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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第八章 新たなる指標

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錬成前に、今日の運気を計ってみる

かなり固い内容に……心理学の専門職に興味を持ってほしい。

なぜ心理学と錬金術に接点が? その理由を知れば、楽しく学べるのではないでしょうか。

 朝目覚めると、気力体力ともに充実しているのを感じた。体も軽く、訓練の疲れや筋肉痛などもない。

「いい調子だ」

 高位錬成に挑むなら今日だな、そう感じた。


 朝の戦闘訓練を済ませると、朝食の前にプラノクリージュ・ゼルヴを作る事に決め、燻製くんせいや生地づくりを平行しながら作り上げる。

 棒状に伸ばした生地を天火オーブンに入れる頃になって、調理場に朝食当番のユナとエアネルがやって来た。


「あれ? 団長、朝食を作ってくれてるの?」

 エアネルの言葉に首を横に振る。

「ちがう、これはお菓子だよ」

 な──んだ、と彼女は言って生野菜料理サラダと、柄付きの平鍋(フライパン)で焼く、簡単な薄焼きパンの生地をこね始める。彼女は最近、この手軽なパンを良く作っているらしい。

 冒険に出る時も、このパンに具を詰めた物を、弁当がわりに持って行っていた。


 こちらも急いで二つの行程で作る菓子の準備をしていたが、焦げつかせたりする事もなく、無事に完成し、冷蔵庫で冷やす為に箱型容器バットにそれを並べる。

 大急ぎで計量したり、混ぜ合わせたりしたが、うまい具合に完成した。やはり今日は気力も充実し、運勢もいいのではないかと考えた。


 二人に調理場を任せ、猫達の餌を運んで行くと、階段からレーチェとリーファが降りて来た。

「おはようございます」

 二人は軽く挨拶をして、食堂の方へと歩いて行く。




 朝食を済ませると、ユナに昼食の後にでもメイに、プラノクリージュ・ゼルヴを食べさせてやれと言って、俺はすぐに鍛冶屋の方に向かう準備をする。

 玄関先でエウラとカーリアと出会い、彼女らもいち早く自分の為すべき事をやろうと、勢い込んで宿舎を出て行く。

 エウラは昨日のうちに集めた新入りと共に転移門に向かい、カーリアは魔法屋へ向かって行った。


 俺は宿舎前の鍛冶屋へ行き、まだ誰も居ない店内に入り、簡単な掃除をしていると、サリエが降りて来て「掃除なら私が……」と言う。

「ああ、いいんだ。仕事前に集中力を高める為にやっているだけだから。さっさと二人で片づけてしまおう」

 掃除をしているとケベルもやって来て、三人で掃除を終えると、俺は素材を取り出して錬成釜の横にそれらを並べる。


 まずは高位錬成に耐え得る、魔法珠オーブを作製するところからだ

 この錬成もかなり高難度だ、失敗する可能性は高かった。

 杖の方は出来ている。

「さて、素材を確認しよう」

 土台となる大きな魔力結晶を、魔法の杖に最適化した魔法珠に作り変える。「適正化」や「純正化」などと言っている錬金術師も居るらしい、難しい作業だ。


 魔法との相性を良くするには、杖との相性もあるし、ただ強力な魔法珠を作ればいいというものでもない。

 問題は属性に対する相性と、杖の魔力回路とつながる部分だ。

 属性については「四つ全ての力」を乗せるので、魔法珠の作製は全神経を集中し、完全な物、不純物が入る余地のない、純化した魔法珠の作製が絶対条件と言える。


「緊張感をもって、それでいて自然体。すべては錬金術師と、それらを支える神のおぼし召し」

 作業に入る前に、祈祷きとうおこなうつもりで瞑想する。──どこまでも深く、ただこの作業に邁進まいしんする意思。大いなる作業にのぞむ、たった一人の個人であり、多くの錬金術師の霊魂が積み重ねてきた、意思の一部となるような感覚。

 錬成釜の前に全てを準備し整える。

 素材の一つ一つは自分自身である。




「まずは自らの内よりいちなるものが生まれ出なければ、なんじは決して汝以外のものから一なるものを作り出す事は出来ない」




 その言葉を思い浮かべた。

 錬成釜に水を入れ、根幹となる魔力結晶を投じ、続けて塩を、そうして小さな魔力結晶に意味を持たせながら加えていく。

「一つは悟性、一つは知性、一つは理性、一つは神性……あまねく精神に結び付き、目指すものを形作れ。全ての奥義は霊魂に記された。神のしるべに定められたればなり」

 錬成釜に投じた素材、それらが融合し、新たな形を得る。


 万物の中に隠された神秘を解き明かす。

 その錬金術の秘儀にならって生成する。

 感覚的な知性は、悟性の光を受けて理性へと昇華しょうかし、理性の火は、神が示す神秘の中へと没入して、新たに生まれ変わる。形象として現れるのは、純粋なる哲学の霊気。


 俺は水を張った錬成釜の中から石を取り出す。

 大きな水晶球。

 丸みを帯びた大きな魔法珠として、完全に透明な一つの結晶がそこにはあった。

「よし、まずは第一段階をクリアしたな」

 赤や紫の色を映し出す魔力結晶が、完全なる無色透明な丸い球体に形作られた。──それは完全なる最初のいち


 ここまで純粋な、魔法の為の結晶体が出来るとは。我ながら大したものだと感心する。

 やはり術者の、錬金術師その人の魂が健全で、作業と自己の、二つの調和が取れている状態でおこなわなければならない作業なのだ。


「まさしく人間と物質の秘密との間に、親密この上ない関係が存在していたればこそであろう。作業を行う者は自分のやろうとしている仕事と同じ高みに立たなければならない、すなわち、自分が物質に期待するのと同じ過程を、自分自身の内において実現しなければならない」

「まず自らの内より~」

「まさしく人間と物質の秘密との間に~」

上記の二つの文は『心理学と錬金術Ⅱ』C.G.ユング著 より引用。

前者は『瞑想の哲学』ドルネウス著の言葉。


次話は火曜日に投稿します。

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