改修工事の開始と訓練
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翌日からレーチェが言った通り別館の改修を行う業者が入ってきた。六人の職人達が建物内を見て回り、傷んだ床や壁や窓枠などの修繕箇所を見積もったものを見せてくれた。
「ぜんぶ直すのに……十二、三日はかかるかもしれません」
すでに二階の方では床を剥がし始めた音がする。
「そうですか、それではよろしくお願いいたしますわ」
レーチェと共に視察に来たが、職人はてきぱきと取り除いた資材を外に運び出し、一ヶ所に集めている。そうした古い板なども薪として再利用されるのだ。
宿舎の庭で団員達は訓練を始めている。
今日は若手が市外訓練場に赴いて訓練をし、庭ではカムイやメイ、エウラやレオが集まって訓練をしていた。その中にはユナの姿もある、彼女も体力をつける為に訓練を欠かさないが、今回は武器を使用しての訓練にも励むみたいだ。
「彼女もがんばっているな」
「ですわね」
庭に出た俺達はそんな感じで仲間の様子を遠くから見守っていた。
「レーチェも訓練をするんだろ? 怪我には気をつけてな」
「あら? 今日は戦闘訓練に付き合ってくださるかと思っていたのですが」
「いやいや、鍛冶の仕事とか色々あるんだよ。剣と盾の技はそんなに持ってないぞ? それも最近は使ってなかったし……」
彼女は「そう言わずに、対人戦闘にも慣れているオーディス団長の技を教えてくださいな」と申し出る。
「はぁ……対人戦闘の技をねぇ……、そんな成長よりも魔法の方面を伸ばした方がいいと思うんだが」
「そちらについても特訓中でしてよ」
ふふん、といった感じで胸を張るお嬢様。
「そうなのか、成長するのは胸ばっかりだと思っていた」
そう軽口を叩いた俺の尻を思い切り蹴りつけるレーチェ。
「いってぇ!」
「このようにリーファからも回し蹴りなどの特訓をしていましてよ。そのうち格闘術でもリーファやメイの次くらい強くなってみせますわ」
その強気な発言はいつも通りの無鉄砲さというか、傲慢なお嬢様気質からくるものなのか。
「ケツが割れたらどうしてくれる」
俺は尻をさすりながら鍛冶屋へ向かおうと歩き出す。
「あの、そういえばこんな話を聞いたのですが──海の事を知っているあなたなら、原因が分かるんじゃないかしら」
「あん? なんの事だ」
彼女が口元に手を当ててひそひそと説明する。
「最近は早朝の海──つまり『西海の大地』で、朝早くから漁をする漁師も居るらしいのですが、そうした人達の間で噂になっている事があるのです。なんでも海が青く光るのだとか」
暗い海が青く光る──?
「ああ、夜光虫の事か」
「ヤコウチュウ? なんですか、それは」
「小さな原生生物──つまり、目に見えるか見えないかくらいの小さな生き物がいるんだろう。夜光虫は波などの刺激を受けると青く光るんだ」
幻想的で綺麗なんだぞと説明すると、レーチェは興味を引かれたらしい。
「そうなんですか? それは一度みてみたいものですわね」
「運が良ければ波打ち際でもそうした現象が見られるらしい」
彼女はそうした風景を思い浮かべようとしているような表情をする。
「いつか見に行ってみるか」
休暇でもとって西海の大地に泊まり込んでな、冗談のつもりでそう言ったのだが、レーチェは乗り気のようだ。
「そうですわね、たまにはそんな風にくつろいでみるのもいいかもしれません」
……もしかするとだいぶお疲れなのかもしれん。
「おぅ、まあ──あまり無理せずにな」
そう言われた彼女はきょとんとしながら、「あなたも管理局に仕事を押しつけられないようにしなさいな」などと返してくる。
「だな──でもまあ、フォロスハートの為になる事なら協力しないといかんだろう」
俺はそう言いつつ軽く手を振り、鍛冶屋へと向かう。
まだ朝早い時間だが、ケベルとサリエは店の開店準備にとりかかっていた。
商品棚に飾られた武器や盾などの埃を落としたり、床を箒で掃いたりしている二人に朝の挨拶をし、研究室に入ると机の前に腰かけた。
「混沌結晶の在庫を確認するか」
素材保管庫の棚にある結晶を確認すると、あと数回分くらいの錬成に使えそうな量はある。
それ以外にも混沌結晶から分離した混沌鉄鋼などの在庫を確認し、改めてそうした材料から何が出来るかを検討していると、部屋のドアを叩く音が。
「あの、オーディスワイアさんにと、お客様が」
ケベルがそう伝えに来たのは昼食前の時間になった頃だった。集中していて時間の経過を忘れていたようだ。
「ん、そうか」
俺は鍛冶場の方に向かい、客だという二十代の若者に話を聞く事になった。それは二人組の冒険者らしく、素材を持ち込んで来ているようだった。
「どのようなご用件でしょう」
「えっと、これを……」
男と女の冒険者はどうやらシャルファーの冒険者らしい、青銀甲鼬の甲殻を麻袋から取り出してテーブルの上に並べた。
「なかなかの量だなぁ……疾風の籠手を作る依頼か?」
「はい」
二人分、と横に居た女が付け加える。
「それはいいんだが能力解放をするなら、シャルファーの鍛冶屋の方が安定するんじゃないか? あっちの鍛冶師の方が、青銀甲鼬素材の扱いに慣れていると思うんだが」
麻袋からさらに纏まった量の旋風鳥の羽や風の精霊石を取り出す。
「そうかもしれませんが、この鍛冶屋のオーディスワイアさんなら、もしかしたら通常よりもいい品質の物に錬成できる──かもしれない、と聞いたので」
「かもしれない、だろう? まあこちらは青銀甲鼬素材を使った錬成の訓練にもなるからありがたいんだが」
旋風鳥の羽や風の精神石でさらに属性強化をすればいいのか? そう尋ねると二人の冒険者は揃って頷く。
「了解した、では腕に合わせるから計らせてくれ」
そう言って二人の腕の太さや長さを紙に書き留めておく。そうしながら二人の要望を聞き、それも紙に書き込んでいった。
「それでは明日の昼過ぎまでに仕上げておこう。強化項目は『硬化』『劣化防止』『風属性防御強化』『防御力強化』か。……保証は出来ないが、まあやってみよう」
そう言うと二人の若者は嫌な顔もせず「よろしくお願いします」と言って、前金を置いて行ったのだった。
誰に俺の話を聞いたのか知らないが、相当に信用されているようだ。
俺はまず青銀甲鼬の籠手を、二人の腕に合わせた形に作り上げる作業に取りかかる。余分な甲殻部分を削ぎ落とし、可動域を確認しながら作り上げた籠手。
これに能力解放をして「疾風の籠手」に進化させる。
「さてさて、どうなることやら。まずは一つやってみるとしよう」
作り上げた籠手を手にして錬成台に向かう。




