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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第八章 新たなる指標

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姉想いの暴走妹

妹の登場からはじまる急展開。

もともとオーディスワイアはレーチェを相当に気に入っていましたが。

 庭の広場で闘い合うカムイとレオシェルドを遠くに見ながら、椅子に座るリーティスの隣に腰かけた。

「縁談とか何とか……気が早いなんてもんじゃない。まだ互いの気持ちも分かってないじゃないか」

「あら、そうでしょうか? 私はお似合いだと確信していますよ」

「いや、そうじゃない」

 似合いだとか、似合わないだとか、そういう問題じゃないだろう。

「互いの気持ちがだな……」

 そう言いながら自分の気持ちはどうだったのか、という想いが湧いてくる。


「わかりました、ではもう一度お聞きします。オーディスワイア様は、私の姉であるレーチェ・ウィンデリアを愛する事はありませんか?」

 うぐっ、と言葉を詰まらせてしまった俺。

 急に問い詰めるみたいに迫ってきたリーティスの顔、怖いくらいに真剣な表情をした少女──その顔が、にっこりと微笑ほほえんだ。

「もっと自分自身の気持ちに素直になっても、よろしいのではないでしょうか」

 愛する事はないか、と聞かれると答えようがない。──と言うよりも、俺の周りに居る女性の中では、レーチェが一番、俺の好みの類型タイプにぴったりとはまるのは明らかだった。


 しかし、そうした想いに強く心を引かれなかったのは、火の神ミーナヴァルズや、水の神アリエイラの存在があった為だろう。

 彼女らとの(疑似ぎじ)恋愛的なやり取りがある為に、身近な女性達に好意に近い感情を抱きつつも、積極的に恋仲になろうとは思えなかった、そういう部分もあったのだと思う。


「素直に──ねぇ、いや、もちろんレーチェの事は好きなんだが……伴侶はんりょとか言われると、少し抵抗がある」

 まさか俺が水の神と、特殊な関係にあると言い出す訳にもいかず、俺は彼女にどう対応すべきなのか、神と人の間で揺れる──信仰心か、それとも愛か──といった心境だ。

「そんな事を言って、誰かにお姉様を取られてもいいんですか?」

 レーチェが誰かのものになる、という想像は──確かに嫌な気分になる。


「好きですよね? お姉様のこと」

 俺は迫ってくる少女の怖い笑顔に、渋々とうなずいて認めた。

「ま、まあ……結婚するとか、そういうのは置いといて、──好きではある」

 そう告白すると、リーティスは満足そうに微笑み、俺から離れて椅子に両手を突くと、「なら大丈夫です」と力強く宣言する。

「お姉様もあなたが好き、オーディスワイア様もお姉様が好き。まったく問題ありませんわ」

 少女の中ではすでに、そう決定してしまっているらしい。


 レーチェは今、レンネルと闘っていた。

 レンネルも剣と盾を使う戦闘定型(スタイル)になり、元々の防御力が一段と高くなった印象だ。

 レーチェとの真剣な闘いに周囲に居る新人達も、固唾かたずんで見守っている。

「お姉様の手紙に書かれていたのですが、オーディスワイア様も、以前は剣と盾を手にして冒険に出ていたとか?」

「ああ──ずっと前、金色狼こんじきおおかみの旅団に入ったばかりのころはね。それから攻撃特化の大剣に変えて、そちらの方が相性が良かったらしく、そのあとはずっと大剣だけを武器にしていたな」

 そうなんですかと言いながら、レーチェ達の闘いを見守るリーティス。


「では、お姉様と闘ってみせてくれませんか」と少女は唐突に言った。

「そして、お姉様に勝ったとき、オーディスワイア様から『おまえが好きだ、結婚してくれ!』と告白するのです」

 俺は思わず吹き出してしまった。

 無茶にもほどがある。

「ばっ……! むちゃくちゃ言うな、そんなことやる奴いるか!」

 どこの少女マンガだ。……こっちの世界にも、そんな展開の娯楽小説でもあるのだろうか。

 俺は少女の無茶な発言に頭を抱える。

 なんだか品の良いカーリアを相手にしているみたいな気持ちになった。あの少女も独特な発言で周囲の人間を混乱させる事がある。


 リーティスは俺の背中を叩いて、訓練に参加するよううながす。この強引さは確かにレーチェの妹だと思えた。姉の方もこれと決めたら、とことんまでやろうとするのだ。

 レンネルとの闘いもレーチェが制していた。どちらも高い防御と回避能力を持っていたが、レーチェの鋭く正確な連続攻撃の前に、レンネルは場外に追い出されてしまった。

「さあ、さあ、姉も休憩に入ったようですよ。次に場所があいたら姉と闘って、そして勝利の告白ですよ」

「しないしない、絶対にしないぞ」

 彼女は立ち上がると、体重を乗せて俺を押し出してしまう。


 よろよろと歩き出し、渋々とレーチェの居る方に向かって行く俺。

 後ろからは期待に目を輝かせるリーティスの視線。

 このまま逃げてもいいのだが、それでは格好がつかない。

 俺は溜め息をき、レーチェとエウラが話しているところへ近づく。


「あら、どうしましたか? そんな真剣な顔をして。……というか見てくれまして? あなたの教えてくれた戦法が綺麗に決まって、我ながら驚いてしまいましたわ」

 ん? ……ぁあ、盾を構えて突撃し、相手にわざとかわさせて反撃を取る技か。

「あの技は相手の動きを正確に予測して反撃すると同時に、盾で相手の攻撃を受け流すという、鋭い観察眼と反応速度が必要な──単純だが、高度な技だぞ。あれを使いこなすなんて正直おどろいた。かなりの戦闘能力(センス)があるんだな」

 俺が率直にレーチェをめると、彼女は少しびっくりしたような顔をして、こほんとわざとらしい咳払いをする。

「ま、まあ……あなたの教え方がよかったというのもありましてよ。感謝いたしますわ」

 エウラは「なんか二人とも、いつもと違う感じですね……」などと呟く。

「そ、そうですかしら……」

「気のせいだ」


 さてどうしたものかな……などと考えながらリーティスの方をうかがう と、じっとこちらを見つめて無言の圧力で訴えかけてくる。

 俺は溜め息を吐き、エウラに向かって「俺に革鎧と、木剣と盾を持って来てくれないか」と頼んだ。

「分かりました」と、彼女は理由を聞かずに武具を取りに行ってくれた。


「どうしましたの?」

「あ──ほら、あれだ。訓練に付き合えと言ってただろ? だから相手をしてやる……といのもあるが、お前の妹に言われたんだよ」

「リーティスに?」

「ああ」と答えつつ、どこまで話そうかと思ったが、面倒なので直球でぶつかっていく事にする。


「お前に訓練で勝って、『結婚してくれ』と宣言しろだとさ」

 ん──? という感じで首をかしげるレーチェ。

「はっ? ……はぁっ⁉ な、ななっ、なぜそんな話に……⁉」

「うむ、彼女の中では、俺とお前は『いい感じの仲』だと言うのだ」

 おろおろと焦っているレーチェを見るのは楽しい。

 顔を赤くしているのは、予想外の言葉をかけられたに所為せいにしては──赤くなりすぎだろう。


「まったく、あの子は……!」

「というか、見合いの話が出たのは本当か?」

 照れ隠しか、長い金髪をしきりに指先でいじっている。

「ええ、まあ……ございましたわ」

「そのときに、お前の態度が妙だったとか言っていた」

 具体的な内容には触れずに、わざと曖昧あいまいな言い回しをしたが、レーチェはその内容については覚えていない様子だ。


「妹が何を考えているかは知りませんが、オーディス団長が──そんな……けっ、結婚を申し込むなんて事には、どうしたってなりませんわ」

「まあそうなんだが」

 そうこたえながら、ここで引き下がっていいのか? と心に迷いが浮かんでくる。

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