管理局に「旅団統合支援課」を作る
誤字報告ありがとうございます。
「これは猫の小屋ですよ。猫は寒さが苦手なので、断熱材で周囲を囲んでやってるのです」
「猫……そうか、旅団の方で飼っているんだったな」
それでなんの用です? そう尋ねると、彼は「旅団の活動を支援したり、共通の規範を設け周知する──そんな組織を作る予定だ」と言った。
「前にもなんかありましたよね……『旅団・冒険者統率機構』とかいう、管理局のくそつまらん組織が」
「う、うむ……」
管理局をとり纏める五賢者の一人、黒獅子ヴォージェスは言葉を詰まらせた。
「あれか……冒険者側に立った考えを学べと言ったんだがな、管理局の連中だけではどうも、うまく旅団や冒険者側の理解を得られなかったらしく、私に泣きついてきてな」
それで長らく構想を練っていたのだという。
「まあ確かに、きちんとした旅団間の意識の統一や、若手育成に関する取り決めなど、管理局が指示すべき事柄も多いはずですが。──そんな話を俺にもってきた理由は?」
するとヴォージェスは折り畳んだ紙を一枚取り出す。
「ここに大まかな『旅団統合支援課』の規律要項を書いてきた」
新設する組織の理念や、旅団に求める規律、冒険者に支払われる報酬の安定化や、旅団が自らの旅団員に対する責任について書かれたりした内容だった。
「なるほど」
「どうだろう、なにか気になるところはあったか?」
最初の方には「旅団は冒険者の為の旅団であり、すべての旅団はフォロスハートの為の旅団である」とか、なんとなく「一人は皆の為に、皆は一人の為に」を思い出させる一文が書かれていた。
「まあ……いいんじゃないでしょうか。旅団は若手の育成に責任を負っている、とも明記されていますし、旅団同士で争うような態度を厳禁とするのも──うまくいくかは分かりませんが、必要な事でしょう」
一定の評価が得られたと、ヴォージェスはほっとしているようだ。
「いやぁ……旅団を離れて久しいからな、近頃の旅団がどのような考えを持っているのか、いまいち分からん部分がある」
「そりゃあ冒険者の数だけ、いろいろな考えがあるでしょう。それを纏めるのは大変でしょうけれど、ある程度の自由を与えつつ、規則で縛らなければならない部分は必ずあるものです。そうした規範を納得のいくよう説明していくのが、管理局としての勤めではないですか」
そうだな、と彼は呟くと紙を懐にしまう。
「そんな事を確認しに、わざわざ鍛冶場まで来たんですか」
「まあな、旅団や管理局だけでなく、神殿からも信頼されているオーディスワイアならと考えてな。──それと、ここだけの話なんだが……」
と声を潜める元戦士。
「パールラクーンの方では、すでに犬亜人との戦争が激化しているらしいのだ。フォロスハートからも数十人の兵士や冒険者が、この戦いに参加しているのだが、これからは各旅団にも呼び掛けて、犬亜人の討伐に人員を割くよう求めるかもしれん」
「なるほど、そこで『旅団統合支援課』の権威づけも必要になってくる訳ですか。兵士としてパールラクーンに冒険者を送り込む為に」
そうだなと、彼はあっさりと認めた。
「しかし、犬亜人の活動範囲がこれ以上ひろまるのは、フォロスハートとしても困るのだ。素材の一部が輸入されなくなって困るのは、鍛冶屋も同じなのではないか?」
痛いところを突いてくる
しかし戦争に冒険者を駆り出すなど、あまりしたくはないと考えてしまう。好戦的な冒険者ならいざ知らず、犬亜人の中には戦闘に慣れた、危険な個体も居るらしい。そんな戦いの為に命を落としても、直接フォロスハートの為になる訳でもないのだ。
「戦争なんて、こっちは無縁かと思っていたんですが」
こっち? と首を傾げるヴォージェス。
「パールラクーンの猫獣人族や小獣人族が、俺達の友好的な仲間だというのは分かっていますが、う──ん。どこまで協力すればいいんでしょうか? 武器を与え、防具を与えてもいいのなら、それなりの手伝いはできるでしょうが」
鍛冶屋として立場から言ったのだが、ヴォージェスは「そんな悠長な事は言っていられないかもしれん」と口にする。
「すでにいくつかの拠点が落とされ、小獣人族と猫獣人族の共同戦線を張っているところもあるくらいで、戦況は逼迫しているらしいのだ」
俺は少し考えたが、パールラクーンからの依頼があったなら出来る限り対処しよう、という結論をヴォージェスに伝えた。
小獣人とも猫獣人とも友好関係にあるが、それ以上にパールラクーンの神アヴロラには、俺の身体を治してくれた恩がある。
個人的にはすぐにでも駆けつけて助けてやりたいところだが……この足では、そういう訳にもいかないのだ。
「パールラクーンの情勢については、管理局でも親密にやりとりしているが、これ以上に犬亜人の勢力図が広がってくるようなら……私達も、覚悟をしなければならないだろう」
元戦士の賢者はそう言い、下手をすると自分が自ら戦地に赴いて、犬亜人どもを駆逐する部隊を率いようと考えているような顔をする。
「猫獣人族と小獣人族が協力しているのは、いい傾向かもしれませんね。犬亜人との戦いについては、何かいい方法があるといいんですが」
何より彼らの住んでいる大地なのだ、一番いいのは──彼らが犬亜人に勝利し、自分達の領土を守るだけの力を身につける事だが……
その辺はナンティルも言っていたが、どうも種族的にままならないのだろう。まったく困った猫ちゃん達である。
それにしても冒険者が自主的に、パールラクーンでの戦いに参加しているとは知らなかった。猫獣人や小獣人に引き抜きでもされたのだろうか。
戦いに不慣れな猫獣人に、戦い方を教えている冒険者も居るかもしれない。
「早めに片づいてくれるといいんだが」
そんな風に呟いた俺に、ヴォージェスは首を横に振り、パールラクーンでの戦争は長引くだろうと態度で示すのだった。
次話は日曜日に投稿します。




