不意に訪れた凶報と、旧友からの手紙
その日の午後に鍛冶屋に現れたのはメリッサだった。彼女が重要な役職に就いてからは、滅多に姿を見せる事はなかったが、突然やって来た彼女からは、必死な様子が見て取れた。
「ど、──どうした。そんなに慌てて」
彼女は馬車でやって来たはずなのに、息を切らしている。
「いえ──、色々と忙しくなったもので」
ふぅ、ふぅと、呼吸を整える彼女。
何を慌てているのかと思っていると、彼女は小さな鞄から紙を取り出し、それを見せた。
「あ──なになに……、『旅団や冒険者を統括する、新しい部署の設立について』……ほう、そうか」
その資料に目を通していると、彼女は「間違えました、こっちです」と、別の紙を差し出した。
「なんだ今度は……、『パールラクーンの情勢についての報告』──ほほう、ちょうど気になっていたところ……なにっ⁉」
そこには、かなり厳しい状況についての報告が記されていた。管理局の送り込んだ職員や冒険者による、客観的な報告の纏めであるらしく、信憑性は高いとの事だった。
「このままではパールラクーンの女神アヴロラ様の居る御所、中央都市アーカムまで、犬亜人による侵略が進むかもしれないとの事です」
メリッサはそう告げた。その報告書には、猫獣人族だけでなく、小獣人族の方も危機的状況にあり、すぐにでもフォロスハートの援助が必要である、と結論づけられていたのである。
「そしてこちらの手紙も、同時に送られて来たのです。……小獣人族のミリスリアという方から、あなた宛てに」
どうやら相当に厳しい状況なのだろう。個人宛ての手紙を、管理局への手紙と一緒に届けさせるくらいに。
ミリスリアの部下が、管理局に協力を要請する手紙と一緒に、俺への手紙も手渡したらしいのだ。
「かなり戦況は厳しく、管理局に直接、支援を要請する手紙の内容でした」
俺は手紙の封を切ると、その中身を取り出す。
封書の中には、二枚の紙が折り畳んで入れられていた。
{ 突然のお手紙、申し訳ありません。ミリスリアです。
この手紙を送る事になったのは、ある人の助言が切っ掛けでした。あくまでもこのシュナフ・エディンでの問題は、私達が解決しなくてはなりません。──しかし、このままでは、私達は犬亜人の侵攻に敗北してしまうかもしれません。
オーディスワイア殿に、このようなお願いをする事を、どうかお許しください。
私達の造った機械があるのですが、それを起動させる火力が足らないのです。どうかオーディスワイア殿の錬金術で、火の力を秘める、強力な魔法核を作って欲しいのです。
そしてシュナフ・エディンに足を運び、私達の造る機械の調整を、手伝っていただけないでしょうか。
どうか、私達を助けてください。
あなたの技術、そして、あなたの仲間の力が必要なのです。
シュナフ・エディン三番隊・隊長。ミリスリア。}
そこにはそう書かれていた。
かなり焦っていたのだろう、ところどころ文字が泳いでいる。
手紙の隅に、機械の核に必要な力や、物体の大きさなどが書かれており、相当に焦っていたのだろうと思わせた。
もう一枚の手紙を見ると、そこには意外な人物の名前が記されていた。
{ 久しぶり、手紙で「久しぶり」もないか。
キャスティだよ。
いまわたしは、エルニスの国「シュナフ・エディン」を守る戦いに参加してるの。──あ、アウシェーヴィアも一緒にね。
こんなかわいい種族を滅ぼそうとする奴らなんて、わたしの魔法で絶滅させてやるわ。
……なんて思ってたけど、奴らの数が尋常じゃないの。できれば魔力を回復する錬成品を持ってきてくれない? なんてね。──でも、本当にまずいかも……
アウシェーヴィアも懸命に戦っているけれど、このままじゃ危ないかな。──助けてお願い。
キャスティ }
────なんて事だ。あいつら、パールラクーンに行っているとは聞いていたが、戦争に参加しているのか。
「管理局の方はどう動く?」
俺はその二枚の手紙をメリッサにも見せた。
彼女は食い入るように二枚の手紙に素早く目を通し、すぐに救援を送るしかないでしょう、と口にしたが、その為には、フォロスハートを守る兵士や冒険者を、パールラクーンの戦場へ送り込まなくてはならないのだ。
誰がその戦争で傷つき、倒れる者の責任を取れるというのか。
決断をするには、まだ時間が必要になるだろう。
「いえ、すでに先遣隊の兵士が送り込まれています」と、メリッサは言う。
都市を守る兵士の一部が、パールラクーンを守る為に送り込まれたらしい。
「志願した冒険者も兵士らと共に、パールラクーンの支援に当たっています」
そうだった──一部の冒険者は、すでにパールラクーンに出向しているのだ。
しかし、このままではまずい。
この二枚の手紙以外にも、管理局に宛てられた支援要請の手紙もあったという。──管理局もおそらく、五賢者も加わって、この件に関する会議が開かれているはずだ。
すると、外で重い鐘の音が鳴り響いた。
管理局が設置した緊急時を告げる鐘。
広場や管理局前に張り出される、布告を見ろという合図だろう。
俺とメリッサはすぐに大通りへ向かった。
するとそこには監視飛翔体がいくつか浮いているのが見えた。
試作機ではない、量産されたものだ。
『管理局から重要なお知らせです』
それは飛翔体から発せられた。
どうやら音声を伝える機能を乗せた、通信用飛翔体らしい。
『フォロスハートはこれから、パールラクーンで起きている、犬亜人による猫獣人族、小獣人族への侵略を止める為に、戦いへ参加する事になります』
それは衝撃的な布告の始まりだった。
『兵士や冒険者は、この戦いに参加する事を求められます。大変危険な戦いになるでしょう、強制は出来ません。しかし、パールラクーンの友を守る為にも、どうか、皆さんのお力をお貸しください』
飛翔体から発せられる言葉が、また繰り返された。
その言葉は、通りに集まった人々のざわめきに飲み込まれ、激しい戦いの中にある救いを求める声の様に、まったく聞こえなくなってしまったのだった。
ー 第八章 新たなる指標 完 ー
第八章はここまでです。
次話からいきなり戦争に突入する訳じゃありません。プロローグではオーディス以外の視点でスタートしますが。どろどろの戦闘描写を書くつもりは今のところないです。
次話は火曜日に投稿します。
感想をいただけると嬉しいです。これからもよろしくお願いします。




