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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第八章 新たなる指標

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四大精霊の加護を魔法珠へ封入する

高位錬成「四大精霊の加護」の能力を錬成する。

果たしてどうなるか──?

 魔法珠の完全なる球体は、四つの属性すべてに相性の良い証だと、ある錬金術師がその手引き書に書いている。

 卵型や楕円形になる魔法珠は、一つから複数の属性に対応する為に尖っているのだと、その錬金術師は言っているが──

「まあそれが事実ならば、この魔法珠に四大精霊の力が封入されるのは──しごく当然と言えるだろう」

 俺は自分にそう語り掛け、次の作業に対する意識を高め、集中する。


 魔法珠を四種の精霊結晶、霊晶石、混沌こんとん多色玉石(たまいし)などを用意した錬成台に運んで行く。

 錬成台に四つの精霊結晶を配置し、各場所に小さな魔力結晶と霊晶石、そして混沌多色玉石を配置するのだが──これらの配置場所に悩みながら、中央に魔法珠を配置した。

 錬成台の上に広がる秩序を確認し、それがちゃんと整えられているか、もう一度、確認する。


 混沌多色玉石を使用しての、この高位錬成は初めてだ。正確な術式はまだ不明だが、理屈からすれば──この配置で確かなはずだが……

「ふぅ」と溜め息を吐き出すと、作業をおこなう前に、神々への祈りを捧げる。

「偉大なる四(はしら)の神に申し上げる──」

 そうして精神集中。

 自身は儀式を行う霊魂、全てを神々になげうった存在。

 迷いなく神の前にひざまずき、全身全霊をこの儀礼に捧げる。

 錬成台に乗せられた魔法珠の周りにある捧げ物、準備は整った。


「古き石の言葉を聴け──」

 そう四大精霊の加護を得る呪文の詠唱に入る。

 俺の目はその儀式を見守る、一人の傍観者ぼうかんしゃのように冷静に、それでいて真摯しんしに作業と向き合う職人のように、研ぎ澄まされた感覚を駆使して、己の技術を作業に打ち込む。

 錬成台の上に配置された小さな魔力結晶が輝き出し、続いて四つの精霊結晶が光を放ち始めたが──


「パシンッ」

 という硬い、乾燥した音を立てて、魔力結晶と霊晶石、二つの精霊結晶が砕け散る。

「くっ」

 台の上に広げていたてのひらに、砕けた魔力結晶の破片が突き刺さり、すぐにその破片は消えて無くなった。


「だっ、大丈夫ですか?」

 作業の様子を見ていたサリエが言う。

「ああ、なんてことはない」

 錬成台の前から去り、机の引き出しから薬箱を出し、傷に軟膏なんこうを塗る。


 錬成が失敗した原因は明らかだった。二つの砕けた精霊結晶は、火と水──対立する属性の調和が保てなかったのだ。

 霊晶石も砕けてしまい、俺は椅子に腰かけると天井を見上げた。

(精神世界では、()()()()()()()()結託けったくして俺に詰問し、対立していたようには見えなかったが)

 そんな関係のない事柄を持ち出して、砕け散った素材の反応に理由を見出そうとする。

 まあ、成功率の低い錬成であるのは理解している事だ。いまさら一つや二つの失敗で、へこたれてはいられない。


「次だ」

 俺は気合いを入れ、頬を二度、両手で思い切り叩いた。かなり鋭い音が鳴り響き、二人の徒弟は思わず振り返る。

 だが──俺は彼らを無視し、ただ自分の仕事に集中する。気持ちを落ち着けつつ、この大いなる作業に向かうのは、自身の霊的な力や業、知性や徳といった全てのものを一心に使い、世界への真理へとつながる──栄光の道を目指す冒険家の様に、あるいは哲学者の様に。

 ただ実直に歩み出すのだ。


 錬成台に素材を配置しながら、真剣に一つ一つの工程に注意を向ける。

 この作業で計られるのは──己の資質だ。

 錬金術を通して、自身の霊的資質が世界の神秘に調和できるか、その領域に昇華できるか。

 それを悟る為の作業でもある。

「唯一無二の作業にいて、我は彼方かなたの御柱に恩寵おんちょうたまわりたく、願いたてまつり……」

 作業に入る前に、自分は霊的に親しみを感じる精霊に呼び掛け、その守護神たる四つの神々に力を借りられないかと頼んだ。

「小さな霊の精髄せいずいと、我らを導く至高の霊にこいねがう。定命じょうみょうの者を守りたまえ、世界の大いなることわりを知らしめ、その霊と魂に、静謐せいひつなる調和を与え、偉大なる霊域に昇華し、いざない賜え」


 目を開き、錬成台に手をかざす。

 大いなる作業をこの手で行う。

 そしてそれは、世界との対話。

 神々の愛を理解する、清廉な儀式。

 答えは導き出される。

 それは()()()()()のではない。

 偉大なる霊域から()()()()()()()()()()()なのだ……




 無心だった。

 自分でもどこまで作業をおこなっていたのか、まったく分からない。

 気づいたら錬成作業は終わっていた。

 まばゆい光が現れ出た錬成台の上に、光が集約していく。

 錬成台の中央に、丸い魔法珠だけが乗っていた。

 その球は、様々な色に反射する光を内包ないほうする、美しい混沌。

 まるで光の中にあふれる、天地創造の場面を見ているかのような、感動に似た感情を呼び起こす色合いだった。


「や、やりましたね……!」

 ケベルが近づきながら震える声で言う。

「おめでとうございます!」

 続いてサリエがそう言って拍手を送る。

「なんだ、どうしたって言うんだ?」

 俺はぽかんとして、まるで当事者ではない、部外者みたいな反応をして、彼らをいぶかしがらせた。

「どうしたって……()()()()ですよ! 初めてその瞬間を目撃しました!」

 二人の徒弟はまるで自分の事のように喜び合っている。


 そうか、昇華錬成が起きたのか。

 鑑定で確認すると確かに、この魔法珠には、昇華錬成により当初の予定にない、強大な力が二つ発現していた。


 一つは「複製魔法制御」──これは、連続して同じ魔法を放てるようになる特殊効果。通常の魔力消費で二倍の魔法が使用できる訳だ。


 もう一つは「自乗(二乗)魔力制御」──こちらは魔力の消費量を倍加して、威力を格段に跳ね上げる特殊効果。術者の技量にもよるが、下級の攻撃魔法でも、かなり高位階の魔法に匹敵する威力に変化すると思われた。


「はっ、ははは……こいつはスゴい」

 なにやらどっと疲れてきて、俺は乾いた笑いしか出なくなっていた。あまりの衝撃に、目の前にある成果に実感が湧かない。

 集中力の限界を超えてしまったのかもしれなかった。


 ともかくこれで仕事は果たせる。──それも期待以上の成果で。

 鍛冶屋などの市民は、冒険者を応援する気持ちが大切で、彼らを支えるのが俺達の役割であり、誇りだ。

 応援を受けた冒険者は、きっとその働きで応えてくれるはずだから。

次話は日曜日に投稿します。

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