魔法の杖を手渡したところ──
昇華錬成品を客に渡す場面。
旅団の仲間以外の人に昇華錬成品を渡すのははじめての描写かな。
昨晩は戦闘訓練で締め、今朝も訓練を始める。
日課になってからというもの、着実に筋力と体力だけでなく、戦闘の感覚といったもが蘇り始めていた。
「いい感じだ」
(なんなら冒険にも出れんじゃね?)みたいな心の声が聞こえるような気もする。
だが、戦闘中に義足が外れたからといって「たんま」が出来ないのだ。そう考えると、安易な気持ちで冒険に参加できるものではない。
「まあ、義手や義足でも冒険に出た例があるらしいが」
上級難度では無理だろう。
仲間の足を引っ張る想像しか出来ない。
「そんな事より訓練だ」
まあ訓練と言っても、足運びの繰り返しに、剣や盾を振り上げたり振り回したり……そんな、地味な運動ばかりを繰り返しているのだが。
こうした地味な訓練を出来ない奴は、決して強くなれない。地味の上に地味を重ねていく事が、強さや何やらを手に入れる、一番の近道なのだ。
一通りの運動を終え、各部の柔軟をしていると、エウラがやって来た。
「朝食の用意ができましたよ」
「分かった、行こう」
木剣を片すと、食堂へと向かう。
「そう言えば、冒険先での斬破はどうだった? うまくいったんだろうな」
「もちろんです。威力はまだまだですが、斬破や破砕撃のおかげで、一人でも中級難度くらいならこなせそうですよ」
そう言った彼女の頭を軽く小突いてやる。
「自信を持つのはいいが、実力以上の増長はやめておけ、身を滅ぼす」
彼女は「は──い」と子供っぽく答える。そういう反応がくると予想しての発言だったのだろう。
食事を済ませると、レーチェは「少し所用で出かけます」と断りを入れて宿舎を出て行く。興信所みたいな奴を雇いに行ったのだ。──彼女に付き従うリーファは侍女服を身に着け、颯爽と歩くレーチェの後を追って行った。
俺は鍛冶屋に行き、いくつかの素材から錬成品を作っておき、または素材の補充目録を書いたり、空いた時間で、カムイ用の剣に付与する効果などについて見直したりする。
そうしていると、魔法の杖を受け取りにラティフィスが店を訪れた。
「どうでしょうか……魔法の杖は出来ているでしょうか」
不安そうな彼女の声。
杖の完成を待っている間に、改めて「四大精霊の加護」を付与するのがどんなに難しいかを、旅団の仲間から聞いたりしたのだと思われた。
「ああ──出来てるよ。ただ……」
「えっ⁉」
彼女は一瞬よろこんだが、「ただ」と付け加えた事で、失敗して素材がお釈迦になるよりも、余計にまずい事が起きたのではと、不安になったらしい。
「ほらこれ」
そう言って杖を手渡す。
彼女はそれを受け取りながら、魔法珠を乗せた杖の頂点に手を翳し、その力を確認しようとした。
「えっ⁉ ──────ぇえっ⁉」
ラティフィスは杖を見たり、俺の顔を見たり、二度見、三度見をする。
「うん、まあそういう事なので、昇華錬成が起こった訳だ」
魔法使いの女は、手にした杖を持ったまま、ぶるぶると体を震わせ始める。
「お、おい……」
それは見ているこちらが不安になるほど、あまりに常軌を逸した体の震えだったので、彼女の肩を掴み、体の揺れ動きを止めなければならないほどだった。
「すっっっっっごい性能なんですが‼」
そして耳をつんざく叫び。
鼓膜が無事だったのは僥倖だ。
「お、おう……もちろんだ」
キ──ンと耳鳴りのする耳の穴を穿りながら答える。
「昇華錬成した錬成品だからな」
そう言って、性能評価書を手渡す。
彼女はある程度、魔法具の性能を見極める事が出来るようだが、細かな部分までは分からないはずだ。
紙を受け取った彼女の手は、まだ震えていた。
「すごい……スゴい、凄いっ‼ 次第に大きくなる彼女の声。
また耳をやられては大変なので、一歩下がって耳を押さえる。
「あ、うるさかったですか?」
急に冷静になる彼女。
咳払いをすると、最初にあった頃の彼女みたいに、物静かな感じに戻った。
「私、割と感情的になりやすいので、普段は冷ややかな感じを演じているんです。失礼しました」
戦闘になると急に性格が豹変する冒険者、こうした者はたまに居る。
キャスティも若い頃はかなり性格に癖があった(どちらかというと暗い性格だった)らしいが、力をつけていく内に、戦闘中に見せるような攻撃的な性格が、日常にも定着してしまったとか。
カーリアもいつか、あんな感じになってしまうのだろうか。そう考えると──少女の将来が不安になる。
「ま、ともかく。依頼は達成だな」
「あ、そうですね。残りの報酬を……」
そう言って肩に担いだ麻袋から、銀貨の入った皮袋を取り出す。
「昇華錬成が起きた品でも、同額でいいんでしょうか……」
恐る恐る尋ねるラティフィス。
「もちろんだ。あくまで昇華錬成は『偶然の産物』とされているからな。管理局の設定した規準でも、『昇華錬成による報酬の変更は認めない』と決められている」
そうですか、と彼女はほっとした様子でお金を差し出す。
「うん、だが──一つ言わせてもらえれば。せっかく昇華錬成の品を持つのだから、その錬成品に相応しい冒険者になるように、これからも頑張れよ」
俺の言葉に彼女は「はいっ」と元気よく応える。
ラティフィスは鍛冶屋を出て行く時にも、手を振って元気よく店を後にした。
もしかすると、昇華錬成をした魔法の杖を手にした衝撃で、「冷ややか」さを演じていた仮面が外れて、元々の感情豊かな彼女本来の顔が定着してしまったのかもしれない。
いい品物は、それを手にした人の人生を変える事があるとは言うが……
「少し、不安だな」
次話でこの章のラスト。急展開! ある意味この章は「起承転結」の「起承転」だった⁉
次章は中盤以降、今までとは違う展開になるかも。




