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錬金鍛冶師の冒険のその後 ー冒険を辞めた男が冒険者達の旅団を立ち上げ仲間の為に身を砕いて働くお話ー  作者: 荒野ヒロ
第八章 新たなる指標

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管理局での監視飛翔体の実地試験

新しい技術を試験する話。

通信技術の発達は人類史の中でも大きなものですね。

 管理局の敷地内に入り、迷わず技術班のある棟へやって来ると、ゴロゴロと音を立てる台車を引きながら建物の入り口にそれを停め、飛翔体と映像鏡などを手にして建物の中へ入って行く。

 職員と目が合うと、向こうは俺を知っていたようで、荷物を持ってメリッサの所まで運んでくれた。


「あら、どうかしましたか?」

 メリッサは机の前でなにやら事務作業をおこなっていたが、俺と職員が部屋に入って来るとこちらの対応に時間を割いてくれる。

「エウシュマージアの象徴しょうちょう武具を持って来た。それと監視飛翔体と映像鏡、これの実地試験をおこないたい」

 実地試験……とメリッサは口にしつつ、箱の中にしまわれた象徴武具の鎌を見る。

「いつにも増して素晴らしい出来映えですね、エウシュマージア様もお喜びになるでしょう。──この鎌を使って儀式をおこなうのは、もう少し先になりますが」

 管理局にもいろいろとやらなければならない事があるのだと訴えた。


「『神聖銀鋼シュレイセルヴァ』という神貴鉄鋼シルエヴァルリスを使用した合金を作り、その研究情報を書いてきた。んで、それに使用した聖銀鉄鋼エルファリクスを分けて欲しいと思ってな」

 そう言いながら神聖銀鋼の欠片かけらと報告書を手渡す。

「それはまた大胆な研究を……いえ、神殿から認められたオーディスワイアさんならではの手際ですね。しかし……」

 彼女は資料に目を通しながら、いろいろとやる事が……と先ほどの言葉を繰り返す。

「冬に向けての食糧の確保、燃料の準備、春迎祭儀の支度したくから、各神殿への神結晶の提供と使用について……などなど」

「お、おう……」

 彼女の「わたし忙しいんです」アピールに同調を示しながらも、これから神騎兵シュルトヴァーレンの格納庫へ行って、混沌こんとんに向かって監視飛翔体を落とす試験をしたい、と伝えた。


「それは私もぜひ見なければ」

 そうメリッサは言うと立ち上がる。

 俺と彼女はすぐにもろもろの道具を手に、神騎兵格納庫へ向かう。昇降機エレベーターに乗って監視飛翔体を操作する操作端末デバイスを見せた。

「これも試作品だが、軽硬合金フラウレグムで造った。これを握りながら小さな操縦桿そうじゅうかんを動かして操作する」

 手の中に収まる小さな金属(釣り竿の握りの部分を心象(イメージ))に、親指で操作する棒で移動を、人差し指で触れた部分を上下左右に動かすだけで、飛翔体の硝子鏡面レンズを動かして、あらゆる方向を見る事が可能だ。

「小指の下にあるボタンを押せば、移動方向に視線が戻るから安心」

「ふむふむ……しかし、よくこんな発想をすぐに形にできましたね……」

 メリッサは感心しつつ、なにやら疑問に思い始めた様子だ。


 まあ、ゲーム機も無い世界では、こうした発想は一つ一つ作り上げてから完成に至るものだろう。──その試行錯誤しこうさくごの部分をすっ飛ばして、いきなり完成させてしまったのはまずかったかもしれない。

「いやいや、いくつか作って試した結果、これがいいかなと思ったやつを持って来たんだよ」

 この発信器を飛翔体に読み込ませて、互いの通信が可能になるよう設定するんだ、と説明して話をらす。


 昇降機が下まで降りて行き、俺達はすぐに格納庫まで足を運ぶ。そこには二騎の神騎兵が待機し、大地の下に開かれた穴を閉じる金属のふたが閉められていた。

 メリッサはすぐに職員を通じて責任者に許可を取ると、混沌へと通じる穴の入り口を解放する。


『おや、いったい何をするのですか?』

 神騎兵が床に片膝を突いたまましゃべり出す。

「うん、監視飛翔体の試作機が完成したので、それの実地試験をしようと思ってね。上手くいけばいいんだけど」

 メリッサに二種類の監視飛翔体、操作端末、映像鏡の三つを繋ぐやり方を説明し、彼女にやってもらう。誰もが使えるようにならなければ意味がない。


「起動しました」

「これでこの操作端末のある場所が記録された、離れていても自動的に戻って来る事も可能になったはず」

 監視飛翔体の接続状況が映像鏡の隅に表示され、現在地や高さ、距離などが数値化される。

「よし、設定完了。あとは混沌へ落として構わないぞ」

 彼女はうなずき穴の上に手を伸ばすと、手にしていた二つの丸い監視飛翔体を落下させる。一つは神聖銀鋼で造り、もう一方は軽硬合金で造った物だ。


 混沌にぶつかるまでのわずかな時間。

 そこは様々な色にあふれた世界だった。

 が、混沌の中に突入すると鏡は一瞬、真っ黒になってしまう。

「混沌に入った?」

「大丈夫」

 映像鏡に何かが映り始める。

 それは混沌の中を映像化したもの。

 黒や灰色、青色や白色で表示される混沌の中を表した映像。

「これは……?」

「混沌の中にある物質や魔力、あるいは混沌の濃度などを映像化したものだ。いくつかの類型タイプに変更して表示する事もできるが、いまは必要ない」

 画面下にある数値がどんどん飛翔体が遠ざかっている事を示している。


「操作してみろ──ああ、操縦桿は触らなくていい、人差し指にある硝子鏡面を動かす硝子部分だけなぞるんだ」

 操作端末を渡すと、メリッサは指先で混沌の中を見回している。俺は軽硬合金で作った監視飛翔体を操作する。

「あの光は──?」

「混沌の中にある──魔力の集中している場所だな、距離は──三十キロは離れているらしい」

 近くで見ていたここの職員らも声を上げて興奮している。

「この映像があれば、混沌の様子を探る事ができますね!」

 そうだ、今までは神騎兵が持ち帰った情報を確認する事しかできなかったが、これからは画面を通して直接、混沌の様子を調べる事が可能になったのだ。


「あっ! 何か近づいて来ます!」

 メリッサが声を上げる。

「ん──、あれは神騎兵じゃないか?」

 遠くにある白い光が迫って来た。

 それはぐんぐん近づいて来て、凄い速度で横切って行く。

 大きな武器を手にした姿がはっきりと見えた。

 混沌の中でも彼らの放つ力がしっかりと映像化されている。


「この鏡に映し出される混沌の内部映像は、あくまでも擬似的なものだ。未知のもの──監視飛翔体では検知できない力などもあるかもしれない、それはこれから分析していかないとな」

 その混沌を表示している画面からは、あるものを思い起こさせた、それは宇宙空間だ。暗闇の中に浮かぶ無数の星が放つ光。もやが溜まるみたいに見える場所や、大きな暗い光を放つ場所など、様々なものがそこには見えていた。

 飛翔体はなおもフォロスハートから遠ざかり続けた、どこまでも深く混沌の中を突き進む。

 俺はメリッサから操作端末を取ると、飛翔体を斜めに飛ばしたりしながら、まだこちらから動かせる事を確認する。


「まだまだ行けそうだな」

 距離にして八十キロは離れている。

 混沌の中でも通信は途切れずに映像も送れるし、操縦する事も可能だと分かった。これだけでも充分な成果と言えるだろう。

 混沌との反発力を活動力エネルギーに変換し、さらには混沌の中に漂う魔力を吸収する事で、長時間の行動を可能にしている。

「成功だな」

 活動力を表す数値ははっきりいってほとんど消費していない、落下した勢いのまま移動し続けている為かもしれない。

 その後もグングンと距離は伸びていき百五十キロを超え、二百キロに迫ってきていた。

「まだ操縦できますね」

 メリッサは周囲を見回したり、飛翔体を移動させている。

 映像鏡に映し出される映像もおかしなところはない、最初の頃と変わらない様子だ。


 その後、二百五十キロ近くに迫って来たところで異変が起きた。

「あっ」

 映像鏡の中央に「信号消失」の文字が表示されたのだ。

「急に画面が真っ黒に」

「待って、操縦桿には触れるな」

 しばらくすると信号消失の文字が消えた、復旧したのだ。ただしそれは、信号が消失する手前まで監視飛翔体が自立移動をおこなって戻って来たのである。

「どうやら情報を見る限り、二百四十キロを超えたくらいが限界距離みたいだな」

 俺はそう説明しながら操作端末をメリッサから取り上げ、自動操縦に切り替えた。

「こうすればフォロスハートまで勝手に戻って来る」


 活動力などはまだまだ余裕がある。というか数日間の偵察くらいなら混沌の中から活動力を少しづつ補給できる仕様なので、それを含めて予定通りの結果だった。

 外殻に神聖銀鋼を使った方は、軽硬合金のものよりも活動力の残量が若干じゃっかん多かった。混沌との反発力から得られる力が多かったのだろう。

 そうした発見も含め、これからさらなる研究が待たれるところだ。

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