オーディスワイア対レーチェ
敬老の日ということで(関係ない)特別に二日連続投稿!
二人のチャンバラの結末やいかに!
木剣と革の盾を構えたレーチェ。以前に対峙した時と違い、隙がまるで感じられない。
訓練とはいえ彼女は手を抜かない、決して。
俺は自由には動けない足を使いながら、じりっ、じりっと間合いを詰める。
なるべく相手を正方形の角や枠の近くに追い込みたい。自由に動かれるとそれだけ、こちらには厳しい闘いになるからだ。
前に向かう踏み込みなら問題ないが、横への移動は躓く可能性が高い。下手をすると膝から崩れ落ちる場合もある。
だがレーチェは下がらない、盾を構えながら猛然と突進して来たのだ。
「くっ」
その動きに合わせて木剣を横薙ぎにする。がつんと固い音を立て、盾で防がれた。
大振りの横薙ぎが脇腹を狙ってきたが、それを盾で受け止めつつ、彼女が横に回り込もうとする動きを牽制し、突きから乱暴に叩きつける薙ぎ払いをお見舞いする。
すっと後方に下がって薙ぎ払われた剣を躱すと、離れた間合いから素早く踏み込み、鋭い突きを低い姿勢から繰り出すレーチェ。
「ガツッ」
その剣先を木剣で弾き、横に受け流した。
横へ移動した彼女を追って慎重に足を移動させ、正面にレーチェを捉える。
離れていた彼女から三連続の突きを受け、思わず盾と剣でその攻撃を弾き返す。
「いつの間にこんな技を使えるようになったんだか」
「まだまだこれからですわよ」
まるで野獣のように鋭い光を宿す薄紫色の瞳。
こんな状況だが、その瞳を美しいと思ってしまう。
盾を構えて前に出て来たかと思うと、彼女は左右に身体を振って撹乱してくる。
生憎だが、そうした動きに惑わされる事はない。
「ふんっ!」
移動した先に向かって斬り上げる一撃。
それもわざと振り下ろした攻撃を躱させてからの、返し刃での見えづらい攻撃だ。
「びゅうんっ」
防御する盾の下から飛び出すみたいな形で振り上げた攻撃は、さらに横へと動いた彼女には当たらなかった。
(速いッ!)
あの胸……いや、身体で──これほど速く動けるとは。
思い切り空振りをした俺の側面から、レーチェが木剣を振り下ろしてくる!
右手側の、剣を振り下ろして無防備になった右側面からの攻撃。俺は左足で踏ん張ると、身体を左へ反らして右足を持ち上げ、義足で彼女の振り下ろした木剣を受け止めた。
「なッ──!」
「おっととと……」
攻撃を受けた反動でこけそうになったが、盾を地面に押しつけ、ぐるっと大きく右足を振り上げて、側転に近い格好で身体を横に回転させて着地する。
「ちょっと! そんなのありですの⁉」
「義足は脛当てと同じような物だろう、細かい事はいいんだよ!」
細かくありませんわ! そう息巻くレーチェ。
咄嗟に足を上げて防いだが、下手をすると内股の筋が伸びて肉離れを起こしそうだ。
再び離れた間合いから睨み合う俺とレーチェ。
低い姿勢で突っ込んできて、下段から鋭い突きが飛んでくる──それも二回。
こう低い姿勢をとられると、こちらから攻撃できない。
すると彼女は前に踏み出した足を蹴って立ち上がり、今度は横に動いて剣をくるくると回す。
「どうしましたの? 攻撃しなければ私に勝つ事など出来なくってよ」
「まかせろ、作戦の一つだ」
俺は盾を低く構えたまま、あくまで強気に応える。
防御の瞬間、攻撃の瞬間、そうした行動の時にのみ力を入れる。体力を温存する闘い方。
現役の冒険者であるレーチェと、鍛冶師の俺では、武器の扱いで失う体力が違う。鍛冶屋も体力や腕力には自信があるが、武器を振り回すような動きをしている訳じゃないのだ。
その後もレーチェの鋭い攻撃を躱し、盾で防ぎながら、なんとか持ちこたえる。前にも彼女とは闘ったが、その時よりも激しい攻めだ。──簡単に誰かのものになる女ではない、そうした意思表示のようにも感じられる。
「むっ」
木剣を盾で弾いた俺を警戒して、レーチェが一歩後退した。
(機会が回ってきたな)
俺はじりじりと間合いを詰め、場外を表す線の角に彼女を追い込んで行く。
その事に気づいたのだろう、レーチェは線の場所を確認し、俺から目線を外す。
その隙を待っていた。
俺は剣を斜め上から振り下ろし、素早い動きで右から左からと連続で斬りつける。
「ふんっ!」
レーチェはそれを読んでいた。
盾で弾き、二撃目を躱しながら木剣を振り抜いてきた。
(ここだ!)
俺は盾で彼女の攻撃を受け流しつつ、右足を大きく前に踏み込んだ。
低い姿勢から横に薙ぎ払う一撃で、彼女の胴を狙う──
「おわっ⁉」
ところが俺は、踏み込んだ義足で地面を掴む事が出来なかった。
その為に上体が横に倒れ込み、俺は左手に持った盾で地面を打ち、身体が完全に地面に倒れ込むのを避けるしかなかった。
「こつん」と、木剣が俺の頭を軽く叩く。
してやられた、レーチェは前に踏み込んだ俺の足──膝を押さえて、外側にずらしたのだ。前に出る力を殺がれた俺は均衡を崩し、身体を支える事が出来なかったのだ。
なんとレーチェは足を伸ばして俺の右足をずらし、均衡を崩すという手に出たのだった。
「私の勝ちですわね」
レーチェはそう言いながら、俺に手を伸ばす。
俺は地面に突いた盾を放し、ずれた義足を直しながら不満を口にした。
「なんだその足技は。いままで訓練中に蹴りなんて使わなかっただろう」
「だから言いましたでしょ、リーファから格闘術の訓練を受けていると。油断しましたわね。──それにリトキスさんからも、昔のオーディス団長の足癖の悪さについて耳にしていたので」
リトキスから聞いたという俺の「足癖の悪さ」とは、対人戦闘で行っていた剣だけの攻撃だけでなく、蹴りなども交えた闘い方の事だろう。
特にリゼミラとの闘いでは、よくそうした蹴り技も使っていたものだ。
義足を直すと俺は彼女の手を取り立ち上がる。
「すまん、勝てなかったわ」
俺は木剣を手にしたまま頭を掻く。──まあ、こうなる予感はしていた、レーチェは本当に強くなっていたからだ。
彼女は寂しそうに笑顔を作ると、小声で何事か呟き、小さな溜め息を吐く。
「いいですわ、お気になさらずに」
だが、彼女はその言葉の前に、小声でこう呟いていたのだ。
──なぜ勝ってくださらないのですか──
と。




