疾風の籠手を二つ完成、新たな来客
籠手を作るオーディス、訓練する仲間たち、孤児院とメリッサなどなど……
大忙しなオーディス。
本当は昼食を取るべきなのかもしれないが、こうした作業では集中が大事だ。腹に何か詰めると雑念が入りやすい、油断なく作業に取りかかる為、敢えて空腹のまま錬成作業に入ったのだった。
それが功を奏し、二つの籠手はいい感じに疾風の籠手へと進化した。能力値の上昇もかなり高く、防御力や属性防御が特に高い数値を叩き出す。
「おお、これはいい。前に作った奴よりもまた一段といい感じじゃないか」
これならあの冒険者達も、わざわざシャルファーからミスランまで足を運んだ甲斐があるというものだろう。
仕事に満足した俺は、昼食から戻って来た徒弟に店番を任せて、いったん宿舎の方へ戻る事にした。
そこでは庭で戦闘訓練が行われていたが、中でもカムイとメイの実戦さながらの凄まじい格闘戦が繰り広げられていた。あまりに凄まじい攻防に、周囲で為す術なく見守るレーチェやユナ達。
「あ、いいところへ」
「あの二人を止めてくださいな、なんというか……このままでは、どちらも体を壊してしまうのではないかと心配ですわ」
レーチェの心配ももっともだ。カムイは腕や首、顔面にも打撃跡がはっきりと残されている。日々、顔面も固い物で殴ったりしているので痣にはなっていないが、手袋を付けているとはいえ──これ以上は危険だ。
「待て待て! おまえら、少し加減しろ!」
俺は二人の間に割って入り、互いの体を引き離す。割って入ろうにも、メイが後ろ回し蹴りを空振りした瞬間を狙って入らないと、危なくて近づけないほどだった。
二人ともかなり息を切らし、肩を上下させている。
「二人とも無茶が過ぎるぞ、訓練なんだからもう少し加減をだな……」
するとカムイとメイが「だいじょうぶ(です)」と同時に応えた。二人とも望んでこの猛烈な訓練に励んでいるというのは分かった。
「とにかく、今度の武闘大会はそんな激しい打ち合いをする場じゃない。剣を持って互いの技量を見せ合う場だ。命の駆け引きがある戦いじゃないんだ、あまり無茶をするな」
いいな? と冷静に説明すると、二人は渋々といった感じで納得する。
どちらも強くなろうという気持ちが強すぎるようだ。メイの方は、カムイが例の「黎明の白刃旅団」の連中に負けないように鍛えたいという、若干の私情が滲んでいたが。
宿舎の中に入ると、猫の囲いがある場所にリーファが餌を置いているところだ。子猫達が高い場所から飛び降りたりしながら集まって来る。母猫のライムは姿が見えない。
「リーファ、メイに言っといてくれ、あまり激しい訓練は無しだと」
「またカムイと闘っていたんですか? あの二人はいつもの事なので、まあ──怪我をしても軽傷ならユナも居ますし、大丈夫だと思って」
俺は半ば呆れつつ彼女ら「ザハム武術道場」の門下生は、闘いに対する考え方が根本的に実戦向けなのだと知った。
だがそれは、彼女らが日々の訓練からそうとう過酷な訓練をしてきた証であるだろう。カムイも日頃から格闘家みたいに固い棒で脛や腕、顔を殴りつけて打撃に強くなろうとしていたが。
「無茶は厳禁だぞ」
焼け石に水かと思うが、いちおう彼女にも忠告しておいた。
そうして調理場へ向かおうとすると、リーファが「食事、まだなんですか?」と声を掛けてきた。どうやら彼女も昼食を食べていないらしい。
その後はテーブルを挟んでリーファと遅い昼食を簡単に取る事になったのだが……
「焼き魚のほぐし身に……玉葱とレタスをパンで挟んだものか。調味料は──暗生草漬け調味酢。それに乾酪とトマトのレケットか」
飲み物は冷やした果実水だった。
「魚料理が増えたなぁ……」
「そうですね、街でも魚介類の入手が増えて、食糧難の恐れが減ったと言われてますよ」
「そうか」
「孤児院の職員が言うには、今年は飢えずに年を越せそうだと喜んでいました」
彼女の言葉を聞いて思い出す。そうだ、孤児院に寄付をしようと考えていたのだ。
管理局に金を持って行き、そこから各都市の孤児院に分配するよう言っておこう。──ついでに公園の遊具について描いた物を提出する。
よし、今日はこれでいこう。
食事を終えると部屋に戻り、金を入れた革袋と、遊具の簡単な設計図を手にして玄関に向かい、子猫達に声を掛けられながら庭に出た。
庭に居た旅団員は、多くが休憩をとっていた。俺はカムイとメイに「無理はするなよ」と警告してから宿舎を出ると、小走りに管理局へと向かったのである。
管理局の本館に行って、そこで金を預ける方が正当なのだろうが──正直、手続きが面倒くさそうだったので、設計図をメリッサに届けるついでに、彼女に金を孤児院に分配するよう頼む事にした。
「なんで私が」
遊具の設計図に目を通しながら不機嫌そうな声を出す。
「おいおい、いっつも俺に色々な手伝いをさせてんだ、少しはこちらの手伝いもしろ」
それに孤児院の後援は管理局の仕事のうちだろう、そう言うと彼女はお金を提供してくれる事については礼を口にする。
「しかし以前も話したはずですが、管理局でも孤児院の問題点を改善しようと動き出しているところです、安心して任せてほしいですね」
「まあ金が余ってもいいだろう、積み立てておいて、孤児院の建物や備品の修復が必要な時にそれを使ってやればいい」
そう言いつつ俺は「鍛冶屋に戻るぞ、あとは頼む」と背中を向ける。
「ちょっと待ってください、この設計図の新技術開発報酬を……」
「ああ、それは適当に計上してくれ、これから錬成しなきゃならん仕事が入ってるんだ」
彼女はピン撥ねなどしないだろうと安心して任せ、技術棟をあとにする。
鍛冶屋までの帰り道、カムイの為に新たな剣を作るとしたら、どういった強化錬成を付けるべきか考えながら歩いて行く。
魔法を使えないカムイの新たな剣には、剣気との相性がいい素材や強化を施すべだろう。神貴鉄鋼神結晶を冒険者用の武具に使ってもいいという許可は下りたが、誰にでもそれを自由に与える訳にはいかない。
そう考えつつ鍛冶屋の入り口を潜りながら、さっそく剣を鍛造しようかと思ったが、そこには新たな客が来ていたのだ。
「はじめまして」
とその少女は言った。
確かに初めて見る顔だった──が、どこかで見た覚えもある。
金色長いサラサラの髪、優しげな印象を受ける薄紫色の瞳はどこかで見た覚えがある。細身の体を青い清楚な衣服で包み、丁寧に会釈した少女。
俺は曖昧に──首を傾げるみたいな感じで挨拶を返してしまった。
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