通信技術の公開についての管理局の考え
通信技術の発達と展開。
一般に普及するにはいくつかの問題点がありそう。メリットも多いけどデメリットも多いという……
『すばらしい結果ですね』
神騎兵は周囲の知覚力が優れているのだろう、小さな画面の情報も読み取れていたみたいだ。
「ありがとう、監視飛翔体が得た情報を各機体が確認できるように、これから調整していこう」
予想よりも好結果が出たのは良かった、核は神聖銀鋼を使ったものなので、送信距離はどちらも同じ二百四十キロという結果が出た。外殻には左右されなかったが、今後は外殻に送信や受信の力を増幅する効果を付与できるかもしれないので、これからの研究によって進歩していくだろう。
「神騎兵の操作によって起動する監視飛翔体も作られるだろう。そうなれば今までよりも広い索敵範囲を得られるはずだ」
そう説明すると神騎兵はまた『すばらしい』と声を上げる。
「外殻の素材は移動距離には関係がなさそうな結果だが、今後は外殻にも通信距離を伸ばすなんらかの効果を付与できるかもしれないから、それは技術班の研究に任せるとしよう」
俺が発破をかけるとメリッサは「わかりました」と応えたのだった。
そのあと俺とメリッサは監視飛翔体や、映像鏡などについて互いの発想を述べ合った。これから付けるべき性能などいくつかあったが、それ以上に問題になったのは、この通信技術を一般解放するか否か、という問題についてだったのだ。
「まずは各都市の管理局と神殿に通信機──映像鏡を設置するところから始める事になるでしょう」
「俺が造った『通信魔法回路生成容器(通信機製造装置)』はうちの鍛冶屋に置いといていいんだな?」
「できれば管理局に預けてほしいのですが」
「あれを造るのは大変なんだぞ、少しは管理局の技術者も育てろよ?」
分かっていますよとメリッサ。
「冒険者にも通信機を持たせていいとなったら、旅団の団員用に通信機を作るとしよう」
そんな事を呟くと、彼女は「それはまだ待ってください」と言った。
「旅団の間で公平性を欠くとなると、あとあと問題になると思うので」
管理局ではすでにこの通信技術について話し合っていて、一般に広める事には否定的な意見が多いらしい。
「まあ通信技術や映像保存技術などは色々と問題が起こるだろうから、管理局としても慎重に扱うべきだろうな。それについては尊重するよ」
俺の返答に満足したらしい、メリッサは大きく頷いて通信魔法回路についての報告書に目を通す。
「これだけの術式を組み込むとなると、かなり膨大な量の魔力が必要になりそうですが──いったいどうやって?」
彼女の問いに俺は魔法と内気勁を組み合わせた「過剰集中」という、短時間で膨大な精神力を使っておこなう集中について説明した。
彼女は真剣な表情で聞いていたが聞き終わると、呆れたような表情をする。
「そんな無茶な事をしていたのですか……しかし、そんな器用な事を誰しも出来るという訳ではないと思いますが」
「それはそうだろう、自分の精神への集中をおこなえる者だけが、そうした技術に触れられるはずだ。まあ錬成容器の作製は、魔力の高い者に任せるのが一番だろうな」
俺はそこまで説明すると、一つ思い出した事を話し出す──子供の遊具についてだ。
「子供達がエウシュアットアの体を滑り台がわりにして遊んでいたのを見た。さすがにあれはないだろう、子供達のために遊具を作るべきだと思う。まだ図面にしてはいないが、いくつか思いついた物があるので、今度それを提出するから検討してほしい」
「遊具……ですか? いちおう鞦韆などはあると思うのですが」
「各都市や町の公園に設置すべきだ、それに学び舎(学校)もだ。遊具は出来るだけ体も鍛えられるような物を中心に、安全性にも注意した物が必要だろう。学校に関しては習字だけではなく、ちゃんとした道徳に冒険や世界の成り立ちなどについても教えるべきだ。これからは管理局もそうした分野に積極的に呼びかけると聞いているが?」
まくし立てる俺にメリッサは何度も頷きながら、それはもちろん五賢者の方々とも協議している最中だと応えた。
「いちおう世界のありようについては一般に説明してあるのですが、どうも理解されていないようですからね……」
そうなのだ、多くの人は知識で「世界は崩壊し、フォロスハートのような混沌に浮かぶ大地がある」と知っているが、それが事実であるとは思っていない節がある。
もともとの大きな大陸や海、そうしたものがある現実を見ていないと、自分が暮らしている世界が「崩壊したあとの大地」などと認識しないらしい。
生まれた時から転移門と他の世界を繋いでいる現状を見ていれば、それが自分の生きる世界のありのままの形だと思うのも無理はないのかもしれない。
「ところでこの通信技術は映像だけ、音声だけをやりとりする事も可能ですか?」
「もちろん。錬成容器の外側に取り付ける結晶を取り外して、目的の性能だけを持った核を作ればいい。あとはその核と接続する操作端末の形を整えるだけだ」
なるほどと頷きながら俺の渡した資料に目を通すメリッサ。
「それでは技術棟に戻りましょうか」
彼女の言葉を受けた俺は神騎兵に別れを言って、格納庫をあとにする。
「それではさっそく『通信魔法回路生成容器』を造るよう指示を出してきます」
技術棟に戻ると彼女はそう言って立ち去ろうとする。
「ああそうだ──聖銀鉄鋼が必要なんでしたね? これからは技術班でも神貴鉄鋼を使用しての合金精製もおこなうと思うので、あまり多くは回せませんが……」
「神聖銀鋼を使用するのはおそらく通信機の核だけだろう、それほど多くの神貴鉄鋼を消費するとは思えないが」
すると彼女は、その辺も含めて神殿側と話し合わないとなりませんね、などと言葉を残して去って行った。あとには彼女が声を掛けた職員が残され、延べ棒が保管されている倉庫に案内された。
「聖銀鉄鋼はあまり備蓄がありませんね、五本でよろしいですか?」
俺はその職員に礼を言って持ち運ぼうとしたが、さすがに五本を両手に持つと重い。
一階に台車があるので職員の手を借りて、延べ棒を台車まで運ぶようお願いして運んでもらう事にした。
二人の職員と共に台車まで延べ棒を運んでもらうと、俺は台車を引きながら管理局の敷地をあとにする。




