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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第九章 パールラクーンを巡る戦い

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猛火の魔法核の作製

やや小難しい錬金術の思想を含めつつ……

 宿舎に戻ると、廊下に上がる時に四枚の足板を布で拭き、木の床をペタペタと歩いて食堂へ向かう。

 そこでは仲間達が、俺の新しい義足の話で盛り上がっていた。


「それが新しい義足ですか」

「何その形……そんなんで歩けます?」

「板じゃん」

 そんな心ない言葉を浴びせ掛けてくる仲間達。

「しっつれいな奴らだなぁ……せめて、足板と言ってくれ」

 仲間達にイジられながら席につくと、斜め前に座っていたレーチェが不安げなおも持ちで話し掛けてくる。


「本当に小獣人エルニスを助けに行かれるのですか」

「ああ、彼女らの作った機械が稼動するかどうかも見て欲しいらしくてな。どういった機械かまでは書かれていなかったが、おそらく兵器なのだろう」

 それさえ動けば、シュナフ・エディンを守る強力な力に成り得ると、ミリスリアは考えているようだった。

 そうですか……と、力なく応える副団長。

「本当ならわたくしも、彼女らを守る戦いに参加したいのですが」

 俺は彼女の言葉にうなずき、こう答えた。

「分かっている。だがそれは、俺やリゼミラやレオに任せてくれ。──それにアディーやキャスティ、アウシェも居るんだ。俺達だけでも充分に戦力になるはずだ」


 彼女は「わかりましたわ」と応じたが、心に迷いがあるのだろう、今一つ表情が冴えない。

「ともかく、副団長は旅団の方を頼んだぞ。カムイとリトキスは武闘大会に参加しなければならないしな。通常の冒険で素材を確保しなければ、パールラクーンを助ける前に、フォロスハートの維持が出来なくなるぞ」




 朝食を食べる前にそんな真剣な話をして、俺は宿舎を出ると、ただちに作業に向かう。

 ──今日は武器を作る前に、ミリスリアから頼まれた、「火の魔法を封じ込めた魔法のコア」の生成をしようと思う。

 これは貴重な素材も使うが、何より正確な術式を描き、精緻せいちな錬成を行える錬金術師にしか作り得ない物だ。


 炉の火を使い、魔力結晶を使い、精霊石や精霊結晶なども大量に消費する。

 何度もそうした繰り返しの作業をおこなって、一つの水晶を作り出す大いなる作業。

 錬金術と魔法の織り成す、精霊の力を極限にまで求める錬成の一つと言える。

 そこから生み出される活動力エネルギーは、大きな魔法の核となり、膨大な力を生み出す。


 この高位錬成には、精霊の力と正面から向き合う強靭な意志と、冷静な知性や思想が必要となる、と考えられている。

 何故なら世界の意思とは、()()()調()()、それぞれの()()()()()()()にあるからだ。

 互いに対立する力として、打ち消し合っているだけでは、物事の仕組みは成り立たない。一つの大きな歯車を回す為に、小さな無数の歯車が間に入る必要もある。

 力の均衡きんこうとは、そうした様々な衝突を調整する、霊魂の質にある──

 それこそ古い錬金術の目的が、物質との対峙たいじから得られる、真理の探究にあったのだ。

 科学が観測者の技量や認識以上の答えを導けないのと同様に、錬金術では術者の技量と、その魂のようが求められるのである。




 炉の前に錬成台を置き、素材を乗せたテーブルも用意する。

 すべき事は理解していた。

 その作業の難しさ、集中力を欠いてはいけない厳しさ。そうしたものを乗り越えて、完成への道へ至ろう。


「私は精霊に導かれ、その険しき真実の道を歩む者。冷厳なる火の主に呼び掛ける。炎の谷を抜け、彷徨さまよう魂を救いたまえ。

 火の根源に触れ、焼かれて灰となるものに過ぎなかったとしても、あなたの導きによって、魂魄こんぱく深淵しんえんに触れ、叡智えいちの火種を持ち帰る者と成ればなり」

 儀式の始まりに祝詞のりとをあげ、炉の中で燃える炎に火の精霊石を入れる。

 錬成台の中央に乗せた鉄の器に、魔力結晶と火の精霊結晶を入れ、錬成台に火の精霊石と精霊結晶と、魔力結晶を配置して、炉の中に火の精霊石を三つ、鉄の柄杓ひしゃく(取鍋)に乗せて熱する。


 バチバチと音を立てて火花を散らし、柄杓の中でコロコロと動き始めた。

 それを錬成台中央の器に移し入れる。

「粗雑なるもの、火は不浄を払い、清める。

 命のことわりと同じく、魂の理にしかり、火よ我を導き賜え。

 幽明の理をもって、れなるものに、示し与えよ。

 輝かしきほのおの御手で、我が魂を払い清め賜え」

 その呼び掛けは呪文であり、言霊ことだまとなる。

 呪文を唱えながら、この儀式を三度繰り返す。


 鉄の器で燃える精霊石の炎を受け、器の周りに置かれた結晶なども燃え上がり、錬成台から火のかたまりとなって、錬成台の中央に飛び込んでいく。

 その間に再び錬成台に、代わって火の精霊石や精霊結晶、魔力結晶を配置する。

 そしてまた炉の中に柄杓を差し入れ、精霊石を燃やすのだ。

 四度目に、火の精霊石に代わって、混沌こんとん多色玉石(たまいし)と混沌結晶を配置して、最後の作業に取り掛かる。


 流れる様に作業を進めながら、一つ一つの配置や動きに集中する。──どうすべきか、どうやるか。迷いなく、的確な動きのみを求めて。

 炉から取り出す最後の火の精霊石。

 柄杓は熱を持ち、熱くなっている。耐熱手袋をしていても、伝わってくる熱さ。

 それよりも儀式に集中する、──しなければならない。


「ここに、火の根源たる力を託したもう、大いなる秘儀の顕現けんげん、盟約を以て成されたり」

 錬成台の上で緋色ひいろの火が燃え上がる。

 炉の熱と、錬成台の熱が合わさり、術者に灼熱の息吹が吹き掛けられたようなものだ。

 ごうごうと音を立てて、火が鉄の器の中に集まり、熱を帯びた器の中に、緋色の丸い結晶体が現れた。


「……ふぅ、────成功だ」

 俺はその場を離れると、椅子に腰掛けた。

 徒弟達が扇ぐ団扇うちわの風で癒されながら、ゆっくりと体温を下げる。

 冷たい水を飲むのは、その後だ。

 徒弟達は複雑な錬成儀式を目の当たりにし、だいぶ緊張しながら見守っていたらしい。二人して団扇であおぎながら、儀式の要点について話している。


「方法は『錬成指南書』や『叢書そうしょ』を調べてくれ。ただ、最後のやり方は俺独自のものだから──後で『錬成帳面(ノート)』に書いておくから、それを読んで覚えるといい」

 まあ、まだまだお前達には難しい錬成だろう。そう指摘しつつ、水を飲みに立ち上がった。

 錬成台の上に置かれた鉄の器。

 その中にある「猛火の魔法核」も冷え始め、段々と──丸い水晶球の中に、緋色や真紅を閉じ込めた、美しい輝きを放ち始めた。

いいねボタンが実装されてから初めての投稿。


さっそくいいねしてくれた人、ありがとう~♪

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