新義足の開発
脱字修正ありがとうございます。
管理局を出た時には、かなり外は薄暗くなり始めていた。店が閉まる前にガゥレン樹液を買おうと、キャシル素材店を訪れる。
「おや、オーディスじゃないか。どうした、そんなに慌てて」
キャシルの父親が店じまいをしていた。
「慌てるさ。ガゥレン樹液が欲しいんだ。置いてあるか?」
「樹液──あるぞ、少ないがな」
「それと、溶岩はあるか?」
「岩石なら大量に在庫がある」
よし、と俺は呟き、金を支払って樹液の入った瓶と、岩石を入れた麻袋を持って店を離れた。
素材屋の親父が引くほどの早さで、急ぎ宿舎へと戻る。──食事を食べたら、すぐにでも錬成をしたいのだ。
宿舎の食堂では、仲間達がもう食事を始めていた。
「どこへ行ってたんですか? 鍛冶屋にも居なかったので、探してしまいました」
「風呂場で倒れてたりね」
ユナとメイが心配(?)していたんだ、という風に話す。
「ああ、すまん。管理局に行ってたんだ。食事を食べたら、すぐに鍛冶屋へ行かないと」
そう言いながら忙しなく、冷めかけた料理をかっこむ。
足にじゃれついてくる猫も無視して、俺は食事を終えると、新しい義足を作る為に鍛冶場に戻り、ガゥレン樹液と溶岩から、試しに錬成した素材を作り出し、剛性や柔軟性を確認する。
「確かに丈夫で、折れにくいが……」
反発力が足りないか? 体重を支え、素早く動くには──もっと強い反発力、弾力が必要だ。
不発か──そう思い始めた時、運動選手の義足に使われている素材がなんなのか、それを考えてみた。
「競技用義足は、炭素繊維強化合成樹脂だったか? 炭素素材──強靭、柔軟、反発力……ゴムだけじゃ駄目だ。炭素……そうか! 骨だ!」
俺は竜骨を削った粉末を、ガゥレン樹液と溶岩に加え、錬成して作り上げた素材を鑑定する。
「うん、うん。……悪くない。あとは比率を変えてやってみよう」
解析した情報から当たりをつけ、理想の素材を作る研究に入る。
素材を作る作業は、一時間も掛からなかった。
「よぅし! これだ、これなら──」
後は、これをヘラみたいに薄く伸ばし、地面につく部分に丸みを持たせれば……
鎧や籠手を作る時に使う、圧力板がある。緩やかな曲線を作りながら素材を伸ばす、そんな道具があるので、それにこの新素材を入れて伸ばし、強靭な板を作ろう。
俺は早速、新しい義足の設計図の作製を開始した。
運動選手がするような、一本の湾曲した板などではなく、身体の外側や内側に対する、「地面を噛む」動きが出来なくてはならない。
それは足の指がそれぞれ地面を掴んで、身体を支える動きをするように。──または筋肉が重心を制御して、身体を倒さないようにするみたいな。そんな機能も持たせなくてはならないのだ。
「せめて、横移動がしやすくなるような、そんな義足でなければな」
俺は今までの義足の様な「人の足の形」あるいは、具足の様な形を捨てて、運動選手の競技用義足を想像しながら、どうすれば様々な動きに対応できる義足になるかのみを考えて、細かな設計図を作り出したが──
数枚のごちゃごちゃとした部品が付いた形を捨てて、なんとかそれっぽい義足の設計図を作成した。
「う──ん、かなり細かな作業になりそうだ」
図面を見ながら大きさを調整する。
太股に装着する覆い部分と、膝の動きに対応する関節部分、俺の場合は膝の下に体重を支える大本の部分を作り、そこから足となる「板バネ」を取り付けるのだ。
足板は強靭で柔軟性のある、運動性能を向上した義足になった。
「五輪に出る訳じゃないからな」
人体以上の能力を発揮する器具になっても構わないだろう。──ただ、走る時にもう一方の生身の足と調整できないと、どちらにしろ均衡が崩れて転んだりしそうだ。
完成した部品を組み合わせ、実際に履いて確かめてみて、何度も作り直す。
後ろに下がったり、横に踏ん張ったり、足を広げてそこから立ち上がったり……
様々な挙動に対して対応できる形。
それを確認しながら、やっと一つの成果が完成したのだった。
「新義足一号──『ヘパイストス1号』だ!」
……やめておこう、こちらの世界にギリシャ神話の神を持ち出すなんて、縁起が悪い気がする。
付けるなら──「強化板義足」でいい。ちょっと堅い名付けだが、分かりやすいだろう。
ともかく、第一号が完成した。
湾曲した板には、地面に触れる部分に滑り止めと、消音機能を持たせたゴム板を張り、中心の大きな板はくの字型に曲がり、前方に向かって地面を踏み締めている。
湾曲し、弧を描く形にしようと思っていたが、完成した物は、鳥の足の様な、逆関節になった足板にした。こちらの方が足を踏み込む時の安定感が良かったからだ。
このくの字型の湾曲部分には、後方へ伸びる板も装着し(人の字みたいな形)、後ろに倒れ込みながら攻撃を躱したり、後方宙返りも出来るよう仕上げる。
さらに膝下から身体の内側に向かって一枚、外側に向かって二枚の伸びる足板もあり、全部で四枚の板を取り付けた義足になっているのだ。
「運動選手には不向きな作りだな」
これは戦いに使えるよう考案した義足だ。
装着して見ると、軽硬合金で作った義足と、重さはそれほど変わらない感じだ。
なにしろ強度を増す為に、数枚の板を、圧力で一枚の薄い板にしているのだ。見た目は軽そうに見えても、そこそこの重さがある。
それに「硬化(固くなる訳ではない)」と「劣化防止」の錬成を施す。
俺は完成した義足を履いたまま、鍛冶屋を出て真っ暗な表通りを歩いてみた。
「ぉおおぉっ⁉」
なんというか、いつも通りに歩こうとすると、右足だけがやたらと跳ねて、片足だけ軽く跳ねながら歩いているみたいな感覚になる。
鍛冶屋の扉を閉め、俺は宿舎まで駆け出す。
勢い余って壁に激突しそうになりながら。
まるで生まれ変わったみたいに身体が軽い。
「これは、義足の夜明けぜよ!」
俺は暗闇に浮かぶ月火に向かって叫んだ。




