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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第八章 新たなる指標

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魔法の杖の完成と、錬金術の記録

錬金術に関する技術について。

それは人の意識を超えた「何か」からもたらされる、といったものだと言われる。

彫刻家が「素材の中にあるすがたを掘り出す」という事を言う人が居るのも、こうした感覚を表しているのでしょう。

 四大精霊の加護を封入した魔法珠オーブを、火竜の角と骨で作った杖に組み合わせる。杖に付与された魔力回路と繋げ、完成した魔法の杖。

 自分が作り出した杖の中で、間違いなく最高傑作の出来だ。

 細部にこだわり抜き、魔力強化や硬化、劣化防止の基本性能も持たせた一品。

 最高の仕上がりだ。


 その性能を錬成帳面(ノート)と、客に渡す錬成品の性能評価書(保証書)に記しておく。

 肩の荷が一つ下りた気持ちだ。

 そしてなんとなくだが、分かった事がある。


 昇華錬成はやはり、その錬金術師の心や、精神性、集中力などが反映されるという事だ。

 それは以前の世界(地球)で得た情報とも一致する。

 錬金術という作業はマンリー・P・ホールの言っているように。


「術(学ぶ過程)を通じ、金属(無知なるメンタル体)はことごとく純金(知恵)に変容される。理解する事でチンキにひたされたのである。そうであれば『神』への信仰と接近により、人間の意識は(地上界の金属に代表される)いやしい動物的欲望から、純粋な金色に輝く『神』の意識に変容し、啓示けいじをうけ、救済され、そのなかに『神』を顕現し、わずかなきらめきから高貴な栄光に輝く『存在』へ広がってゆくであろう」


 高貴な栄光──それは昇華錬成を心象イメージさせる──、その作業を通じて成し得る、術者の精神的な進化。「神への信仰と接近」による「神の意識への変容」を果たす儀式のようだ。

 それは自分の体験としては「忘我」の境地だったが、一瞬であっても、神の領域へと迫る体験だった事は間違いない。

 極限まで研ぎ澄ませた集中力をもって、作業に没頭する魂に、神が啓示を与える。術者にはそのように感じられるという事だ。




 その日は新たな仕事は入らなかった。

 昇華錬成を果たした余韻よいんで、残りの仕事は手がつかない状態だったので、むしろ幸運だった。

 明日か明後日にはラティフィスが杖を取りに来るだろう。


 まさか昇華錬成の起きた品を受け取るとは、夢にも思っていないはず。

 彼女の驚く姿が目に浮かぶ。

 魔法の杖は保管庫にしまい、徒弟達に鍛冶屋を任せ、宿舎の自室で今回の錬成から学べた事柄について、帳面に書き記しておく事にした。

 こうした経験も、錬成指南書として発表し、いずれはそうした個別の錬金術師の経験をまとめた、錬金叢書(そうしょ)のような物としてあらわれるかもしれない。

 あらゆる方面の研究が進み、積み重ねられた情報が資料となり、より深い技術の深化が進む。


 フォロスハートの未来に必要な情報と技術を、これからも残し続けていかなければならない。人々の生命や暮らしを守るのは、世界との調和の取れた技術だ。それは科学であっても、化学であっても、──または魔法であっても同じだろう。

 あるいは学問もそうだ。


 これらの積み重ねには、個人の力ではどうする事も出来ない。正しい業績を積み重ねるには、何代もの引き継ぎ、受け継がれる意思がなければならない。

 個人で出来る学習や研究には限界がある。

 それを多くの人々と共有し、さらに後世に引き継いでもらわなければならないのだ。

 より良い、綺麗で誤りのない、優れた知性と技術だけが受け継がれ続ける。そうした継承だけが、混沌に囲まれた世界に必要な、現実的な事柄なのかもしれない。


 厳しいこの世界の実情を思いながら宿舎に戻ると、庭で訓練をしている仲間達に視線を送り、さっさと自室へ引っ込んでしまう。

 体験した事柄はすでに錬金帳面に書き記したが、より深い思索をおこなって、術者の精神と錬金術の関係性について書き記す事にしたのである。




 その思索と研究の中で、改めて多くの書物を書き記した研究者や錬金術師、時には心理学者などの、多くの先人達の思索や研究があったからこそ、今の自分があるのだと理解する。

 知性の、理性の発達とは、一人の人間の中で行われた訳ではないのだ。多くの人々の関係性の中で生まれた、人間精神(人類)の軌跡きせき


 そんな事を想っていると、ドアをガリガリと引っく音がする。

「おいこら、()()()

 俺は立ち上がり、ドアを開けて、その犯人を見下ろす。

「ニャァァ~~」

 そこには白い子猫が居た。

 母猫のライムかと思ったが、何を思ったのか、子猫が俺に会いに来たらしい。


「なんだなんだ、どうしたんだ」

 ドアを開けたら子猫はするりと部屋に入って来て、俺の足にすり寄ってくる。

「ニャァ──」

 抱き上げると、ずいぶん大きくなったもんだと改めて知る。体重がかなり増え、てのひらには乗せられない大きさだ。


 廊下に出ると、階段の方からライムと他の二匹の子猫も、歩いてこちらに向かって来るのが見えた。

 子猫の一匹は全身が青い毛に包まれ、もう一匹は青と白の毛が混じった子猫。

 どちらも俺の姿を見ると駆け寄って来る。

「珍しいな、おまえ達から寄ってくるなんて」

 もしかして、新しい小屋を作ってくれた事に、礼を言いに来たのだろうか? こちらの猫は、人間の心に反応したり、呼び掛けに応えたりする事が多いとは思っていたが。


 子猫達が足下で「ニャァニャァ」とまくしたてる。

「分かった、分かったから……ああそうか、そろそろ夕飯だしな」

 離れた所に座り込んでいる白い母猫は、こちらを見ると立ち上がり、ぴんと尻尾を立てて階段の方へ歩いて行く。

 彼女は新設の小屋に向かうと、子猫達を呼び、大人しく夕飯を待つように言っている様に見えた。

「術を(学ぶ過程)を通じ~」

『<象徴哲学体系Ⅳ>錬金術』マンリー・P・ホール著 人文書院

より引用。

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