遅過ぎた商売敵
カーリアはゴスロリキャラを想像して頂けると分かりやすいかと。
ちょっと陰気で、中二病っぽい感じです(この先も登場しますが、微妙に(中二病と)違う部分が出てきます)。
翌朝早くに焔日の前に立ち、火の神に祈ろうとすると──いつぞやの夜の事を思い出し、祈るどころではなくなってしまう(俺もまだまだ若いんだな)。
鍛冶屋前の壁に架ける掲示板に、旅団「黒き錬金鍛冶の旅団」を立ち上げる事と、「真紅鉄鋼」などの金属を入手した事を書いておく。
そうして鍛冶場に戻ろうとすると、背後から不気味? な笑い声がして振り返ると、そこには……見慣れぬ格好の少女が居た。
「ぬふふふふ……あなたがオーデスアイアですね?」
少女は黒ずくめの衣服を纏い、肩から紫色の(袖無し)外套を羽織っている。
長い艶やかな黒髪が、すとんと胸元にまで垂れ下がり。手には短い金属製の杖を持ち、両手は黒革の手袋をしている──変わった格好の少女であった。
「人違いです」
俺はやや不気味な(陰気な表情の)少女に背を向けて、鍛冶場に戻ろうとする。
「う、嘘を言うなっ! そこの店のオーデスアイアだろう! 前から居た爺はどうした!」
少女は怒り出し、手にした杖をぶんぶんと振り回す。
「爺さんならもう死んだよ。一月前くらいにな」
俺が言うと少女は陰気な顔をさらに曇らせ、弱々しい声で「そ、それはすまなかった……」と謝罪を口にする。悪い娘ではなさそうだが、あまり関わり合いになりたくはない類型の娘だ。
「だっ、だが、ここに居るオーデスアイアが昇華錬成というのをしたという──噂を聞いたぞ!」
「噂は噂なんじゃないか?」
自分で口にしながら何の頓知だと思う。
「ぉ……? そ、そうかもしれない──だが!」
少女は引き下がらない。
「こんな店は私の『猛牛の鉄兜』の敵ではなぁ──い!」
猛牛の鉄兜……大通りにある大きな鍛冶屋の名前だ。
「あ──つまり君は、大通りにある店の」
「店長アザビの娘、カーリアだ!」
「ぉっ、おぅ……」
もう帰ってもいいかな? みたいに鍛冶場を指差したのだが、少女はこう言った。
「なに⁉ 中に入れと⁉ むむっ……敵前逃亡などできぬ──いいだろう! 入ってやる!」
し、しまったぁあぁ──‼ 俺は心の中で自分の手を叩いた。ばかばか、面倒臭いのが入って来ちゃったぞ。
俺は取り敢えず少女をテーブル席へ座らせて、飽きるまで我慢しようと考え(旅団登録に行かなくてはならない)、建物の修繕用の釘だけを作っておこうと作業に入る。
炉の中に火を熾し、燃結晶を放り込んで火力を上げる。まずは鉄の延べ棒を溶かし、それを術式を設定しておいた器に入った水の中へ落として行く。
「な、なんだ? 何をしている……?」
「釘を作るんだよ」
少女は興味津々に作業を覗き込み、「こんなやり方で釘を作ってるのか」と声を漏らす。
「一本一本作るのは大変だし、大きさなどを揃えるのも難しい。このやり方は、ゲーシオンの鍛冶場でやっていた錬金鍛冶のやり方だよ」
俺はそう言って溶かした鉄を錬成容器に張った水の中に、ゆっくりと流して行く。
「危ないぞ離れてろ」
水に溶けた鉄が流れ落ちると、急激に冷やされたながら「じゅゅぅぅぅぅ──」と水蒸気を上げる。
器の中には無数の釘が出来上がり、それを火挟みで掴んで取り出して、テーブルの上に並べていく。
この作業を繰り返し、百本ほど作ると炉の中に溶かした鉄を戻し、今度は錬成容器の水を換え術式を変更する。
「今度のは今作った物よりも、小さな釘が出来るように術式を換えたものだ」
少女に説明しながら熱した鉄を取り出して、先程と同じ様に釘を錬成していく。
作業が終わると釘の強度を見せる為に、いらない木の板に突き刺して、金鎚で適当に叩いていく。少女は釘が折れずに木板に刺さっていくのを見て、声の無い歓声を上げていた。
「な、なんで商売敵にこれを見せた」
少女──カーリアは恐ろしい物を見た、と言わんばかりに目を見開いている。
「いや、なんでって……こういう技術はあらゆる場所に広がるべきだろう。というか広まるのが遅いくらいだ。この技術は多少工夫を必要とするが、多くの錬金鍛冶師に広まるべきだと思う、そうすれば多くの人が簡単に釘を手に入れられるようになるだろ?」
少女は「が──ん」と口にしながらよろよろと床に膝を突いた。なんだ、どうしたと俺がおろおろしているとカーリアは「ぬふふふふ……」と笑い出す。
「か、完敗だわ。敵に手の内を晒すだけでなく、大勢の人の事を考える懐の深さ……今日の所はあなたの勝ちよ」
い、いや、聞いてましたか? 鍛冶の技術は勝ち負けでは無くてですね……
「けど覚えてなさい! 今日の借りは必ず返してあげるわっ、オーデスアイア!」
少女はそう言うと鍛冶場を出て駆け出して行った。変わった少女に絡まれた上に、貸した覚えの無い借りを作ってしまったらしい──な、何を言ってるのか分からねぇと思うが、俺も何をされたか分からなかった──ってか、その前に。名前をちゃんと発音できるようになってからもう一度来てくれるかな……
オーディスワイアはカーリアが舌足らずだから「オーデスアイア」と言っていると思っているようですが、彼女が遠くから聞いた(話しを盗み聞きしていた)時にオーデスアイアと聞こえてしまい、勘違いしているのが正解だったりします。




