大勢で夕食を
食堂には新入りも集まり、中央にある長テーブル以外にも、いくつかの丸テーブルと椅子が用意され、調理場で料理する人数も必然的に多くなった。
「天火の確認! 焦げないように!」
リーファの指示が飛ぶ。
「鍋も気を付けて! かき混ぜながら弱火でっ」
レンネルとエアネルも調理場と食堂を行ったり来たりしながら、なんとか食事の用意を完了させた。
新入り達が皿を運び、台車に鍋を乗せて移動させ、汁物などを皿によそる。
全員が集まって、いただきますと挨拶をする。──大合唱だ。
今日は猪肉などが多く食卓を彩り、中には大きな海老を使った、海老パン粉揚げが出された。
「おおっ、海老フライか! 贅沢だなぁ」
横に座っていたカーリアが「えびふらぁ?」と言っていたが、無視して海老パン粉揚げを皿に取り、塩を付けて食べる。
サクッとした触感に、濃厚な海老の旨味……さすが旅団の料理長リーファ。注文どおりの見事な揚げ方だ。
「あ、おいしい」
カーリアにユナも、海老パン粉揚げを気に入ったらしい。
タルタルソースに似たソースも作ってあるが、揚げ立ては塩に限る。
「あ、猫の小屋。新しいのを作ったんですね。壁が厚くなってましたけど……」
「ああ、あれは断熱材が入ってるんだ。冬の寒さを凌げると思ってね」
ユナにそう説明してやると、食事を終えたメイが、お菓子はないの? と言ってくる。
「今日は忙しくて作れなかったんだ、また今度な──というか、自分で作りなさい」
調理法は調理場にある帳面に書いてあるのだ。俺はそう説明して調理場を指し示す。
「ユナぁ~~」
と親友に泣きつく砂糖中毒の少女。
最近は大人しくなっていたと思っていたが、禁断症状がではじめたらしい。(──いや、もちろん冗談だが)
「わかったわかった、また今度ね。砂糖は貴重なんだから──ほどほどにしないと」
なんだかんだとユナはメイに甘い。端から見ていると、友達というよりは姉妹みたいな感覚だ。
「リーティスさん帰られましたね」
とレンネルが言ってきた。
宿舎の庭で別れの挨拶をしたらしい。
「ああ、鍛冶屋の方にも来たよ」
「実家に帰ったら、食材をまたお送りします。そんな風に言っていました」
彼女にそんな権限があるとは思えないが……まあ、両親も彼女には甘いのだろう。数日宿泊したと聞けば、食料の備蓄から分けてくれるのかもしれないな。
するとエウラが真剣な顔でこう訴えてきた。
「オーディス団長、明日は私も冒険に出てよろしいでしょうか」
なんでも「斬破」と「破砕撃」を実戦で試したいらしい。
「ああ、そうだな。せっかく習得したんなら、実戦で使わないことにはな。では新入り達と共に、初級の──そうだな、『塩の山と泥の沼地』にでも行って来てもらおうか」
「御意」と、相変わらずおかしな態度になってエウラは答えた。
夕食後に猫の様子を見に行くと、母猫も子猫も皆、新しい小屋の方に入っていた。猫は新しい物に興味を抱いたり、警戒したりするらしいが、断熱仕様の小屋を気に入ってくれた様子だ。小屋を覗き込んでいる俺とカーリア。
「子猫達、すっごい元気だね」
「うむ、そろそろ管理局に引き取ってもらうか」
そう言うと彼女は「えっ」と声を上げる。
「ずっとここに居るんじゃないの」
「いやいや、管理局の方で子猫の新しい飼い主を見つける予定だと、そう説明しただろう」
するとライムが俺の顔をじっと見上げているのに気づいた。まるで、子猫をどこかに譲渡するというのを聞いていたみたいに、こちらを見つめている。
「ゥニャァ──」
母猫の鳴き声は「わかっている」とも、「好きにしろ」という感じにも聞こえた。
子猫が独り立ちした後の事など、自分は興味がないとでも言わんばかりに。
ライムもそのうち、この宿舎を出て行って、野良猫に戻ってしまうのだろうか。気ままなライムの事だ、子猫達が大きくなれば──また以前のように、そこらをほっつき歩く生活に戻る可能性が強い。
わしゃわしゃと彼女の頭を撫でてやると、ライムは鬱陶しそうに撫でられながら、横になったまま眠ろうと目を閉じる。
「ライムだって、子猫と一緒に居たいんじゃないかなぁ」
カーリアがそう呟く。
「そうかぁ? 猫なんて、子供が大きくなったら、知らん顔して出て行くと思うぞ」
「えぇ──? そんなことないよねぇ? ライムは」
そう言って白猫の腹を撫でるカーリア。
「ニャァ──」と、小さな鳴き声で応えるライム。名付け親には従順だ。
子猫達は母猫のお腹などに寄り添うと、そのまま横になった。
「もう寝る時間だ。──カーリアも、おやすみな」
少女は「おやすみなさい」と言って、そばを通りかかったユナとメイと共に、二階へ上がって行く。
俺は彼女らを見送ると庭に出て、こっそりと訓練を始めるのだった。




