織田西さん、その発音むずかしい問題
オーディスワイアの名前の由来が明らかに。
そして戦闘訓練のシーン。剣と盾を使った豪快な動きをしたりする戦い方は、彼の剣盾時代の後半で身につけた技術かな。
「織田西・歩」というのが、俺のもと居た世界での名前だった。
アユムという男だか女だか分からない名前も苦手だったし、オダニシという名字も「ダニ」とか「タニシ」を思わせて子供の頃から嫌いだったのを思い出す。
さて、だからといって、俺が突然に「オーディスワイア」と名乗りだした訳でもない。
それはこちらに来たばかりの頃、碌に言葉も通じない状態で、名前を尋ねられたのだろうと思った時に、自分を指さして「織田西」と言っていたのだが。
「オーダィスィ」とか「オーディシィ」とか、散々に発音され、ああもうどうでもいいよ、という感じで「オーディシ」と自分を呼んでいたのだが。言葉を学んでいる時に「オーディス」という言葉の意味が「神と共に」とか「神の為に」といった意味となる言葉だと知った。
それは俺が神殿に案内され、神という存在を紹介された時の事だ。
燃え盛る炎の蛇、巨大な火を噴く大蛇──そう、火の神ミーナヴァルズの顕現体を初めて見た時の衝撃。
その体験から、この世界に実在する「神と共に歩む者」という意味で「オーディスワイア」と名乗る事にしたのだ。
「歩く」という意味の「ワイア」を付けて名前っぽくする、という意味もあったが、自分の本来の名前を、心のどこかでは残しておきたい、と思っていたのかもしれない。
「ともかく、オーディスワイアはもちろん妻を娶るべきだが、であると同時にオーディスワイアは、我のものでもあるのだ」
火の神ミーナヴァルズの言葉に反応したのは、水の神アリエイラだった。
「あなたのもの、ではありませんよ。オーディスワイアはオーディスワイアのものです」
いやいや、と声を上げたのは地の神ウル=オギト。
「我々のものでもあるだろう。何故ならこの男の肉体は大地と結び付き、その霊と魂は我々、精霊に近いのだからな」
三神の勝手な言い分はいつもの事だと諦めつつ、俺はただ黙って立っている風の神ラホルスに視線を送った。
彼は仮面の向こう側で微笑んだようだ。そして肩を竦めて見せる。
「まあ確かにオーディスワイアは、私達との結び付きが強いのは間違いない。精霊と、世界と、命の源──その繋がりにおいて私達は、ただの人と神の関係以上に強く結び付いている。だからこそ君の睡眠時に、こうして接触できるのだから」
なるほど、精神世界にたびたび接続されるのは、神々との接点が深い所為なのか。
「それにしても──なんというか、私事でこのように集まっていただき、光栄というかなんと言うか……」
「ははは……まあ、彼女らの事は放っておこう。いつも君の隣に座る権利を狙って争い合う、正妻と妾のように振る舞っているからね。──ともかくも君は今度の闘いに勝利し、無事にお付き合いを始めるところからだね。でないと私達も気が気ではないよ」
いらぬ心労を抱える叔父の様な意見だ。
するとウル=オギトが大きな笑い声を出す。
「なぁに、心配はいらんだろう。戦いの場から離れていたと言っても、オーディスワイアは体を鍛えつつ過ごしていたのだから。あとは戦闘の感覚を取り戻すだけではないか?」
戦士を守護すると言われる地の神は、俺がレーチェと闘う際に願った言葉を耳にしていたのか、していなかったのか、そんな言葉を口にした。
「がんばります……」
* * *
精神世界から解放された俺は、気づけばかなり長い時間を睡眠に使用していたらしい。窓の外から早朝の日差しがうっすらと入り込み、室内の気温もかなり下がっている。
起き上がると簡単な運動を、そして霧吹きで小鉢植物園に水をやる。窓の外を見ると、広々とした庭に朝日が染み込むみたいに、淡い光を受けて薄靄を立てていた。
どうやら昨晩に少量の雨が降り、地面を濡らしたらしい。
部屋を出ると玄関に向かい、玄関の小鉢にも水を吹き掛ける。
視界の隅で白っぽい物が動いたので見てみると、木箱の中から子猫が出て来て、こちらを見ていた。
「おう、早いな」
霧吹きを置きながら声を掛けると、子猫は声を出さずに口の動きだけで「ニャァ──」と鳴く真似をする。起き出したばかりで声が出ないらしい。
寒かったのだろうか、ぶるぶるっと小さな体を震わせると、小屋の中へ戻って行く。
こっちは外へ出ると、倉庫から木剣と革の盾を取り出す。今回の朝の訓練は速さにこだわって、攻撃と守りの動きを確認する。
仮想訓練の相手は白銀の騎士だ。奴らと行った無数の戦闘経験の中には、剣と盾を持っていた頃の記憶もあるからだ。
強力な攻撃や鋭い突きに対応して反撃する動きを繰り返す。心象としては防御と攻撃がほとんど同時に行われるような感じ、もちろん相手の出方にもよるが。
振り下ろしてきた剣を横に──体をずらして盾で受け流す。
突いてきた攻撃に対し踏み込み、盾を肩に担ぐみたいにして受け流し、こちらも突きを返す。──そんな訓練を何度も何度も繰り返す。体が自然と反応できるくらいになるまで何度もだ。
訓練を続ける中で、義足を使用してどの程度の可動が可能かを理解していく。横への動きも、普段やっている範囲より、少し大きく歩幅を広げても、足の下ろし方を変えれば、まず義足が外れる事はないと気づいた。
義足と膝を固定する器具に負担をかけず、なおかつ足首の位置が安定するような着地、足運びを意識すれば──ある程度は義足でも戦えるだろう。
義足特有の足の使い方を覚え、横に移動する時には移動方向に対して、爪先を向けるように踏み込めば──多少は踏ん張りが利く。
「これで少しは勝率を上げられるかな」
ビュッと木剣を振りながら横へ跳び、続けざまに振り下ろす。そうした地味な練習を、早朝の内に体に覚えさせる。
すると朝日がそこそこ高く登った頃に、庭にカムイがやって来た。
「おはようございます。早いですね」
「そっちもな。あまり根を詰めすぎるなよ? 休む時はしっかりと休むものだ」
俺が足を使って横に移動しているのを見て、カムイは自分の訓練に付き合ってほしいと言ってきた。
「いいだろう、双剣でもなんでも相手をしてやる」
少年は頷き、木剣を取りに行くのだった。
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誤字報告ありがとうございます。
『HJ小説大賞2021』という企画で、第二次選考まで名前が載っていました!(いまさら気づきましたよ……)賞はもらえなくても、嬉しいです! 感謝~!




