新しい義足に慣れよう
翌朝、昨日の夜は訓練できなかった分、朝練に力を入れる事にした。
睡眠時間は充分とは言えないが、強壮薬などで誤魔化す。
新作の義足を付けて、様々な体勢からの攻撃を行っていると、カムイとレンネルが庭にやって来た。
「おはようござ……ぅぇっ⁉ ──なんです? その足は……!」
カムイが驚きの声を上げ、レンは興味深そうに俺の右足を見つめている。
「新しい義足ですか? 変な形ですね」
二人は無遠慮に義足をまじまじと見ながら、こんなんで歩けるのか、みたいな事を口にしている。
「ふっふっふっ、素人どもめ。見よ、この跳躍力を!」
そう言って思い切り右足で飛び跳ねた。
「おぉおぉォッ⁉」
二人の頭上を飛び越えそうなほど、高く飛び上がった身体。
俺自身も驚いて声を上げてしまった。
義足は着地の衝撃にも耐えたが、左足の太股が痛い。
「ふ、ふわぁはははっ、どうだ、すごいだろう」
「というか、オーディス団長も跳び過ぎて、びびってませんでした?」
変な声を出してましたが、とレンネルがつっこみを入れる。
「そんな事はない」 俺は堂々と嘘を吐いた。
そう言いながら軽やかに足取りを踏み、横や後ろへ移動する。
足を広げて屈み込むと、義足の内側に付いた足板が地面をぐっと押さえ込み、踵の役割をする足板を蹴り込むようにして、低い姿勢から前進しつつ、木剣を突き出す。
「ぉおっ!」
「普通に動けているじゃないですか!」
こんな奇妙な形なのに信じられない、そんな言葉を口にしながら、新たな義足に興味津々の様子を見せる。
「だが──太股と膝下の部分にも負担が掛かるな、衝撃を抑えられるようゴムを付けているんだが」
太股を革帯でしっかりと締め付け、ちぎられた膝下の部分にあてがったゴムと緩衝材、こうした物で義足を固定し、足への負担をなくしているのだ。
「足があった頃のようにはいかないが、それでも前の義足よりは、可動域が増えた感覚だ」
早速、訓練相手をしてやろう。
俺はそう意気込んでカムイやレンネルと朝練を始めたが……
「ぉおふ……、闘いの感覚までは戻っていないようだな」
カムイは疎か、レンネルにも負けてしまった。
「いや、防御や反撃は鋭いのですが、やはり足捌きがまだまだ不安定なんじゃないですか?」
「むしろ、義足を使って踏み込むと、その勢いに身体の重心がブレてます」
げげっ、見抜かれている。──そう、確かにレンやカムイの言うとおりだ。
今までの義足の感覚で踏み込むと、予定していたものよりも、強い勢いで身体が流れてしまう。
「まずは、この義足の使い方を覚えないと駄目だな」
俺は一時、木剣を手にした訓練を切り上げ、義足に慣れる為に、宿舎の外を走る事にした。
「カシッ、カシッ」
そんな静かな足音を立てて道を走る。
舗装された路面を走る感覚でも、だいぶ今までの義足との違いを感じる。
まだ朝早いが、大通りには人が数人歩いていた。
「おはようございます」
前から歩いて来た見知らぬ男に挨拶される。
「おはよう」
その横を通り過ぎながら挨拶を交わす。
こちらの早朝ではだいたいこんなもの、人通りの多い昼間などではあまりしないが、すれ違っただけの人にも挨拶はするのが自然なのだ。
「タシッ、タシッ」
音が軽くなった。変な力みが抜け、義足の反動に慣れてきたのだ。
「ほっ、ほっ、ほっ」
駆け足でも、だいぶ扱いが慣れてきた。
裏通りに入り、公園の前を通ると、長椅子に腰を下ろすか、芝生でのんびり足を伸ばそうと思い、公園に寄る事にする。
焔火の光が公園を照らし、長椅子が置かれた場所を照らしていた。
暖かい光に誘われるように、その長椅子に近寄ると、ちょうど先客が歩いて来ているところだった。
「ニャァ──」
薄茶色の毛をした猫が長椅子にぴょんと跳び乗り、こちらに声を掛けてくる。
「おはよう」
猫は後ろ足で耳を掻き、欠伸をした。
俺は野良猫の横に腰掛け、義足の具合を確認する。異常はない、太股に装着した覆い部分も、しっかりと固定されている。
膝下の「板バネ」部分も固定してあり、曲がりの部分がおかしくなったりする事もない。
魔法で解析してもても、まったく損傷している箇所は無い。
「よしよし、これなら充分に使えるな」
「ニャァ──」
野良猫が俺の言葉に返事し、太股に乗ってきた。
その背中を撫でてやると、猫は満足げに俺の足の上で四つん這いになる。
何歳くらいの猫なのだろう。日向ぼっこをしている姿は、かなり老齢な感じを醸し出している。
喉を触ると嬉しそうに顔を上げ、目を瞑って撫でられるままになっている。
「ほれほれ」
調子に乗って撫でていると、野良は嫌がって、前足を俺の手に乗せて払い除けた。
「ゥニャァ──」
そう声を上げて、ごろんとひっくり返り、お腹を見せたので、そのお腹をくすぐってやる。
なかなかに甘え上手な野良猫だ。
優しくお腹を掻いていると、前足で俺の手を掴み、後ろ足で優しく蹴ってじゃれついてきた。
おっと、こんな事をして和んでいる場合じゃない。俺はこれから戦いに行く準備をしなければならないのだ。
「またな」
野良猫を長椅子に降ろし、再会を約束する。
「ナァア~~」
猫は寂しげな声を上げ、俺を見送っていた。
義足の形状が難しい感じに……だいたい、こんな感じかな? と想像していただければ。




