依頼品を渡し、猫の小屋(断熱仕様)を作製する
たくさんのブックマークや高い評価に感謝し、次話は火曜日に投稿予定!
今後ともよろしくお願いします~
昼前に二人の冒険者がやって来た。
引換券を手にした二人の男女。──そういえば昨日は受け取りに来なかったな。……まあ予定日当日に受け取りに来る冒険者など希だけれど。
「おう、出来てるよ」
二つの疾風の籠手を保管庫から取り出し、二人の前に出す。その性能について書かれた紙も渡すと、彼らは大きく頷いた。
「やっぱりあなたにお願いして正解でした」
二人の若い冒険者はそう言って、残りの代金を入れた皮袋を差し出す。
「そうか、それは良かった。シャルファーからわざわざやって来て、平凡な仕上がりじゃ──意味がないもんな」
「これをつけて、さっそく上級難度に挑もうと思います」
女の方がそう言ったので、俺は初めての挑戦なら先輩冒険者と行動し、焦らずに経験を積むよう説いた。
「そうですね、上級難度は中級よりも格段に危険だと評判ですから」
「その辺は大丈夫です。うちの旅団は後輩に先輩達が付き添って、上級難度の冒険について行く決まりですから」
なるほど、ちゃんとした旅団としての規定があるのか。それなら安心だろう。
二人と少し話していると、何故二人がミスランの鍛冶屋までやって来たのか、その理由が明らかになった。
「かなり前ですが、三人の女性冒険者がうちの旅団に参加して来て、上級難度の冒険に一緒に行ったんです。その人達が『ミスランのオーディス錬金工房なら、強力な錬成を施してくれるかも』と話していたので」
なるほど──三人の女冒険者といえばダリア、ラピス、フレジアの三人の事だろう。
「まだ私達は中級しか行った事はありませんけど、上級素材を手に入れられたら、またこちらに来るかもしれません」
「ははは……いやいや、地元の──シャルファーの鍛冶屋だって優秀なところはあるだろう。そこで作ってもらえばいいさ。高位錬成の依頼も受けているが、あまり立て続けに難易度の高い仕事ばかりやっていると、そんなに多くは回せないしね」
そんな話をして彼らは帰って行った。
新しい籠手にはかなり満足している様子で、二人は店から出ると、こちらに向かってお辞儀していた。──たぶん旅団の躾がしっかりとしているのだろう。
俺の錬成した疾風の籠手が、あの二人の冒険を支えられるものであればいいのだが。性能的には申し分ない装備。しかしそうした数値以上の──想いみたいなものが、一人一人の冒険者を支えてくれるはずだと信じている。
一つ一つの装備品が冒険者を守り、時には別の冒険者に受け継がれていく。ただの道具ではない、命を預けられる物として作られているのだ。
「さて……一仕事終えたし、次の仕事に取りかかるか」
調子が回復すれば、明日にも「四大精霊の加護」を杖に封入する、高位錬成を行うつもりだ。だから今日は、簡単な物を中心に錬成していこう。
「お、そうだ」
猫用の身体を掻く道具とか、小屋を囲む断熱材を作ろう。
断熱材についてはもう考えてある。作り方もたぶんこれで成功するだろう、というやり方を編み出していた。
「身体を擦りつけて、痒い部分を掻けるようにすればいいかな? なら断熱材を入れる壁に、でこぼこを付けておくか」
板の表面に突起を付ける地味な作業。
先の丸い突起は木くずを圧縮して作る事にした、大鋸屑も取ってあるのだ。
錬成容器で小さな突起を作ると、それをベニヤ板に張り付ける。
「日曜大工でやる事だな、これは」
などと言いながらも、猫の為に工作をする俺。
「断熱材は気泡で膨らんだ素材なら、たいていなんとかなるだろう。砂と……炭と、樹液と──水。あと塩、こんなもんか」
あとは錬成容器の設定を変更し、特殊な性質を持たせた粉に変化させる。
「ほ──ら出来た」
我ながら簡単に作製してしまった。
粉を広げて、そこに水を掛けると、空気を取り入れて膨れ上がる仕組みだ。
横に広げる為には、水を掛けたら板で挟む必要がある。
「ケベル、サリエ、協力してくれ」
そう呼び掛けて二人に近づく。──二人はそれぞれの仕事を終えて、修行用の製品作りに取りかかろうとしているところだったようだ。
「なんですか? この砂」
ベニヤ板の間に気泡の壁を作る素材だ。そう説明したが、二人には分からなかったようだ。
「こうだよ」
少しだけ撒いた粉に水を数滴たらすと、もこもこと大きく膨らんでいく。
「うわわっ⁉」
「なんか気持ち悪いっ」
粉の数十倍に膨れ上がった白い物体。二人には生き物の様に見えたのかもしれない。
これを板の上にいくつか線状に並べて配置し、そこに水を掛ける。そうしたら上から板を押さえて、二枚のベニヤ板の間に断熱材を広げる訳だ。
ぱらぱらと断熱材粉を板の上に撒き、水を掛ける。
「膨らむぞ、押さえて押さえて」
なるべく断熱材の幅を同じにする為に、板と板の間に二センチくらいの木片を挟んでおいた。
モコモコと膨れ上がる断熱材を押さえていると、板の間から白いのが溢れてきたが、おおむね想定した形にとどまった。
「お──よしよし、いい感じだ。これと同じ物をあと四つ作ってくれるか? 一つはこの図面どおりに大きい物になるから注意な。横の隙間を塞ぐのは俺がやるから」
断熱材が剥き出しになっている箇所にベニヤ板を嵌め込んでいく作業。二センチ幅の長い板を切り出すと、それを余分な断熱材がはみ出ている部分を削って、接着する。
こちらが断熱材を挟んだ板を完成させると、二人の徒弟は残りの四枚の板を完成させていた。
「終わりました」
「お──、ありがとう。休憩に入っていいぞ」
二人が休憩に行っている間に、これらを組み合わせて猫用の小屋を作るのだ。
床部分は大きく、一つの壁には大きめの穴をつけて出入り口を作る。
鋸などを使ってそうした作業をしていると、誰かが工房の中にやって来た。
「精が出るな──って、なんだ? それは」
そう声を掛けてきたのはヴォージェスだった。
身なりは普通の市民に近い格好だが、体つきや風貌から隠しようのない、威厳みたいなものが出ている大男。
五人の賢者の一人、その人だった。
疾風の籠手の受け渡し。
鍛冶屋の日常的な場面ですね。




