された刀も、重く荒々しい大剣も、望んだように形作る事が出来るくらいの鍛冶師に成長していた。
立派な職人としてこれからも成長し続けるだろう。
こちらも与えられた金属を使って、今度は単属性の力を秘めた魔法の剣を作る作業に取り掛かる。──これは小獣人に渡す武器なので、短剣か、それより少し長い刀身を持つ刃に仕上げる。
かなり集中して作業に取り組んでいた俺。
一本の魔法の剣が完成すると、徒弟達を昼食に行かせ、俺は黙々と剣を鍛造する作業を続けた。
「カンッ、カンッ、カンッ、カンッ、カンッ」
その音がまるで、自分の体内から響いているような錯覚を覚えた。だがそれは、少しも嫌な気分じゃない。
(俺が金鎚になり、打ち付けられる鋼になったみたいだ)
「カンッ、カンッ、カンッ、カンッ、カンッ」
一定の規則で打たれる鋼。
それは次第に剣の形を取っていく。
魔力回路が生成され、魔法の剣として創造される武器。
この武器を持つ小獣人が、彼女らの仲間を守るに値する働きをするようにと、祈り、願いながら──俺は、剣に命を吹き込み続けた。
昼食を強壮薬や魔力回復薬で済ませ、俺は夕方まで働いた。
そうして造り上げたのは三本の魔法の剣。
どれも強力な錬成効果を持ち、一つの属性に対応した効果を、存分に引き上げてくれるだろう。
夕食を鍛冶場まで運んで来てもらうと、俺はそのままケベルの打った武器と、サリエの作った装飾品に、錬成強化を施す作業に移る。
それと──サリエに注文しておいた、紫水晶の首飾りに錬成するのも忘れない。
この金と銀の装飾を施した首飾りは、特別な物だから。
他の指輪や腕輪に錬成強化をした後で、少し休憩し、気力が充実したところで、その首飾りを錬成台の上に乗せた……
そうした作業を終えると、首飾りを手に、宿舎へと戻る。
もう外は暗く、宿舎の窓もほとんどが明かりも消え、暗くなっていたが、レーチェの部屋の明かりは灯っていた。
俺は二階にある彼女の部屋に行くと、ドアを叩く。
「はい?」
どなた? というレーチェの声。
「俺だ」
がたん、と椅子か何かをぶつけた様な音が聞こえてきた。
「おい、大丈夫か」
「も、問題ありませんわ」
そう言いながら彼女はドアを開けて顔を見せる。
「どうしましたの? もう寝るところですわ」
「これを」
俺は用件だけを済ませるつもりで首飾りを差し出す。
「これは……?」
「意匠を俺が考え、サリエに作らせた物だ。お前の目の色に合わせた紫水晶を使い、それに様々な錬成強化を施しておいた。冒険に出る時に、きっと役立つだろう」
すると彼女は首を傾げる。
「どうしたのですか、突然、こんな……」
「うむ、まあ、なんだ……しばらく、決闘はお預けになるだろうから、本当は俺が勝った後で渡したかったんだが」
彼女は「あら」と声を上げたが、反論を口にする事はなかった。
「ともかく、受け取ってくれ」
レーチェは躊躇いがちに手を伸ばし、その首飾りを手にして、薄紫色の石を覗き込む。
「見事な作りの首飾りですわね。しかし──何か、釈然としませんわ。あなた、ちゃんとシュナフ・エディンから帰って来るのでしょうね?」
俺は肩を竦めて「もちろんだ」と答えて背を向けた。
「俺がいない間、旅団の事は頼んだぞ」
「ええ、それは任せてくださいな……」
振り返ると、彼女は首飾りを握り締め、まだ不服そうな顔をしている。
俺はお休みを言うと、一階へと降りて行く。
疲れた足を引きずり、階段を踏み外しそうになりながら。




