リーティスの帰宅、カーリアの成長
次話は火曜日に投稿します。
この章の終わりまでは週2回の投稿を頑張ってみますね~
二人の徒弟が昼食から戻って来た時には、五賢者のヴォージェスは帰っていた。管理局はいま色々な部署が能動的に活動し、上も下もてんやわんやだと言うのだ。
確かに、友邦とも言えるパールラクーンで、危険な敵対亜人の勢力が版図を広げようとしているのを、指をくわえてただ見ている訳にはいかないはずだ。
管理局は最近──神騎兵の開発や、監視飛翔体の量産、音声通信用設備の開発、混沌の調査──こうした事にも力を入れているらしい。素材の調達から新しい研究、そうした事柄にも人員を割かねばならない。
昼食を料理屋で食べていると、そばの席に座っていた市民達の会話が聞こえてきた。──どこの旅団が武闘大会で優勝するか、というものだったが、彼らの会話に出てくる旅団の名前は、ミスランにある旅団のものばかりだった。
地元の旅団に活躍して欲しいという期待の表れなのだろう。別に旅団の冒険者が優勝したからといって、優勝祝賀会が行われる訳でもないのだが。
高齢の市民は「金色狼の旅団」を推していたが、二人の男達は最近の「金色狼」の事情を知っているらしく、それはないと断言していた。
代わりに推された旅団が「蒼髪の天女旅団」と「金獅子の錬金鍛冶旅団」だった。俺はうんうんと頷きながら立ち上がり、店を後にする。
ミスランの市民の間でも名前が出るようになったか。
少し誇らしげな気持ちになって鍛冶屋に戻ると、店の前には馬車が停まっていた。ずいぶんと豪華な馬車だなぁ……と思いつつ鍛冶屋に入ると、そこにはリーティスが待っていた。
「おう、どうした」
「いえ、家に帰るので、そのご挨拶に」
「そうか。久し振りに姉に会って満足したか?」
「それはもちろん」
妹はそう言いながら、なにやら物騒な笑みを浮かべた。
「それよりも……夕べはどうでしたか?」
まるで「夕べはお楽しみでしたね」と言い出す、宿屋の主人のような下世話な響きで言うリーティス。
「夕べ? ──ああ、レーチェになにを吹き込んだかは知らないが、あまり姉を焚きつけるなよ」
それで? それで? と、興味津々な様子で詰め寄る彼女。
「残念だが、特になにもなかったぞ。前にも言ったが、レーチェはあれで初心でヘタレなんだから、あまりおかしな事を吹き込むんじゃない」
すると少女はがっかりした様子で肩を落とす。
「実家に帰る前に、既成事実を持って帰りたかったのですが」
「おいおい」
俺がつっこむと、彼女は頭を下げて「この首飾りと強壮薬、本当にありがとうございました」と礼を口にしてきた。
「ああ、うん。それはもういいから──」
「今度はオーディスワイア様が、ウィンデリア領に来てくださいませね」
彼女はバカ丁寧にそう言ったが、その表情の裏には、なにやらよからぬ企みが隠されていると感じた。
「ああ──うん、そのうちにな」
辛うじてそれだけを口にすると、俺は鍛冶屋の外までリーティスを送り出す。彼女は馬車に乗り込むと、窓から手を振りながらウィンデリア領に帰って行った。
鍛冶屋での仕事は新しいものは入っていなかった。
明日には四大精霊の加護を作り出す錬成に、集中力が高められそうだ。そう感じながら、せっかく空いた時間を有効に使おうと、旅団員に作る武器などの設計図を書き始めた。
魔剣の性能を持たせた槍や、手甲などもいいかもしれない。
そんな作業をしているうちに、夕暮れが近づいた。
新しく作った猫の小屋を持って宿舎に戻ろうとすると、道で冒険から帰って来た新人達と、それを率いているカーリアに出会う。
彼らは疲れも見せず、傷ついた様子もないが、麻袋や革袋に大量の素材を入れて、持ち帰って来たようだ。
「ご苦労さん、平気だったか?」
俺の問い掛けに「はい」と答えるエクスダイン。若いながら隆々とした体格の彼は、大剣を背負いながら、麻袋を差し出してくる。
「石英などが入ってます」
「おっ、そうか、ありがとう。悪いけど素材を持っている奴は鍛冶屋に来てくれ、素材を置いてくれれば、あとはこちらで素材の確認をしておこう」
そう言って鍛冶屋に向かうと、何故かカーリアもついて来て、歩きながら彼女はこんな事を言ってきた。
「リーダーって難しいね。団長の言っていたとおりに、新人の補助に回って活躍する機会を与えたかったけれど──わたし、それだと何も手出し出来なかった」
「ああ、そうだったか。まあ、危険になったら守ってやるくらいでいいんだよ。引率みたいなもんさ」
すると少女は決意したように顔を上げる。
「明日は、補助魔法を覚えに、魔法屋に行って来る。回復魔法は無理だけど、仲間に使う補助魔法なら、たぶん覚えられると思うんだ」
「お──、それはいいな。攻撃強化や防御強化魔法があれば、自分の戦闘力も上げられるし、新米の手助けにもなる」
うん、と彼女は頷く。
新米達が荷物を鍛冶場に置いたのを確認し、鍛冶屋の扉を閉める。
「よし、今日はまだ時間が早いし、食材を持って宿舎の方に新米達も来い。そこで冒険での感想や、反省点を聞こうじゃないか」
俺は彼らにそう呼び掛け、二階の部屋へ武装を解除しに行かせた。
新米からの話も聞いて、どういった点に注意が必要になるか、もう一度、彼らの視点に立って考えてみる。
こうした作業の繰り返しが、旅団としての活動を円滑にし、旅団全体の能率性を上げ、各個人の力を引き出す組織として成り立つのだ。
「カーリアも成長したなぁ……」
しみじみと口にした俺に、少女は冷ややかな視線を向けてくる。
「オーディス団長は──たまに親父くさい」
「ひどいっ」
宿舎に入ると、玄関先の猫達の空間に新しい小屋を置いてやる。
母猫のライムや子猫達が、興味津々な様子で小屋を調べている。
「この中は暖かいぞ」
古い小屋の横に新しいのを置いてやると、ライムは小屋の壁に付けられたでこぼこに体をこすりつけ、さっそく小屋の新しい魅力を知ったようだ。
子猫達も新しい方の部屋に入ったので、綺麗な布と綿織物を入れてやり、寝床を用意してやった。
「夕べはお楽しみ~」有名なドラクエのセリフ。




