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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第八章 新たなる指標

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オーディスワイア対レーチェ

敬老の日ということで(関係ない)特別に二日連続投稿!


二人のチャンバラの結末やいかに!

 木剣と革の盾を構えたレーチェ。以前に対峙たいじした時と違い、隙がまるで感じられない。

 訓練とはいえ彼女は手を抜かない、決して。

 俺は自由には動けない足を使いながら、じりっ、じりっと間合いを詰める。

 なるべく相手を正方形の角やわくの近くに追い込みたい。自由に動かれるとそれだけ、こちらには厳しい闘いになるからだ。

 前に向かう踏み込みなら問題ないが、横への移動はつまずく可能性が高い。下手をすると膝から崩れ落ちる場合もある。


 だがレーチェは下がらない、盾を構えながら猛然と突進して来たのだ。

「くっ」

 その動きに合わせて木剣を横薙ぎにする。がつんと固い音を立て、盾で防がれた。

 大振りの横薙ぎが脇腹を狙ってきたが、それを盾で受け止めつつ、彼女が横に回り込もうとする動きを牽制けんせいし、突きから乱暴に叩きつける薙ぎ払いをお見舞いする。


 すっと後方に下がって薙ぎ払われた剣をかわすと、離れた間合いから素早く踏み込み、鋭い突きを低い姿勢から繰り出すレーチェ。

「ガツッ」

 その剣先を木剣で弾き、横に受け流した。

 横へ移動した彼女を追って慎重に足を移動させ、正面にレーチェをとらえる。

 離れていた彼女から三連続の突きを受け、思わず盾と剣でその攻撃を弾き返す。


「いつの間にこんな技を使えるようになったんだか」

「まだまだこれからですわよ」

 まるで野獣のように鋭い光を宿す薄紫色の瞳。

 こんな状況だが、その瞳を美しいと思ってしまう。


 盾を構えて前に出て来たかと思うと、彼女は左右に身体を振って撹乱かくらんしてくる。

 生憎あいにくだが、そうした動きに惑わされる事はない。

「ふんっ!」

 移動した先に向かって斬り上げる一撃。

 それもわざと振り下ろした攻撃を躱させてからの、返し刃での見えづらい攻撃だ。

「びゅうんっ」

 防御する盾の下から飛び出すみたいな形で振り上げた攻撃は、さらに横へと動いた彼女には当たらなかった。

(速いッ!)

 あの胸……いや、身体で──これほど速く動けるとは。


 思い切り空振りをした俺の側面から、レーチェが木剣を振り下ろしてくる!


 右手側の、剣を振り下ろして無防備になった右側面からの攻撃。俺は左足で踏ん張ると、身体を左へ反らして右足を持ち上げ、()()()彼女の振り下ろした木剣を受け止めた。


「なッ──!」

「おっととと……」

 攻撃を受けた反動でこけそうになったが、盾を地面に押しつけ、ぐるっと大きく右足を振り上げて、側転に近い格好で身体を横に回転させて着地する。

「ちょっと! そんなのありですの⁉」

「義足はすね当てと同じような物だろう、細かい事はいいんだよ!」

 細かくありませんわ! そう息巻くレーチェ。

 咄嗟とっさに足を上げて防いだが、下手をすると内股の筋が伸びて肉離れを起こしそうだ。


 再び離れた間合いからにらみ合う俺とレーチェ。

 低い姿勢で突っ込んできて、下段から鋭い突きが飛んでくる──それも二回。

 こう低い姿勢をとられると、こちらから攻撃できない。

 すると彼女は前に踏み出した足を蹴って立ち上がり、今度は横に動いて剣をくるくると回す。


「どうしましたの? 攻撃しなければわたくしに勝つ事など出来なくってよ」

「まかせろ、作戦の一つだ」

 俺は盾を低く構えたまま、あくまで強気にこたえる。

 防御の瞬間、攻撃の瞬間、そうした行動の時にのみ力を入れる。体力を温存する闘い方。

 現役の冒険者であるレーチェと、鍛冶師の俺では、武器の扱いで失う体力が違う。鍛冶屋も体力や腕力には自信があるが、武器を振り回すような動きをしている訳じゃないのだ。


 その後もレーチェの鋭い攻撃を躱し、盾で防ぎながら、なんとか持ちこたえる。前にも彼女とは闘ったが、その時よりも激しい攻めだ。──簡単に誰かのものになる女ではない、そうした意思表示のようにも感じられる。

「むっ」

 木剣を盾で弾いた俺を警戒して、レーチェが一歩後退した。


機会(チャンス)が回ってきたな)


 俺はじりじりと間合いを詰め、場外を表す線の角に彼女を追い込んで行く。

 その事に気づいたのだろう、レーチェは線の場所を確認し、俺から目線を外す。

 その隙を待っていた。


 俺は剣を斜め上から振り下ろし、素早い動きで右から左からと連続で斬りつける。

「ふんっ!」

 レーチェはそれを読んでいた。

 盾で弾き、二撃目を躱しながら木剣を振り抜いてきた。

(ここだ!)

 俺は盾で彼女の攻撃を受け流しつつ、右足を大きく前に踏み込んだ。

 低い姿勢から横に薙ぎ払う一撃で、彼女の胴を狙う──


「おわっ⁉」

 ところが俺は、踏み込んだ義足で地面を掴む事が出来なかった。

 その為に上体が横に倒れ込み、俺は左手に持った盾で地面を打ち、身体が完全に地面に倒れ込むのを避けるしかなかった。

「こつん」と、木剣が俺の頭を軽く叩く。

 してやられた、レーチェは前に踏み込んだ俺の足──膝を押さえて、外側にずらしたのだ。前に出る力をがれた俺は均衡バランスを崩し、身体を支える事が出来なかったのだ。

 なんとレーチェは足を伸ばして俺の右足をずらし、均衡を崩すという手に出たのだった。


「私の勝ちですわね」

 レーチェはそう言いながら、俺に手を伸ばす。

 俺は地面に突いた盾を放し、ずれた義足を直しながら不満を口にした。

「なんだその足技は。いままで訓練中に蹴りなんて使わなかっただろう」

「だから言いましたでしょ、リーファから格闘術の訓練を受けていると。油断しましたわね。──それにリトキスさんからも、昔のオーディス団長の()()()()()について耳にしていたので」


 リトキスから聞いたという俺の「足癖の悪さ」とは、対人戦闘でおこなっていた剣だけの攻撃だけでなく、蹴りなども交えた闘い方の事だろう。

 特にリゼミラとの闘いでは、よくそうした蹴り技も使っていたものだ。

 義足を直すと俺は彼女の手を取り立ち上がる。


「すまん、勝てなかったわ」

 俺は木剣を手にしたまま頭を掻く。──まあ、こうなる予感はしていた、レーチェは本当に強くなっていたからだ。

 彼女は寂しそうに笑顔を作ると、小声で何事かつぶやき、小さな溜め息を吐く。


「いいですわ、お気になさらずに」

 だが、彼女はその言葉の前に、小声でこう呟いていたのだ。



  ──なぜ勝ってくださらないのですか──



 と。

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