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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第九章 パールラクーンを巡る戦い

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一日、集中して武器を作る

 魔力回復薬と強壮薬を準備し、刀を打つ支度を始めた。

 レオシェルド用の太刀。魔剣の効果を持たせた魔太刀……いや、そこは「妖刀」と言うべきか。


 心鉄(芯鉄しんがね)に黒銀鉄鋼を使い、刀身を銀鎧竜鉄鋼シルヴァルドで作製する。鍛冶の本領と、錬金術の神髄を注ぎ込んで作り出す一振り。

 魔法の金鎚を使い、混沌鉄鋼アディスヴァルドも加え、金属から不純物を飛ばし、鍛え上げる作業。これはケベルにも協力してもらい、短時間で仕上げた。


 魔力結晶などの素材を使って魔力回路を生成し、刀を打つ。──ここからはたった一人で、炉の前で作業を行う。

 熱した金属を叩き、螺旋らせんの魔力回路を作り上げる。

 絡み合う二つの術式。

 複雑な紋様を生み出す流体的な動きを感じる。

 魔力を一定の仕方で流れ、刀身の中に根を張っていく。

 徐々にその根が切っ先にまで伸び、太刀の影が完成する時に、ぴったりと収まった。

「ようし、まだまだ余裕があるぜ」

 材料を用意して、ケベルにこの太刀の鞘を作らせる。




 昼前に管理局から様々な素材が届けられた。鉄や銅、クロム鉄鋼、真紅鉄鋼アウラバルカム聖銀鉄鋼エルファリクスの延べ棒など。各種精霊結晶や魔力結晶も送られてきた。

「よし」

 サリエを見ると、作り置きしてあった銀の指輪や腕輪に、錬成強化を行おうとしていたので、俺は彼女に魔力回復速度上昇を付与するコツを教えてやる。


「大丈夫。この配置、呪文による集中、それで成功する。信じてやってみろ」

 彼女を励まし、錬成作業を後ろから見守ると、複数の錬成強化をした後に、魔力回復速度上昇を組み込み、一回目で成功した。これは彼女にとって、いい流れになるだろう。

「よくやった」

 俺は彼女にどんどん錬成強化をするよう言って、魔力回復薬を数本置いてやる。


「それと、この紫水晶アメジストを中心にした、首飾りを作ってくれないか」

 そう言って、だいたいの装飾の意匠デザインを描いた紙を手渡す。

「わかりました。錬成はしなくていいんですね?」

「ああ」

 少女はうなずき、金と銀を溶かしに立ち上がる。




 ケベルも剣を打ち始めた。少年は今や、洗練された刀も、重く荒々しい大剣も、望んだように形作る事が出来るくらいの鍛冶師に成長していた。

 立派な職人としてこれからも成長し続けるだろう。


 こちらも与えられた金属を使って、今度は単属性の力を秘めた魔法の剣を作る作業に取り掛かる。──これは小獣人エルニスに渡す武器なので、短剣か、それより少し長い刀身を持つ刃に仕上げる。




 かなり集中して作業に取り組んでいた俺。

 一本の魔法の剣が完成すると、徒弟達を昼食に行かせ、俺は黙々と剣を鍛造たんぞうする作業を続けた。


「カンッ、カンッ、カンッ、カンッ、カンッ」


 その音がまるで、自分の体内から響いているような錯覚を覚えた。だがそれは、少しも嫌な気分じゃない。

(俺が金鎚になり、打ち付けられる鋼になったみたいだ)


「カンッ、カンッ、カンッ、カンッ、カンッ」


 一定の規則リズムで打たれる鋼。

 それは次第に剣の形を取っていく。

 魔力回路が生成され、魔法の剣として創造される武器。

 この武器を持つ小獣人が、彼女らの仲間を守るに値する働きをするようにと、祈り、願いながら──俺は、剣に命を吹き込み続けた。




 昼食を強壮薬や魔力回復薬で済ませ、俺は夕方まで働いた。

 そうして造り上げたのは三本の魔法の剣。

 どれも強力な錬成効果を持ち、一つの属性に対応した効果を、存分に引き上げてくれるだろう。

 夕食を鍛冶場まで運んで来てもらうと、俺はそのままケベルの打った武器と、サリエの作った装飾品に、錬成強化を施す作業に移る。


 それと──サリエに注文しておいた、紫水晶の首飾りに錬成するのも忘れない。

 この金と銀の装飾を施した首飾りは、特別な物だから。

 他の指輪や腕輪に錬成強化をした後で、少し休憩し、気力が充実したところで、その首飾りを錬成台の上に乗せた……




 そうした作業を終えると、首飾りを手に、宿舎へと戻る。

 もう外は暗く、宿舎の窓もほとんどが明かりも消え、暗くなっていたが、レーチェの部屋の明かりは灯っていた。


 俺は二階にある彼女の部屋に行くと、ドアを叩く。

「はい?」

 どなた? というレーチェの声。

「俺だ」

 がたん、と椅子か何かをぶつけた様な音が聞こえてきた。

「おい、大丈夫か」

「も、問題ありませんわ」

 そう言いながら彼女はドアを開けて顔を見せる。

「どうしましたの? もう寝るところですわ」

「これを」


 俺は用件だけを済ませるつもりで首飾りを差し出す。

「これは……?」

「意匠を俺が考え、サリエに作らせた物だ。お前の目の色に合わせた紫水晶を使い、それに様々な錬成強化を施しておいた。冒険に出る時に、きっと役立つだろう」

 すると彼女は首をかしげる。

「どうしたのですか、突然、こんな……」

「うむ、まあ、なんだ……しばらく、決闘はお預けになるだろうから、本当は俺が勝った後で渡したかったんだが」

 彼女は「あら」と声を上げたが、反論を口にする事はなかった。


「ともかく、受け取ってくれ」

 レーチェは躊躇ためらいがちに手を伸ばし、その首飾りを手にして、薄紫色の石を覗き込む。

「見事な作りの首飾りですわね。しかし──何か、釈然しゃくぜんとしませんわ。あなた、ちゃんとシュナフ・エディンから帰って来るのでしょうね?」

 俺は肩をすくめて「もちろんだ」と答えて背を向けた。


「俺がいない間、旅団の事は頼んだぞ」

「ええ、それは任せてくださいな……」

 振り返ると、彼女は首飾りを握り締め、まだ不服そうな顔をしている。

 俺はお休みを言うと、一階へと降りて行く。

 疲れた足を引きずり、階段を踏み外しそうになりながら。

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