神貴鉄鋼を使った合金の研究
高い評価をしてくれた人に感謝~
読んでくれてありがとうございます。
あとは監視飛翔体の外殻を含む構造だが──これは球体がいいだろう。混沌の力を退けながら活動する為、外側を覆う部分には対混沌防御力を持たせた金属で作るのである。
この外殻部にも神貴鉄鋼を使用したいところだが、別の合金で間に合わせるとしよう。おそらく予備も含めて大量に必要になる物だ、その一つ一つに神貴鉄鋼を使用していたら、神貴鉄鋼を使い果たしてしまう。
「魔力回路を生成しやすい合金でも作り出すか」
などと気楽に言ってしまうが、それを新たに創造するのは困難だ。長期の研究を行っていても、必ず良い物が創造できるようになるとは限らないし……
誰かがそうした金属を作る基礎研究をしていてくれるなら、ありがたいのだが。
そうした活動に従事している連中と言えば──当然、管理局の技術班だろう。だが、そうした金属が作られているとは聞いた事はない。
ん……待て、外殻の金属を決める前に、神貴鉄鋼と他の金属の合金を作り出す実験をしよう。
一対一で混ぜ合わせた小さな金属を作り出して、それを鑑定に掛け記録を付ける。これが神貴鉄鋼を使った合金を作る基礎研究の第一歩だ。
鉄や銅などの小さな金属片を溶かし、溶けた神貴鉄鋼と混ぜ合わせる。銀や金、さらには聖銀鉄鋼も用意し、未知の金属を作り出す。──こうした地味な実験は楽しい。なにができるか分からない楽しみがある。
それぞれの合金を冷まし、固まった物を鑑定に掛ける。金属の性質を事細かに書き記し、硬度や弾性について書くと、魔力との相性なども確認していく。
銀と神貴鉄鋼の合金に期待をしていたのだが、魔力との親和性は向上しなかった。むしろ鉄との組み合わせの方が、魔力回路の生成に適した物になった。
「神貴鉄鋼か鉄か、それとも双方になんらかの働きがあるのか?」
最後に魔法抵抗の高い聖銀鉄鋼との合金を鑑定に掛けると、面白い発見をした。
「おっ、魔法抵抗値がわずかに低下したが、魔力回路の生成に対応できそうな数値じゃないか」
それはちょっとした発見だった。
魔力回路を生成しようとすると、魔力結晶などの力と反発してしまう聖銀鉄鋼が、神貴鉄鋼を加えただけで、魔力回路を作り出す可能性を持てたのだ。
「しかし、魔法抵抗値が下がったとはいえ──何故だ?」
詳しく鑑定してみると、合金の性質が奇妙な二重構造になっているのが分かった。
魔法抵抗と魔力回路の複合型の金属とでも言える合金で、魔力回路に様々な効力を付与すれば、聖銀鉄鋼よりも魔法抵抗値の高い金属となるだろう。
さらに別の力も付与する事も可能なので、聖銀鉄鋼よりも自由度の高い金属となるのは間違いない。
この合金を使って監視飛翔体を作れば、混沌の力から守りつつ、遠くへ偵察しに行って調べたものを送信する事もできるだろう。
あとは配合の割合をどうするかだ。
できれば神貴鉄鋼が少なくて済む配合率を目指したいところ。俺はそこから鉄と神貴鉄鋼、聖銀鉄鋼と神貴鉄鋼の組み合わせだけを選び、配合を変えた物をいくつか作る事にした。
地道な作業の結果、鉄<七>に対し、神貴鉄鋼<三>の配合が合金としての強度でも安定していると結論づけた。
聖銀鉄鋼<八>に対し、神貴鉄鋼<二>の割合が強度、魔力回路の安定性、魔法抵抗値など──それぞれの値が優れているのを見出した。聖銀鉄鋼よりも硬度は少し落ちるが、錬成で補強すれば通常の防具としても充分な効果を期待できる金属と言える。
他の組み合わせや配合割合についても紙に記し、それを技術班に提出しようと思う。今後の開発の糧になれば結構な事だ。
さっそく試作品となる監視飛翔体を作ろうと、聖銀鉄鋼と神貴鉄鋼の延べ棒を溶かす作業をケベルに任せる。
ところがケベルに手渡した聖銀鉄鋼の延べ棒以外が見当たらない。
「お? 聖銀鉄鋼が……無い、だと……」
聖銀鉄鋼だって割と貴重な金属だ。なにしろゲーシオンにある転移門からしか採掘できない。
「聖銀素材の武具を身に着けている敵も居るから、そいつから奪った物を還元する方法もあるけれど」
それにそうした敵の中には、金属の延べ棒を持っている者だって存在する。そうした敵と遭遇する機会は多くはないが。
宿舎にあった延べ棒や鉱石は、全部こっちの倉庫に運んでしまったはずだ。
仕方がない、店で購入して──いや、それよりも先に技術班の所に向かって、聖銀鉄鋼を分けるように頼むか。メリッサならば協力を惜しまないだろう。
まあどちらにしても、監視飛翔体用の合金を作り、試作機を作ってみよう。設計図はできている。むしろ通信魔法の核となる部分を作るのが一番の難題だった。その金属と神結晶を組み込み、外部からの通信で浮き上がって移動する魔法を魔力回路に組み込めば完成だ。
もちろん飛翔体を操作する端末も準備する。
その技術は古代の遺産から得た知識の応用で可能、魔力炉についても問題はない。
飛翔体の構造は大気中と混沌、二つの領域どちらでも活動可能なよう設計した。
内部に入れる魔力結晶がその活動力の一つだが、外殻に触れる混沌の圧力を活動力に変える方法も考えてある。
それは実際の試作機で実験しながら取り組むが、混沌結晶を使った実験で、そこそこの成果が得られているのだ。
「聖銀鉄鋼と神貴鉄鋼を溶かしました、並べて置いてあります」
ケベルの呼び掛けに礼を言いつつ、俺は二つの金属を混ぜ合わせ、合金を作り出す作業に入った。
「この特殊な合金に名前を付けてやる必要がありそうだ」
そうだな──二つの名前を合わせて、「神聖銀鋼」などと命名するのがいいかもしれない。
「神貴鉄鋼を使った合金を管理局の方では、作っていなかったんだろうか?」
もしかすると神貴鉄鋼は管理局の中でも特別な扱いを受ける金属なのかもしれない。そう言えば神貴鉄鋼を届けに来たのは神殿の職員だった、神貴鉄鋼を保管しているのは神殿なのだろうか。
……そんな事よりも、聖銀鉄鋼を確保しなければ。まさか保管していた物がここまで少なくなっていたとは。
聖銀鉄鋼の補充をする為に管理局の技術班に協力を要請しよう。
その他いくつかの事についても管理局に訴える良い機会だ。大きなお世話かもしれないが、ここフォロスハートがより良くなる為の意見具申に、彼らも積極的に取り組んでくれる事を願おう。
その前に、錬成容器を使って「通信魔法回路」を組み込んだ核を作って、それを管理局に持って行こう。すぐに通信距離を測る実地試験にも協力してくれるかもしれない。実地試験とは言っているが、要は深い穴から下に物(試作監視飛翔体)を落とすだけなのだ。
観測用の受信機も必要だし、さっそく作ろう。
神聖銀鋼を使って核を作り、硝子鏡面を取り付けた映像通信が可能な物を二つ作り出す。
外殻には神聖銀鋼と軽硬合金で作った二種類の監視飛翔体を用意した。
「おっ、石英が無くなりそうだ」
硝子を作るのに必要な材料も無くなりつつある。
しまった……ここ最近、素材の買い出しに行ってなかったのを思い出す。多くの素材集めを団員に任せっきりにしていた為、彼らが見つけてくる鉱石や素材ばかりが集まる、という偏りが生まれてしまったらしい。
「管理局の帰りに素材屋に買い出しに行くか」
俺は台車を用意し、神聖銀鋼の欠片と作製記録、試作監視飛翔体や映像鏡、それとエウシュマージアの為に造った象徴武具である鎌を箱に入れた物を乗せ、管理局の技術班まで引いて行く。
ケベルやサリエも手伝うと言い出したが「老人扱いすんな」の一言で断り、時間になったら鍛冶屋を閉めるよう言って台車を引き始めた。




