猛火の魔法核の作製
やや小難しい錬金術の思想を含めつつ……
宿舎に戻ると、廊下に上がる時に四枚の足板を布で拭き、木の床をペタペタと歩いて食堂へ向かう。
そこでは仲間達が、俺の新しい義足の話で盛り上がっていた。
「それが新しい義足ですか」
「何その形……そんなんで歩けます?」
「板じゃん」
そんな心ない言葉を浴びせ掛けてくる仲間達。
「しっつれいな奴らだなぁ……せめて、足板と言ってくれ」
仲間達にイジられながら席につくと、斜め前に座っていたレーチェが不安げな面持ちで話し掛けてくる。
「本当に小獣人を助けに行かれるのですか」
「ああ、彼女らの作った機械が稼動するかどうかも見て欲しいらしくてな。どういった機械かまでは書かれていなかったが、おそらく兵器なのだろう」
それさえ動けば、シュナフ・エディンを守る強力な力に成り得ると、ミリスリアは考えているようだった。
そうですか……と、力なく応える副団長。
「本当なら私も、彼女らを守る戦いに参加したいのですが」
俺は彼女の言葉に頷き、こう答えた。
「分かっている。だがそれは、俺やリゼミラやレオに任せてくれ。──それにアディーやキャスティ、アウシェも居るんだ。俺達だけでも充分に戦力になるはずだ」
彼女は「わかりましたわ」と応じたが、心に迷いがあるのだろう、今一つ表情が冴えない。
「ともかく、副団長は旅団の方を頼んだぞ。カムイとリトキスは武闘大会に参加しなければならないしな。通常の冒険で素材を確保しなければ、パールラクーンを助ける前に、フォロスハートの維持が出来なくなるぞ」
朝食を食べる前にそんな真剣な話をして、俺は宿舎を出ると、ただちに作業に向かう。
──今日は武器を作る前に、ミリスリアから頼まれた、「火の魔法を封じ込めた魔法の核」の生成をしようと思う。
これは貴重な素材も使うが、何より正確な術式を描き、精緻な錬成を行える錬金術師にしか作り得ない物だ。
炉の火を使い、魔力結晶を使い、精霊石や精霊結晶なども大量に消費する。
何度もそうした繰り返しの作業を行って、一つの水晶を作り出す大いなる作業。
錬金術と魔法の織り成す、精霊の力を極限にまで求める錬成の一つと言える。
そこから生み出される活動力は、大きな魔法の核となり、膨大な力を生み出す。
この高位錬成には、精霊の力と正面から向き合う強靭な意志と、冷静な知性や思想が必要となる、と考えられている。
何故なら世界の意思とは、対立と調和、それぞれの異なる力の和合にあるからだ。
互いに対立する力として、打ち消し合っているだけでは、物事の仕組みは成り立たない。一つの大きな歯車を回す為に、小さな無数の歯車が間に入る必要もある。
力の均衡とは、そうした様々な衝突を調整する、霊魂の質にある──
それこそ古い錬金術の目的が、物質との対峙から得られる、真理の探究にあったのだ。
科学が観測者の技量や認識以上の答えを導けないのと同様に、錬金術では術者の技量と、その魂の有り様が求められるのである。
炉の前に錬成台を置き、素材を乗せたテーブルも用意する。
すべき事は理解していた。
その作業の難しさ、集中力を欠いてはいけない厳しさ。そうしたものを乗り越えて、完成への道へ至ろう。
「私は精霊に導かれ、その険しき真実の道を歩む者。冷厳なる火の主に呼び掛ける。炎の谷を抜け、彷徨う魂を救い賜え。
火の根源に触れ、焼かれて灰となるものに過ぎなかったとしても、あなたの導きによって、魂魄の深淵に触れ、叡智の火種を持ち帰る者と成ればなり」
儀式の始まりに祝詞をあげ、炉の中で燃える炎に火の精霊石を入れる。
錬成台の中央に乗せた鉄の器に、魔力結晶と火の精霊結晶を入れ、錬成台に火の精霊石と精霊結晶と、魔力結晶を配置して、炉の中に火の精霊石を三つ、鉄の柄杓(取鍋)に乗せて熱する。
バチバチと音を立てて火花を散らし、柄杓の中でコロコロと動き始めた。
それを錬成台中央の器に移し入れる。
「粗雑なるもの、火は不浄を払い、清める。
命の理と同じく、魂の理に然り、火よ我を導き賜え。
幽明の理を以て、是れなるものに、示し与えよ。
輝かしき焔の御手で、我が魂を払い清め賜え」
その呼び掛けは呪文であり、言霊となる。
呪文を唱えながら、この儀式を三度繰り返す。
鉄の器で燃える精霊石の炎を受け、器の周りに置かれた結晶なども燃え上がり、錬成台から火の塊となって、錬成台の中央に飛び込んでいく。
その間に再び錬成台に、代わって火の精霊石や精霊結晶、魔力結晶を配置する。
そしてまた炉の中に柄杓を差し入れ、精霊石を燃やすのだ。
四度目に、火の精霊石に代わって、混沌多色玉石と混沌結晶を配置して、最後の作業に取り掛かる。
流れる様に作業を進めながら、一つ一つの配置や動きに集中する。──どうすべきか、どうやるか。迷いなく、的確な動きのみを求めて。
炉から取り出す最後の火の精霊石。
柄杓は熱を持ち、熱くなっている。耐熱手袋をしていても、伝わってくる熱さ。
それよりも儀式に集中する、──しなければならない。
「ここに、火の根源たる力を託したもう、大いなる秘儀の顕現、盟約を以て成されたり」
錬成台の上で緋色の火が燃え上がる。
炉の熱と、錬成台の熱が合わさり、術者に灼熱の息吹が吹き掛けられたようなものだ。
ごうごうと音を立てて、火が鉄の器の中に集まり、熱を帯びた器の中に、緋色の丸い結晶体が現れた。
「……ふぅ、────成功だ」
俺はその場を離れると、椅子に腰掛けた。
徒弟達が扇ぐ団扇の風で癒されながら、ゆっくりと体温を下げる。
冷たい水を飲むのは、その後だ。
徒弟達は複雑な錬成儀式を目の当たりにし、だいぶ緊張しながら見守っていたらしい。二人して団扇で扇ぎながら、儀式の要点について話している。
「方法は『錬成指南書』や『叢書』を調べてくれ。ただ、最後のやり方は俺独自のものだから──後で『錬成帳面』に書いておくから、それを読んで覚えるといい」
まあ、まだまだお前達には難しい錬成だろう。そう指摘しつつ、水を飲みに立ち上がった。
錬成台の上に置かれた鉄の器。
その中にある「猛火の魔法核」も冷え始め、段々と──丸い水晶球の中に、緋色や真紅を閉じ込めた、美しい輝きを放ち始めた。
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