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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第八章 新たなる指標

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再戦の約束

 俺は彼女の手をつかんだまま、こう口にした。

「レーチェ──俺にもう一度、機会チャンスをくれないか? 次は必ず勝つと約束する」

 すると彼女は少し躊躇ためらいがちに赤くなった顔を背ける。

「……わかりましたわ。それではこの話は、次の機会に致しましょう」

 彼女の手から力が抜ける。俺はその手を放すと、革鎧を脱ぎながら、剣と盾を長椅子の上に置いた。


「レーチェさん、本当に強くなりましたね」

 長椅子の端に腰かけていたユナが言った。

「そうだな、他の旅団員も着実に強くなっていると思うが、レーチェやカムイは頭一つ抜け出ているかもしれない」

 俺は彼女にそう言うと、リーティスの居る場所に向かって歩き出す。

 少女は遠目から見ても落胆しているのが分かるくらい、暗い表情をしてこちらを見てくる。


「おいおい、姉の成長を喜んでやらないか」

「それで──お姉様には、何も伝えられなかったのですか?」

「いいや、いちおう伝えたぞ。この勝負で勝てたら、俺と付き合ってくれと」

 まあ負けたけどな、そう言うとリーティスは、がっくりと肩を落とす。

「付き合うだけですか? 結婚の約束とかは──」

「だから、無茶を言うな。恋人関係にもならず、いきなり結婚とか、そんな──」

 すると少女は「何を言っているんですか」と真剣な様子で言う。

「貴族はそんなものでしょう、本の中だけですけれど、政略結婚なんていう文化も以前はあったらしいですし。恋人関係にならずとも、いきなり家にとつぐなんて珍しくもありませんわ」

 本の中の事を実際の事のように語るのはやめておけ、俺はそんな風に彼女をいさめ、ともかく好意は伝えたのだから一歩前進したと、前向きに考えているのを伝えた。


「確かにそうですわね。これでお姉様もはっきりと、オーディスワイア様の事を意識するでしょうから。……ええ、今日のところはこの辺で良しとしましょう」

 まるで何かの監督を気取っている見たいなリーティス。レーチェと付き合うにしても、この()()()が付いてくるのかと思い、苦笑いが出てしまう。


「やれやれ……」

 この子の勢いに引っ張られて、思わず告白などをしてしまった。──まあ心のどこかでは、いつも冒険にレーチェを送り出すのを複雑な想いで見守っていたりしたので、はっきりと意識していなかっただけで、彼女の事を愛するようになっていたのだろうと思う。

 彼女の身を案じると、胸の中にもやもやとした何かが生まれる。それは他の旅団員にも同じ思いを抱くのだが、彼女の場合はより大きな感覚になるのを知っていた。


 混沌こんとんに取り込まれたエウシュマージアとの戦いで耳にしたレーチェの悲鳴、あれを聞いた時の恐怖や怒り、あれが彼女に対する気持ちに気づかされた、一番大きな転機だったろう。

 当たり前のように身近に居たとしても、ある拍子でその状況は急激な変化を遂げてしまう。そうした怖さを改めて実感した出来事だった。

 当たり前にあるものなど、本当は一つも無いのだ。

 今あるものに満足せず、それをなんとしてでも守り抜く気持ちをもって、日頃から努力を重ねるしかない。地道な積み重ねが、安全や平和を維持する力なのだという事。

 俺は錬金鍛冶師として、そんな日々を守る為に冒険者達を支えていくんだ。──そんな想いも新たにした。


「ああ──だけどその前に、戦闘訓練もしないとならなくなったんだった」

 俺の呟きにリーティスが「え?」と反応する。

「今回の戦闘訓練では負けたが、もう一度──次の機会をもらったんだ。そこで改めて勝って、レーチェに告白しようと思う」

「いいですね!」

 リーティスが俺の言葉を聞いて喜んでいる。

「まあ、お姉様らしいですわね。はっきり申しますと、二度目の機会を与える時点で、オーディスワイア様の事を『愛している』と、そう言っているようなものだと思うのですが」

 妹は容赦がない。


「そんな事、レーチェには言うなよ? ただでさえ初心うぶなところがあるんだから、そんな風に言われたら──」

「わかっています。お姉様はすぐムキになって否定するでしょうから。大丈夫ですよ、私はオーディスワイア様を応援しますわ」

「ははは……ありがとう」

 そんな返事をして俺は鍛冶屋の方に向かうと告げた。

 するとそこへレーチェが、表面上はにこやかな顔をして近づいて来たのだった。

「団長? お話は終わりまして? わたくし、妹と少し話さなければならない事ができましたの」

「あ、うん」

 俺は剣呑けんのんな空気を放っているレーチェから逃げ出すと、宿舎を離れて鍛冶屋に向かう。




 鍛冶場に入るとケベルが報告に来てくれた。

「先ほど冒険者から鉄鉱石と銅鉱石とが持ち込まれたので買っておきました。かなりの量なので、さっそく延べ棒にしようと思うのですが」

「そうか、分かった。……なら他の鉱石も精製しておいてくれるか」

 するとケベルは「わかりました」と答えて、燃結晶などの準備にかかる。

 研究室に入った俺は、錬成帳面(ノート)から強壮薬の調合についての項目を調べ、それを紙に書き写した。あとでリーティスに持っていこう。

「……無事だといいんだが」

 あのレーチェの様子だと、相当に大きな雷を落とされていそうだが。妹は姉の雷など怖くないと言っていたから、たぶん平気だろう。

「くわばらくわばら……」

 そう口にしながら、今度はカムイを筆頭に、今後──彼ら旅団員に作って与えるべき装備品について、いくつか思いついた強化錬成の内容を書き記しておく。

 手が空いたらそれらを作り、彼らが上級難度に挑む時に助けになるような装備を与えてやろうと考えた。


 それにレーチェにも与えなければならないだろう。──彼女への気持ちをはっきりさせた以上、今までと同じ扱い、という訳にも(俺の気持ち的に)いくまい。だがその為にはまず、俺は彼女に勝利していなければならない。

 負けた状態のままで装備品を与えて、上級難度へ向かわせるなど、俺の中にある冒険者や鍛冶師としての誇り(プライド)が許さないのだ。


「その為には、また武器を扱う訓練をしておかないとな」

 これから毎日、朝と夜の自主練をしようと誓い、錬成帳面を閉じた。

レーチェの態度も軟化してきた──かな? と思いきや……

姉には強気のリーティス、本当に平気なのか?

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