オーディスワイア、レーチェへの想いを語る
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少々、小難しい性格だったオーディスワイアの回想。あんまり深く考えないように(笑)
「お姉様の気持ちよりも、オーディスワイア様のお気持ちはどうなのでしょうか」
両手を振り上げていたリーティスがぼそっと呟く。
妹は真剣な表情でこちらを見つめていた。
「それは……なんと言うか」
頭を掻きながら、どう答えるべきかと思案する──だが、リーティスが本気ならば、こちらもいい加減な返答はできない。それだけは確かだ。
「──そうだな。もちろん、レーチェはいい女だと思う。美人で体型も魅力的だし、強いし、性格も……まあ、ちょっと厳しい点に目を瞑れば、問題ないかな」
「なるほど、オーディスワイア様もお姉様を好きだと、そう受け取ってもいいですか?」
「好きか……と聞かれると困るが、まあ……好きだよ」
そうですかと、ほっとしたように溜め息を吐くリーティス。
「お姉様もそろそろ婚期ですし、何度かお見合いの話も出たのですが、ご存知でしたか?」
「いや、初めて聞いた」俺は驚いて、思ったままを口にしてしまう。
そうでしょうねと、少女は頷く。
「お姉様はそうした個人的なお話を、旅団のお仲間に広めるような人ではないでしょうから」
それは確かにそうだ。ちょくちょく家族や、治めている領地についての話を聞いたりはするが、個人的な事柄についてはあまり聞いた事がない。
「お姉様は冒険者という職業に就かれた事もあり、それを理由にお見合いをお断りしたと聞いたので、私は本当の理由をお尋ねしましたわ。『誰か、心に決めたお相手でもいるのですか?』と」
意外にもリーティスは強引な性格をしているみたいだ。姉に対してはぐいぐい迫っていく類型なのかもしれない。
その質問にレーチェは「そんな方いませんわ」と返答したらしい。
「それでは、気になる方がいらっしゃるの? そう聞くと、お姉様は少し考え口ごもったので、私はオーディスワイア様の名前を出したのです」
「そこでなぜ俺の名前が出たのか」
思わずつっこみを入れると、彼女は首を傾げる。
「それは──お姉様と話すと、たいていあなたのお名前が出るので」
そうかと返事しながら、なんだかむず痒い気持ちになる、事の内容が内容だけに。
「するとお姉様は言うのです。焦った調子で『何故そこでオーディス団長の名前が出るんですの!』みたいに。以前おなじような質問でリトキス様のお名前を出した時には、そんな風に焦ったりしませんでしたわ」
妹が姉の反応を見て「当たり」をつけた理由は分かったが、それが事実だとは限るまい。俺はそう反論した。
「いいえ、私には分かりますわ。お姉様は間違いなくオーディスワイア様を、異性として意識しているのだと」
そう断言するリーティス。少女は楽しそうに笑顔を見せる。
「それにしても、オーディスワイア様がお姉様に好意を抱いてくれていてほっとしましたわ。これでこの縁談は、うまく纏まると確信しましたわ」
「おいおい」
勝手にそんな風に話を進めたら、姉の雷が落ちるぞ、そう言うと少女はあっさりと言う。
「風の神ラホルス様ではありませんもの、お姉様の雷なんて、痛くも痒くもありませんわ」
なかなか無茶を言う少女だ。俺は肩を竦めた。
姉の婚期が遅れるのを心配している訳ではなさそうだが、妹には妹の考えがあるのだろう。
「お姉様は妹の私が言うのもなんですが、とても美人だと思うのです」
だからこそ変に言い寄ってくる相手より、ちゃんとした相手と結ばれてほしいのだと語るリーティス。
「まあ他の冒険者から、様々な秋波があるとは聞いているが、そういうのをまったく相手にしない女だぞ。杞憂というか、大きなお世話というか……」
そう呟いた俺に「少しは姉を取られるかもとか、心配してください」などと怒られてしまう。
「取られるって……いや、旅団長としては、有能な副団長を失うのは痛いとか、そうした事を少しは考えるがな」
恋愛感情でレーチェを見た覚えはない。
もちろん、いい女だとは思うが。
俺は身の振り方について、フォロスハートで今後どうやって生きていくかを考え、細々と錬金鍛冶師として生きていこうかと考えていたが、神々の推薦を受ける格好で旅団を立ち上げる事になり、あれよあれよと流れに流されて、多くの団員を育てる事に注力する事になってしまったのだ。
ずいぶんと色々な事に取り組み、考えてきたのだが、自分のこれからの事をすっかり失念していた気がする。
フォロスハートや旅団員の未来についてばかり考えて、自分の個人的な部分をおざなりにしてしまっていた。──いつから自分は、自分の個人的な幸せなどについて、あまり考えなくなっていたのだろう。
(そうだ、それはたぶん。以前に居た世界での、様々な情報の所為なのだ)
そんな風に思い当たった。
以前の世界とここフォロスハートでは、人の数がまったく違う。あらゆるものの規模が違うのだ。
以前の──地球での幸せというやつは、誰かが「善」だと決めつけたようなものに価値を与え、それを他人から押し付けられていたようにしか思えなかったものだ。
異性と付き合うにしろ、同性と付き合うにしろ、ある範疇の「幸せ」があり、それが正しいとする考え方に馴染めなかった。世の中には様々な問題が積み重なりつつあるのに、そうした事柄には目を瞑って、個人の幸せばかりを追い求めて平然と他者を無視する生き方に、俺はまったく価値を感じなかったし、理解する気持ちも持たなくなってしまった。
個人の幸せが世界の幸せになるならいいが、ある一部の人間が独善的に優位な立場にいられるような幸せなど、まやかしだと感じられた。
けど、フォロスハートではそうではないのだ。
人が生きる土地に比べ、まだまだ人口は少なく、これからの未来を引っ張っていく、新たな子供達に受け継いでいってもらうべきものがたくさんある。
格差や、つまらない差別などが少ないこの世界には、まだまだ積み重ねられる想いがある。
個人の幸福が、より大勢の幸福を誘うような世界にする事が出来るはずだ。
──そんな小難しい事に、頭を思い悩ませるべきではなかったのかもしれないが。
「オーディスワイア様とお姉様の縁談は、近いうちに私達の家族の間でも話し合われると思っていますの」
と言うリーティスの言葉が聞こえ、思考を停止させられた。
「ちょっ、待て待て」
俺はまたしてもこの少女に振り回されてしまう。




