魔剣の生成
魔剣を創造するに当たって、素材はだいたい確定している。まずその一本目を生成しようと試みたが──剣の形に整えている最中に、力を失って、灰となってしまった。
「そうか、魔力回路に魔力を流すだけでは駄目か」
錬金鍛冶用に造り出した魔法の金鎚は、短時間で金属を打ち伸ばし、不純物を取り除く事が出来る。しかも、金鎚に取り付けた魔力結晶から魔力を打ち込み、金属に流し込む事も出来るのだ。
軽硬合金と混沌鉄鋼の合金──これを魔剣にする作業は、想像していたよりも繊細な作業を迫られた。
一部から全体に、波が伝わるように魔力を行き渡らせながらでないと、途中で崩壊してしまうのだ。
(呆れるほど難易度が高いな)
それは魔力の流れを見ながら、波と波がぶつかり、増幅させないように、慎重に──流し込む魔力を調節しながら、鎚を打ち続けなければならなかった。
神経がすり切れるような集中を要し、一本の魔剣を打ち出す事に成功した。
「やったか!」
水に漬けて冷やし、刃を覗き込む。
そこにはエウラに見せてもらったのとは違う魔力回路と、魔法の効果を刻み付けた呪文が浮き上がって見えた。
────だが、それは、なまくらと言える仕上がりだった。
「これでは駄目だ……」
切れ味が悪いという意味ではない。
斬りつけた相手から奪う気や魔力が、剣を持つ者にいかず、また、剣にも蓄積されずに霧散してしまうのだ。
作った物を鑑定に掛け、原因を探る。──理由はすぐに判明した。
気や魔力といったものを吸収する魔剣としての魔法が、そもそも不完全なのだ。
異界の魔剣から模倣した術式では、こちらの世界の理に類する魔法として成り立たない。
「なんてこった、今になってそれに気づくとは……!」
俺はすぐにケベルを呼んだが、徒弟は作業を途中で止められない様子だ。──代わりにサリエが来たので、宿舎に行ってアディーディンクをここに連れて来るよう言った。
「あと、エウラに魔剣を借りて来てくれ」
焦りを見せる俺に怯えた様な顔をして、少女は走って鍛冶場を出て行く。
しまった……少し、焦り過ぎだ。
俺は水を口にすると、顔をひっぱたく勢いで両手で挟み、しばらく考え込む。
難しい問題に対して何か打開策はないかと考えたが、錬金術──あるいは世界の法則の中で──この問題に解答できる技術が、何かありそうなのに、これだというものが出てこない。
「あ────ッ、くっそ!」
そこへ、急ぎ足でやって来たアディーとサリエ。彼女は手に魔剣を持っていた。
「なんです? 急に呼び出して」
俺はサリエに礼を言い、魔剣を受け取るとそれを抜いて、アディーの前に差し出す。
「この魔剣に掛かっている術式を、こちら側の魔法として使えるように出来ないか?」
そう言うと、アディーは「それは無理なのでは」とあっさりと答える。
「術式はあるていど解読できますが、こちらの世界の定理に合わせるのは無理でしょう」
「だが俺は、かなり精度の高い解読をしたんだ、なんとかしろ」
「ええ────」
困ったように言うアディーに、俺が書き記した魔剣の術式を見せる。
「へぇ──これが、異界の魔剣の……ぇえっ⁉ よくこれだけ難解な術式を解明しましたね!」
紙と魔剣の刃を見比べて、さらに鑑定を掛ける小さな大魔法使い。
「なるほど、なるほど……単純化された部分の下に隠された、本当の術式が二つ刻まれていた訳ですか、──すごい発見ですね。いや、これは新たな発見ですよ!」
興奮した様子で「すごい」を連発するアディー。
「だがこのままでは、こちら側で魔剣を生成する事が出来ないんだ」
それは確かに……そう呟くと、幼い顔に真剣な表情を浮かべ、顎に手を当てる。
「うん、うん、……二重の術式で──いや、単純化されていた理由はなんだ……?」
するとアディーはテーブルの上にあった紙に、何かを書き始めた。魔剣を確認しながら、凄い勢いで一枚、二枚と書き込んでいく。
「うん、なるほど……そうか!」
そう叫ぶと、アディーは新しい紙を取り出して、そこに術式を書き始めた。
「これですよ! これなら魔剣の生成が出来るんじゃないですか⁉」
そう言って見せたのは、二つの術式を絡み合わせた不思議なものだった。だが──それは、俺には見覚えのあるものだった。
「そうか、遺伝子配列! この手があったか!」
異界の魔剣は螺旋を描く様に、二つの術式を同時に生成し、魔力回路の周辺に魔法を刻み込み、さらにそれを纏め上げる、単純な組成の術式が組み込まれていたのだ(鑑定魔法では並列して刻まれている様に見える)。
アディーは「いでんちはいれく……?」と首を傾げている。
「気にすんな! お手柄だぞ!」
俺はアディーに言って、魔剣をエウラに返すように言う。
「うへぇ……僕はもう用済みですか?」
「おう!」
俺は高らかに宣言した。
「ひどいっ!」
アディーを追い出すと、俺はすぐに魔剣に刻み込む術式を考えて、それを読み込み、何度も頭の中で反芻する。
同時に、それを金属に打ち込み、魔法として刻み付ける作業を心象訓練する。何度も何度も──
「よしっ」
そうして今度は現実の溶かした金属を前に、魔剣の生成に入る。こちらの世界の理に組み込まれる新たな魔剣の創造。
一心不乱にその作業に取り組み、俺はカムイの為に造った、一本の魔剣を完成させた。
「よしっ! ついに……やったぞ‼」
遠くから俺を見守っていた徒弟達から拍手が起こる。
俺はその賛美を受けて喜ぶ間もなく、魔力回復薬を口にして、次の魔剣づくりに取りかかった。




