旅団の登録 ー新たなる道ー
修復道具を作って適度に時間を潰すと、余裕を持って中央都市管理局へ向かう。ここは都市の様々な案件を扱ったり、要望を聞き入れたりする場所である。
特に中央都市は、他の四つの都市と違い、街を治める象徴的存在の「神」が居ない為、四つの都市と共同で、この浮遊する大地を管理する「五都市計画」に則って運営されるよう──貴族と平民双方の意見を取り持つような機関として管理局が存在する。
堅苦しい話は止めよう。要約すれば「公平公正に都市運営する為にある場所」である(もちろん未整備な事も多いが)。
都市管理局に入ると「旅団管理局」と書かれた所に向かい書類を提出する。
「はい、旅団の新設ですね。──本拠地は○○区○地……、団員は五名。団長はオーディスワイア様──はい、記入漏れはありませんね。それでは登録料を確認させて頂きます」
昨日レーチェから預かった金を女の職員に渡す。──五人分の登録料も入っている。
金額が確かに入っていると確認すると、旅団名を刻印した旅団証明の金属板を後日届けに行くと職員が言い、仮の(紙の)証明書を渡された。
旅団に関する規定が書かれた薄い冊子を受け取り、都市管理局を出る──意外と簡単に認められるものだと思いつつ鍛冶屋への帰路に就く。
ああ、ついに旅団の団長などという面倒臭い肩書きを持ってしまったのだ──いや、待て。そんな風に面倒だと考えるから駄目なのだ、もっと先行きに明るい想像をして取り組むべきなのだ。
「俺はやれる、俺ならできる……俺は虎。俺は虎なんだ……!」
もはや何の事か分からないが、そうやって自らの心を奮い立たせる──しかし、ふと思い出す事があった。俺がかつて「金色狼の三勇士」などと仰々しい二つ名で呼ばれていた頃の事をだ。
あの頃は怖いものなど何も無いかの様に、仲間と共に冒険に出ていたものだ。怖いと思うどころか俺は冒険が楽しくて仕方なかったのだ。危険な獣や魔物との戦いですら、仲間と共にどこまでも突き進んで行けると──何も疑わなかったあの若き日。
取り戻す事はできないだろう。でも今俺の周りに居る者達には、より良い冒険をしてもらいたいと願っている。俺は彼らの力になる為に錬金鍛冶師を目指したのだ──もちろん冒険者時代から得意としていた分野だったから、この道に進む事にした。
この技で、この意志で。彼らを、若き冒険者達を支えたい。そう思っていたからこそ続けられたのではないか、俺はその気持ちがはっきりと、まだ自分の中に息づいているのを感じた。
今の俺は「勇士」などではない。勇士を支える「技師」であり「団長」となったのだ……!
鍛冶屋の前には見覚えのある三人の若者が立っていた。彼らは壁に架けられた掲示板を熱心に見て何かを話し合っている。
若き冒険者──カムイ、ウリス、ヴィナーの三人は、俺の姿に気づくと駆け寄って来た。
俺は彼らに伝えねばならない事がある。
そして彼らも俺に言いたい事、聞きたい事がある。そんな顔をしている。
さあ、冒険を始めよう。
ようこそ、「黒き錬金鍛冶の旅団」へ!
ー錬金鍛冶師の冒険のその後 第一章 錬金鍛冶の旅団 完 ー
もう少し続くと思いながら書いていたのですが、突然主人公が物語を結末に導く台詞を始めたので驚きながら書いておりました、まだこの先の展開に書きたい場面があるので、続けたい気持ちもあるのですが、ここで一端完結とさせて頂きます。
ここまでお付き合いくださりありがとうございました!
この話は短時間で一気に書き上げる事ができました。PV数やブックマーク数を励みにしてここまでこれたと思います。
終わり方は自分の書いた『ある受付嬢の非公開日誌』の終わり方に寄せて書きました。あっちは主人公が迷っている感じの終わり方でしたが、こちらは主人公が昔の事を思い出し、過去の自分と決別する形で新たな道へ進む事を決意する。そんな演出にしてみました。
作者は他にもいくつか書いているので(中にはかなり癖の強い物もあるので自己責任で読んでください(笑))この話を読んで少しでも面白いと感じたら是非作者をお気に入り登録して頂けると、それだけでも励みになります。
また別の物語(あるいはこの物語の続編)でお会いしましょう。
第一章を読み直したら脱字や余計な字があったりといくつか修正しました。
あと、「等」を「ら」に変えました(変えてない部分もあります)、漢字が多くても少なくても読みづらいですね。




