四大精霊の加護を魔法珠へ封入する
高位錬成「四大精霊の加護」の能力を錬成する。
果たしてどうなるか──?
魔法珠の完全なる球体は、四つの属性すべてに相性の良い証だと、ある錬金術師がその手引き書に書いている。
卵型や楕円形になる魔法珠は、一つから複数の属性に対応する為に尖っているのだと、その錬金術師は言っているが──
「まあそれが事実ならば、この魔法珠に四大精霊の力が封入されるのは──しごく当然と言えるだろう」
俺は自分にそう語り掛け、次の作業に対する意識を高め、集中する。
魔法珠を四種の精霊結晶、霊晶石、混沌多色玉石などを用意した錬成台に運んで行く。
錬成台に四つの精霊結晶を配置し、各場所に小さな魔力結晶と霊晶石、そして混沌多色玉石を配置するのだが──これらの配置場所に悩みながら、中央に魔法珠を配置した。
錬成台の上に広がる秩序を確認し、それがちゃんと整えられているか、もう一度、確認する。
混沌多色玉石を使用しての、この高位錬成は初めてだ。正確な術式はまだ不明だが、理屈からすれば──この配置で確かなはずだが……
「ふぅ」と溜め息を吐き出すと、作業を行う前に、神々への祈りを捧げる。
「偉大なる四柱の神に申し上げる──」
そうして精神集中。
自身は儀式を行う霊魂、全てを神々になげうった存在。
迷いなく神の前にひざまずき、全身全霊をこの儀礼に捧げる。
錬成台に乗せられた魔法珠の周りにある捧げ物、準備は整った。
「古き石の言葉を聴け──」
そう四大精霊の加護を得る呪文の詠唱に入る。
俺の目はその儀式を見守る、一人の傍観者のように冷静に、それでいて真摯に作業と向き合う職人のように、研ぎ澄まされた感覚を駆使して、己の技術を作業に打ち込む。
錬成台の上に配置された小さな魔力結晶が輝き出し、続いて四つの精霊結晶が光を放ち始めたが──
「パシンッ」
という硬い、乾燥した音を立てて、魔力結晶と霊晶石、二つの精霊結晶が砕け散る。
「くっ」
台の上に広げていた掌に、砕けた魔力結晶の破片が突き刺さり、すぐにその破片は消えて無くなった。
「だっ、大丈夫ですか?」
作業の様子を見ていたサリエが言う。
「ああ、なんてことはない」
錬成台の前から去り、机の引き出しから薬箱を出し、傷に軟膏を塗る。
錬成が失敗した原因は明らかだった。二つの砕けた精霊結晶は、火と水──対立する属性の調和が保てなかったのだ。
霊晶石も砕けてしまい、俺は椅子に腰かけると天井を見上げた。
(精神世界では、この二つの女神が結託して俺に詰問し、対立していたようには見えなかったが)
そんな関係のない事柄を持ち出して、砕け散った素材の反応に理由を見出そうとする。
まあ、成功率の低い錬成であるのは理解している事だ。いまさら一つや二つの失敗で、へこたれてはいられない。
「次だ」
俺は気合いを入れ、頬を二度、両手で思い切り叩いた。かなり鋭い音が鳴り響き、二人の徒弟は思わず振り返る。
だが──俺は彼らを無視し、ただ自分の仕事に集中する。気持ちを落ち着けつつ、この大いなる作業に向かうのは、自身の霊的な力や業、知性や徳といった全てのものを一心に使い、世界への真理へと繋がる──栄光の道を目指す冒険家の様に、あるいは哲学者の様に。
ただ実直に歩み出すのだ。
錬成台に素材を配置しながら、真剣に一つ一つの工程に注意を向ける。
この作業で計られるのは──己の資質だ。
錬金術を通して、自身の霊的資質が世界の神秘に調和できるか、その領域に昇華でき得るか。
それを悟る為の作業でもある。
「唯一無二の作業に於いて、我は彼方の御柱に恩寵を賜りたく、願い奉り……」
作業に入る前に、自分は霊的に親しみを感じる精霊に呼び掛け、その守護神たる四つの神々に力を借りられないかと頼んだ。
「小さな霊の精髄と、我らを導く至高の霊に希う。定命の者を守り賜え、世界の大いなる理を知らしめ、その霊と魂に、静謐なる調和を与え、偉大なる霊域に昇華し、誘い賜え」
目を開き、錬成台に手を翳す。
大いなる作業をこの手で行う。
そしてそれは、世界との対話。
神々の愛を理解する、清廉な儀式。
答えは導き出される。
それは解き明かすのではない。
偉大なる霊域から与えられ、授けられるものなのだ……
無心だった。
自分でもどこまで作業を行っていたのか、まったく分からない。
気づいたら錬成作業は終わっていた。
まばゆい光が現れ出た錬成台の上に、光が集約していく。
錬成台の中央に、丸い魔法珠だけが乗っていた。
その球は、様々な色に反射する光を内包する、美しい混沌。
まるで光の中に溢れる、天地創造の場面を見ているかのような、感動に似た感情を呼び起こす色合いだった。
「や、やりましたね……!」
ケベルが近づきながら震える声で言う。
「おめでとうございます!」
続いてサリエがそう言って拍手を送る。
「なんだ、どうしたって言うんだ?」
俺はぽかんとして、まるで当事者ではない、部外者みたいな反応をして、彼らを訝しがらせた。
「どうしたって……昇華錬成ですよ! 初めてその瞬間を目撃しました!」
二人の徒弟はまるで自分の事のように喜び合っている。
そうか、昇華錬成が起きたのか。
鑑定で確認すると確かに、この魔法珠には、昇華錬成により当初の予定にない、強大な力が二つ発現していた。
一つは「複製魔法制御」──これは、連続して同じ魔法を放てるようになる特殊効果。通常の魔力消費で二倍の魔法が使用できる訳だ。
もう一つは「自乗魔力制御」──こちらは魔力の消費量を倍加して、威力を格段に跳ね上げる特殊効果。術者の技量にもよるが、下級の攻撃魔法でも、かなり高位階の魔法に匹敵する威力に変化すると思われた。
「はっ、ははは……こいつはスゴい」
なにやらどっと疲れてきて、俺は乾いた笑いしか出なくなっていた。あまりの衝撃に、目の前にある成果に実感が湧かない。
集中力の限界を超えてしまったのかもしれなかった。
ともかくこれで仕事は果たせる。──それも期待以上の成果で。
鍛冶屋などの市民は、冒険者を応援する気持ちが大切で、彼らを支えるのが俺達の役割であり、誇りだ。
応援を受けた冒険者は、きっとその働きで応えてくれるはずだから。
次話は日曜日に投稿します。




