錬金術や魔術を教えてくれた人
たくさんの高評価にブックマークありがとうございます。
ここ最近の話は堅苦しい錬金術の作業内容ばかりで申し訳ありません。
そしてもう一つ謝らなければなりません。
しばらくの間、更新を停止します。
もう一度、創作への意欲を高めてから仕切り直したいので、引き続き応援していただければありがたいです。
「ど、どうしたんですか? 苦しいんですか?」
ユナがオロオロと声を掛けてくる。
椅子に座って食事を前にした俺は、彼女の声に首を傾げる。──すると、頬を伝う涙に初めて気がついた。
自分でも気づかなかったが泣いていたようだ。
俺は腕で涙を拭うと「なんでもない」と少女に答える。
突然、俺の心の中に──神々と仲間達への感謝の気持ちが溢れてきた。孤独な闘いの日々、そうした生き方はこちらの世界では必要ないのだ。
今までの世界は、あまりに多くの人々がつまらない対立意識を剥き出しにしていた。
通信技術が発達し、異なる価値観、住む地域(環境)、所属する社会が異なる者同士が距離を置き、当事者で無いからこそ語れる、客観的判断を話し合ったりする事の出来る環境を持ちながら、彼らは互いに言い争いを繰り返し、侮蔑の言葉ばかりを吐き続ける。
相争う姿ばかりを目の当たりにし、人間というものに期待をしなくなりつつあった俺。
神の言葉など期待する事も叶わない。何故なら向こうには言葉を発する神など存在しなかったから。
こちらには俺を気に掛けてくれる神が。──生き、死んで逝く人々を見守る、神が在る。
それだけでこんなにも心を救われる。
仲間達の存在もそうだ。
ふとした事でも俺を気に掛け、助けてくれる仲間達。
彼らの心配そうな声が聞こえる。
俺は心が温まる様な、そんな気持ちになった。溢れそうになる涙を堪えながら、何でもないと強がって見せ、食事に手を伸ばす。
(俺も年を取ったのかな?)
年を取ると涙もろくなると言うが──まあ、そんな事よりも。
周囲を混沌に取り囲まれながらも、神々の手によって守られているフォロスハート。神々も混沌を退ける為に戦っているのだと思うと、こちらも弱音を吐いてはいられない────そんな風に思う。
仲間を頼り、神々を頼る。
だがその為には、俺が奮い立たなければ。俺は俺の意志で混沌との戦いを求めたのだ。あの混沌を討ち倒し、フォロスハートを守る為に。
食事を食べ、風呂に入ると、俺は少し落ち着きを取り戻してきた。
湯船に浸かりながら、錬成容器の構造をもう一度、じっくりと考えてみる。
部屋に戻った後も、机を前にして全体的な形から、細かな部分の修正を試みる。──いくつかの修正点を見つけ出すと、その内容を簡単に書き記し、その日はゆっくりと体を休める事にした。
*****
翌朝になると、朧気に見ていた夢の内容を思い出す。
その中で、懐かしい人と会話していた気がする。
俺は夢の中で鍛冶屋の研究室に居て、通信機や監視飛翔体の設計図を前に悩んでいた。──すると、その人物が現れて「ここはこうしたら」とか、「この部分は簡略化できるだろう」などと説明してくれた。
夢の中では少しも不思議に感じていなかったが、それはあり得ない事なのだ。……何故ならその人物は、俺が以前に居た世界の人なのだから。
夢とはそういった、現実では起こり得ない事柄でも容易く受け入れさせ、違和感を感じさせない。──いや、夢の中はそうした「理性的判断」といったものが存在しないのだ。
そもそも、あの人と別れてから数十年が経っているというのに、夢の中に現れたその姿は、まったくあの頃と変わらない姿なのである。そんな事はあり得ないだろう。
(……いや、あの人ならあり得るか……?) 夢の原理は脳内の電気信号のやり取りで生まれる、副産物みたいな物だと考えられている。色々な過去の記憶や、思い出の中から結びついた電気信号が、あやふやな世界の中で誕生して見せる、不可思議な情景。
あの人が居れば錬金術や魔術を用いて、混沌の正体を解明してくれただろうか。
俺に錬金術への取り組み方を教え、導いてくれた──あの人なら……
例によって朝の習慣をこなし庭に出ると、神への祈りと感謝を捧げる。そうしていると、夢に出た人物がふと思い出されたが、あの人物とは錬金術を学び始めてからは、ほとんど会わなかった。
資料の提供を少し受け、学び方や方法について忠告を受けただけで、後は独学で学んだ物ばかり。思考と実験、それが錬金術の基本だ。
別に仲の良い仲間でも無く、友人でも無い。
だが、あの人から学んだ錬金術があったからこそ、俺はこちらへ来る機会を得た。強い影響を受けた事は間違いないが、それほど親しい関係では無かった。
懐かしい人物を思い出しながら宿舎に戻る。玄関先に居た青い子猫が、こちらを見つめ「ニャァ──」と小さな鳴き声を上げる。
白い子猫と一緒になって、こっちへ近づいて来た。
玄関先に腰掛けて二匹の子猫をあやしていると、階段からユナとメイが降りて来て、挨拶をしてくる。
「ああ、おはよう昨日はすまなかった」
ユナにそう言うと、彼女は首を横に振ってから「けど、体調には気をつけてください」と言ってくれる。
メイは気にする様子も無く、俺の側に来ている子猫達に手を伸ばし、逃げられてしまった。
「食堂に行こう」
落ち込んでいるメイに声を掛け、俺は廊下を歩いて食堂へと向かう。
朝食の献立はパンに、豆の入った生野菜料理に目玉焼きなど、簡単な物が並んだ。燻製豚バラ肉を焼いた物が大皿に乗せられ、食べたい者は次々にその皿に手を伸ばす。
俺は厚めに切られた一枚の肉を皿に取り、静かに朝食を食べながら──心はすでに、造るべき物に集中を始めていた。
気づけば鍛冶屋の方に来ていて、設計図を机の上に置き、最終点検に入る。簡略化された錬成容器は、最初に考えていた物よりもずっと小型化された物になる。
最初の物はド○フで使われる様な、大きな盥くらいの大きな物になる予定だったが、最終的にはちょっと大きなすり鉢くらいの寸法になるだろう。
「あの盥って頭に落ちてきたら、相当な衝撃だろうなぁ」
柔らかく軽い材質の物で作られた物ではあるだろうが、洗濯に使われていただろう大きさの盥だ。下手をしたら大惨事になりそうだ。
「首がグキッてなる、グキッて」
真ん中に当たればいいが、角に当たったら大変だ。きっと角に当たって悶絶した時もあるだろう。
設計図を確認し終えると、用意していた素材を持って炉の前に向かう。──まずは大きな金属の容器を形作るのだ。
神貴鉄鋼に銅、魔力結晶なども溶かし込んで成形する作業。問題は魔力回路が全体にきちんと配列されるかだ、これが出来なければ「通信魔法回路」を生成する術式を構築できない。
熱い炉から溶けた金属を取り出すと、それを専用の作業台に乗せ──熱くても我慢し、耐熱手袋を使って形を整えていく。
象徴的な紋様を大まかに形作り、水晶などを填め込む窪みも用意する。
こうして魔力回路の通った容器は完成した。
冷ました容器を作業台に運び、椅子に座る前に設計図を準備しておく。
いよいよそれに「通信魔法回路」を生成する術式を組み込む錬成を開始する。
急にオーディスワイアがメソメソしたのには理由があります。──精神世界では言葉ではなく、精神の直接的なやり取りが交わされる為に、風の神の慈悲に溢れた想いが強力な精神感応となって影響を受け、感情の波が大きな物となって彼に降りかかったのです。
地球に居た頃の彼に魔術や錬金術の知識を教えた人については──登場する事は無いでしょうが、彼の記憶の中では登場するかもしれませんね。




