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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第八章 新たなる指標

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変わりゆく季節と心境

ブックマークや高い評価に感謝の更新。


硝子の器については以前雑誌で見た、綺麗なガラスの平たい皿を思い出しながら書いてみました。

自然な曲線が美しい器でしたね。

 鍛冶屋での作業を終えると、宿舎に戻ろうと表へ出る。そこは肌寒い空気に満ちていて、冬の到来を感じさせた。

 強壮薬の調合表を手に敷地の中へと入る、広々とした空き地はがらんとしていた。椅子などは片づけられ、壁際に寄せられている。

 戦闘訓練をしていた仲間達は、宿舎の中に入り、食堂に集まっているだろう。


 宿舎の玄関から中に入ると、少し気まずさを感じる。レーチェはいったいどんな顔をして俺を迎えるだろうか? そんな考えが頭をよぎる。

「ニャァ──」

 階段横の木箱の中から現れたのは白猫ライム。どうやら早めの夕食を与えられ、子猫達は住処すみかの中で眠っているらしい。

「お疲れさん」

 靴を脱いでいるとライムが近寄ってきて、座り込んでいる俺の体にすり寄り、顔を覗き込んでくる。


「ニャァァ──」

 ぐりぐりと頭を押しつけて、何か言いたそうに──また俺の目を見てくる。

「な、なんだよぅ……」

 すると彼女は後ろ足で耳をくと、てくてくと食堂の方に歩いて行く。

 俺はそのあとを追い、食堂へと向かった。

 そこにはいつもと同じく大勢の仲間が集まっていた。さらにリゼミラとアディーディンク、その二人の子供達も居て、ライムが食堂に入って来たのを見ると、アドラストスとリッカの二人は猫を抱き上げようと近づいて行くが、彼女ライムはさっとテーブルの下に移動して逃げて行く。


「遅かったね。今日あたしは市外訓練場で新人の訓練度合いを見てきたんだけれど、その多くは初級の転移門になら問題ないくらいの強さはあると思うよ」

 どうする? とリゼミラが言うので、俺は彼女の言葉を信頼する事にした。

「そうか、お前が言うなら問題ないだろう。素材集めの協力もして欲しいし、新人達もいい加減に訓練ばかりでは飽きるだろうからな」

 レーチェにも意見を聞こうと、ちらりと彼女を見ると、こちらを見ていた彼女と目が合った。

「な、なんですの?」

「いや……新人達も、そろそろ冒険に出すべきだと思うかと尋ねているんだが」

 すると彼女は狼狽うろたえながら「そうですわね、彼らも訓練で基本的な事は学んだでしょう」と応えるのだった。


 彼女のとなりに座るリーティスに強壮薬の調合表を渡し、服用間隔に注意しながら飲むようにと忠告アドバイスをする。少女は頷き、礼の言葉を口にした。

 俺はリゼミラに新人達のパーティ編成を頼み、「鉱山と荒野の大地」に行って鉄鉱石や石英を採取するよう頼んだ。

「石英か、懐かしいね。そんな物を集めていた時もあったなぁ……」

「硝子の器が流行った時だね。あの頃からオーディスさんも硝子の加工をしていましたよね」

 アディーディンクも懐かしいと回想しながら、俺が作った硝子の杯をめてくる。


「いまだに使ってますよ、厚みのある小さな硝子の器。なめらかな表面のでこぼこが、手にしっくりとくるんですよね。あれで冷たい清酒を飲むと、気持ちが引き締まる感じがして好きだな」

「ああ、あれか。『水が固まって出来た』みたいな、自然な造形になるように作るのが難しいんだよな」

 透明な硝子だけで作った小さなお椀型の器は、光を受けると厚みの違う部分が、自然ないい味を出すんだ。──そんな事を考えて椅子に座ると、斜め前に座るレーチェが「硝子の器と言えば、綺麗な形に作れるかが一般的だと思いますけど」と口を挟んできた。

 妹のリーティスも興味がありそうな顔をして聞いている。


「そうだな、色を付けたりして、作り手の創意工夫で色々な意匠デザインらしたりな。けど俺は──そうした固定観念からはずれた、『自然の美』を追求した器を作りたかったんだよ」

 そう説明するとレーチェは興味を引かれたらしい。

「自然な美ですか。……それは見てみたいですわね」

 そうかと俺は頷き、部屋に置いてある器を持ってくると言って立ち上がった。

 レーチェはあとでもよろしいですわと声をかけたが、俺は自分の部屋に戻ると、茶木などを入れた木箱の中から硝子の器を手にし、食堂へと戻る。


「これだよ」と言ってテーブルの上に硝子の小さな器置くと、レーチェはそれを手に取って、これをオーディス団長が……と呟く。

「ああ、それそれ、結構いい感じだよな。あたしももらったよ、少しの酒を飲むのにちょうどいいんだよな」

 リゼミラが言うとレーチェは頷き、じっとこちらを見つめる。

 その目には「私も欲しいですわ」という無言の声が表されていた。

「わ、わぁったよ。こんど時間があったら作ってやる」

 レーチェは宝石などの原石を集めたりしているだけあって、加工され、装飾された物だけでなく──自然な、飾り気のない物の良さも分かるのだろう。


「ただ難点は深さがないから、瓶から葡萄酒ワインなんかを入れようとすると、こぼれやすいんだよな」

 ケラケラと笑いながら言うリゼミラ。

「それならいいのがある、硝子の壺型容器に注ぎ口を付けたやつだ。それに酒を入れておいて、その容器を氷の入った器に入れて置くと、冷酒をちびちびと注いで飲めるんだ」

 そんな話で俺達は盛り上がった。

 今日は夕食に葡萄酒も出された。それは少しばかり高揚こうようしていた気持ちに落ち着きを与えてくれる、わずかな酒。


 リーティスのした後押しの勢いで、思わずレーチェに告白してしまったざわつく気持ちを、酒の力でしずめようとするみたいに、俺は二杯目の葡萄酒を口にした。

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