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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第八章 新たなる指標

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会議にて訓練をするよう指示を出す

大会に向けて訓練をするよう求める。

まあ冒険に出るのは歩合制なので……普段から自由にしているはずだけど。

 食堂へ行くとレーチェが話しかけてきた。

「急なのですが、明日からもう一つの宿舎の改修工事をする為に業者の方がやって来ますわ」

「本当に急だな──いやまあ、そのあたりは任せるが、それよりも今度の武闘大会までカムイとリトキスは、冒険よりも訓練を優先する事になるだろうから、そちらの方も考えておいてくれ。エウラも剣気の修業をおこないたいようだから、冒険に出る人数は少なくなるだろう」

 そうですかと彼女は言い、少し考えてから「大丈夫でしょう、上級へ行かず中級難度の転移門を中心に冒険すれば、私達だけでも充分にやっていけますわ」と返答した。

「頼もしいな。──それと、これからは素材集めを行う時に石英なども集めてもらいたいから、そうした『金にはならないけれどそこそこ重要な素材』についても、捨てずに持って帰って来るよう指示を出しておいてくれ」

 そう副団長に指示を出すのも忘れない。


 俺の前の席に腰掛けたレーチェが嫌そうな顔をして俺の横を見る。──そこにはメイに抱き抱えられて不満そうな顔をしたライムの姿があった。

「ゥミャァアァァ~~」

 なんとも嫌そうな声を上げる母猫のライム。

 メイの足下には青毛の子猫もうろうろと歩き回っていた。

「ライムより子猫を抱いてやれ、踏まないようにな」

 するとメイは俺の膝の上にライムを放し、子猫を抱き上げると、俺から離れた場所でユナと並んで腰掛ける。


「食堂に猫を連れてくるなと何度いえば……」

「そう言うな、猫だって綺麗にしているんだから衛生的にも問題ないだろ」

 しばらくすると食堂に団員が集まってきた。食事を乗せた皿も運ばれてきたので、まずは食事をする事になったのだった。


 レーチェは食事の途中からリトキスやレンネルと何やら話し合っていたようだが、俺はライムをあやしながら食事を食べていた。

 海老を開いて香草ハーブと熱した油をかけて天火オーブンで焼いた物を食べ終え、俺はライムを抱き上げながら「ちゅうもーく」と声を上げる。


「明日から別館の改修工事のために業者が入る予定だ。あと十日もすればゲーシオンで開かれる武闘大会が始まる、カムイとリトキスは冒険には出ずに戦闘訓練にはげんでくれ。その訓練分の支給金は俺が出そう、あと武闘大会は──観戦に行くのは自由だ。たった一日の大会だが」

 エウラに視線を送る。

「あと、各自が剣気などの訓練をしたいと思う者は言ってくれ、せっかくレオが入ってくれた事だし、きっと力になってくれるはずだからな」

 急に話を振られて「んぇっ?」と妙な声を出すレオ。

 エウラが「よろしくお願いします」とレオに声を掛けると、分かったと重々しくうなずくのだった。




 そのあとも食堂では団員達の間で訓練の事や大会について話し合いが始まった。武闘大会を見に行く団員は少ないみたいだ、ヴィナーですらゲーシオンに行くかどうか迷っている様子だ。

「え~~カムイの応援かぁ……めんどくさ──い」などと言うヴィナー。

「いや、そこは同郷のよしみで行こうよ」

 ウリスはそうフォローするが、ヴィナーは面倒くさいという顔をしている。その二人の様子を見ながらカムイがむすっとした顔をしていた。

「おまえらなぁ……少しは幼馴染みの顔を立てろよ」

 思わずカムイが文句を口にする。

「仲良くやれよ、まあ俺もゲーシオンまで応援には行けないかもしれないが」

 俺はカムイ達にそう言いながら、さいきん鍛冶屋や管理局からの仕事の依頼で忙しいんだと断りを入れる。


 するとレーチェが手を挙げて提案を始めた。

「少し団員と話しましたが、訓練をしたい人は冒険に出なくてもいいのではないでしょうか。武闘大会が終わるまで冒険に出るのはやめて、皆で訓練に打ち込むのはいかがでしょう?」

 続けてレーチェはさいきん仲間内で、訓練に時間を割きたいという要望があったと説明する。

「皆さん自主的に強さを求めていらっしゃるようなので、わたくしもアウシェーヴィアさんやキャスティさんといった、金色狼こんじきおおかみを抜けた方達を探しているのですが──ええ、訓練教官として金獅子の錬金鍛冶旅団に加わっていただきたいと考えまして」

 レーチェ自身も訓練をしたいと考えているのだろう、レオからも剣技指導を受けているが、たびたび俺にも剣と盾を使った戦い方を教えろと戦闘訓練をふっかけられていた。


 するとメイがカムイに声を掛けた。

「なら明日は、みっちりと格闘の訓練をしよう」

「え、あ、ぅ、うん……」

 カムイは返答につまりながらもなんとか応える。その返事をするには、ボコボコにされるという覚悟が必要だったろう。

 普通は年下の、しかも体格的に小さな少女に格闘技でボロ負けするとは思わないだろうが、小さな鬼神などと呼ばれる彼女と闘うのは体力以上に気持ちが重要だ。

 負けない気持ちではない、打ちのめされても立ち上がる強い意志だ。

 無手の戦闘で彼女に勝ち得るのはリーファくらいだ、同門の姉弟子ですら最近では太刀打ちできないくらいに成長(いちじる)しいものがある。


 メイは俺と闘う時も、まず初めはそこそこの力で対応してくるが、段々と時間が経つごとにその速度や攻撃の回転率を増やし、激しい攻めになっていく。

 誰も彼女の本領、その極限まで戦い抜いた強者は居ない。

 リトキスやリゼミラですら、投げ技や関節技ありの闘いで彼女を負かした事はなかった。

 リゼミラは打撃力でならメイよりも上だが、素手の闘いでの戦闘感覚ならメイの方が上だ。相手の攻撃を読んでかわし、反撃するその動き。

 それは彼女の才能と、幼少期から積み重ねた鍛練の賜物たまものと言えるが、メイの場合──その意識のありようが格闘技むきなのだとも言える。


 一流の運動選手アスリートがやるように、自身のたのしみや、遊びなどを犠牲にして訓練に打ち込む姿勢。少女のそうした意志の強さがそのまま実力として開花しているみたいに感じられる。

 カムイには是非その強さや技術だけでなく、意志の面も見習って欲しいものだ。

 最近のカムイは熱心に訓練を続けており、若手の中でも急成長をしているのは明らかだが、さらなる飛躍をするのではと期待している。

 ますます強くなる為にも今度の大会で黎明れいめいの白刃旅団から出て来る冒険者と闘い、勝利して欲しいのだ。


 一人で強くなったなどと思い違いをしている若造に、あらゆる仲間や支えてくれる人々が居て初めて訓練に精を出し、迷わず冒険に出られるのだという事を頭に入れつつ、その仲間や同胞の為にも戦えるような戦士に成長してもらいたいのである。

「ぉ、お手柔らかにね……」

 弱々しい声でお願いを口にするカムイ。

「まかせて」

 少女はなかなかの塩対応で返すのだった。

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