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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第八章 新たなる指標

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レーチェの想い

 夜になると俺は一人で庭に出た。

 ひんやりと冷たい空気を肌に感じるが、震え上がるほど寒くはない。

 空に浮かぶ青い月火つきびが弱々しく辺りを染める。

 それを見上げながら瞑想し、気持ちを訓練に切り替えた。


 木剣と革の盾を手にしてそれを振り回す。

 なるべく足も使い、横への移動や、引き足の感触を確かめる。一つ一つの動作を確認しながら、どの程度までなら義足でも安全に動け、なおかつ闘う事が出来るかを確かめながら、一通りの型を確かめる。

 盾で相手を突き飛ばす動きや、盾で攻撃を弾く動きなど、そこから剣による反撃をする動作をした時──義足がすべり、地面に尻餅をつく俺。


「おげェっ! しっ、尻に石が……!」

 誰だ、石を片づけておかなかった奴は! 庭の石は小さな物でも「石置き場」に置くように言っておいただろう。

「基礎がなっとらん、基礎が……」

 ぶつぶつと文句を言いながら立ち上がる。


「なんの基礎ですか」

 不意に声を掛けられて悲鳴を上げそうになる。

「なッ! なんだ、レーチェかぁ……」

 石が落ちていたんだよと言いつつ、石置き場の方に向かって放り投げる。かちん、という音を立てて小石が石にぶつかったのを耳にした。

「訓練ですか」

「……おう、()()()()()()()()()()()()、勝たなきゃならんからな」

 えてそういう言い方をして動揺を誘ったが、彼女は暗闇の中で見える範囲では、なんの反応も示さなかった。


「そ、そうですの……まあ、がんばってくださいな」

 その声はどこかうわずっており、彼女の焦りが感じられる。

「訓練相手を──努めましょうか?」

 レーチェはそんな事を言い出した。

「いやいや、それにはおよばないよ。『敵から塩を送られる』なんて、俺はそれほど弱っちゃいない」

 彼女は小首をかしげ「敵から塩ってなんですの?」と尋ねてきた。

「俺が居た世界──国にあったことわざだよ」

 正確には「敵に塩を送る」だったかな? まあどうでもいい。


「ともかく、次は必ず勝ってみせるからな」

 彼女が青白い月明かりの下で笑ったように見えた。

「そうですわね、わたくしも楽しみにしていますわ」

 彼女はそう言うと、一歩さがりながら、途切れ途切れに言葉をつむぐ。


「私も──その、あなたを尊敬していますわ。あなたがフォロスハートに貢献こうけんしてくれている事も、旅団の団員達に対してしてくれている事にも」

 彼女は突然そんな事を口にし、どんどん俺から離れて行きながら、とうとう宿舎の玄関前まで下がって行ってしまう。

 俺はそんな彼女を見守りながらも、ぽかんとして立ち尽くす。

「私も、その……ぁ、あなたを──」

 彼女は言葉を振り絞るみたいに何かを呟いている。

「──────ぉっ、おやすみなさい!」

 凄い勢いでそう言うと、ドアを開けて宿舎の中へと逃げるみたいに姿を消すレーチェ。


 彼女がなんらかの想いを口にしようとしたのは理解できたが、彼女の口から決定的な言葉は聞けなかった。

 おそらく彼女の妹(リーティス)が、俺からの告白を受けたのだから、自分からも何か積極的に言葉にしろ、みたいな事を言われたのだろうと思われた。リーティスの持つ「()()()()()()()()」は、かなり強力な効果を持っているのだろう。

 まるで魔法のようにたくみに、レーチェを思い通りに操作しているように感じられる。

「あの妹、ああ見えてけっこう怖い女なのかもしれないな」

 奥手な姉を思っての事だろうが、いったいどんな言葉を使ってその気にさせているのだろう。

「リーティス、恐ろしい子」


 まあともかく、レーチェに勝てるだけの技量を取り戻さなくては。空白ブランクを取り返すのは簡単ではない。

 だがそれも考えながら取り組めば、短い時間を有効に使う事が出来る。積み重ねられた経験を取り戻すだけではない、新たに経験した異なる力や技が、俺の中にはあるのだから。

 それらを総動員してレーチェを負かす。


 足を動かさずに上半身のみで剣を振るう訓練、素早く切り返す腕の動き、それらを確認しながら、正確さと速度を速めていく。

 朝の訓練も一人でひっそりとおこなった。その時に感じた事は、体力や集中力は以前よりもあるのではないか、という感覚だった。


 大きく前に踏み込みながら攻撃を打ち出す。

 身体の真下にぐっと体重を乗せて踏ん張るなら義足でも耐えられる。

 踏み出した左足に対し、右足で身体を支える動き──残念ながらこうなると、引き足だけで戻る事が出来ない。義足がずれてしまうからだ。しっかりと固定していてもその危険はあり得るから、あまり無茶は出来ない。

「義足を改良する方が早いか……?」

 しかしそれが難しいのは経験済みだ。しっかりした義足の知識がある訳でもないし、運動選手アスリートが付けていたような金属板型義足。あれが横に対する動きにも対応できるならいいのだが。


「義足は一旦おいておこう」

 歩幅を小さく小刻みに動けば、つまづく心配はない。

 俺はそれよりも、木剣を手にしたまま四つんいになる。その状態でまるで蜥蜴とかげの様に、暗い地面を這って歩く……

 別に遊んでいる訳じゃない、これもちゃんとした訓練の一環。

 慣れない動きをいきなりやると肉離れを起こしたりするので、それを防ぐ為の運動だ。

 よいしょ、よいしょ、といった感じで地面を移動する。はたから見たらまるで大蜥蜴が這っているみたいに見えただろう。


 右足は膝を使って体を前に押し出す動きも交え、その状態でうろうろと歩き回る。

 その状態から片手で体を支え、木剣を斜め上に振り上げたり、突く動作を確かめる。──鋭く素早く、それを心がける。損害ダメージを与える為の攻撃じゃない、当てさえすればいいのだから。

「わっ、わりと……きついな……」

 慣れない運動の所為せいで、すぐに息があがってしまう。


 よいしょぉっ、今度はそう掛け声を発しながら、地面に頭を付け、前方に向かって足を蹴り出す練習をする。まあこれを使う事はないだろうが、念には念をだ。

 さらにそこから前転着地して、しゃがんだまま体を回転、木剣で斬りつける変則的な攻撃。

 レーチェを打ち負かす為にあらゆる手段を講じる。


 一通りの動作を確認すると立ち上がり、風呂に入る事にした。「明日は筋肉痛だな」そんな覚悟をしながら、頭や衣服についた汚れを払い落とす。


「愛の為

 努力する俺

  いかしてる」


 一句読むと、青い月火を見上げる。

 気の所為かその青い火の塊が、ゆらゆらと揺らめいたように見えたのだった……

闘いの練習を重ねるオーディスワイア。ブランクを取り戻せるか。

変則的な闘い方で一発逆転を目指せ!

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